2021年6月20日 (日)

幻冬舎ゴールドオンラインでの連載

幻冬舎ゴールドオンラインでオーストラリア法務に関する記事を連載させていただけることになりました。

初回は「日本企業のオーストラリアにおけるM&A・事業投資の最近の状況」についての記事となります。

米中対立を受けての中国からの投資激減、コロナ禍による豪州の厳格な入国規制、世界的な脱化石燃料の流れ等が豪州における日本企業の投資活動に及ぼしている影響を説明しています。

コロナ禍の豪州、「日本企業」に有利なM&A環境が生じた3つの理由 | 富裕層向け資産防衛メディア | 幻冬舎ゴールドオンライン (gentosha-go.com)

豪州の最近の状況についてまとめたものであり、内容の賞味期限が短い記事なので、ぜひお早めにお読みください!

2021年4月18日 (日)

オーストラリアの法律や経済に関する最新情報の収集方法

今回は私がオーストラリアの法律や経済に関する最新情報を得るために使用しているリソースをご紹介します。

私がこのオーストラリア法ブログで記載している情報やTwitterで発信している情報は以下のリソースから得た情報を元にしていることが多いです。

 1.Lexology 

オーストラリアの法律事務所が発信している法律最新情報記事(Alert)やオンライン出版物の情報をカテゴリーごとにまとめてメールで配信してくれるサービスを提供しています。週に23回配信され、これに目を通していればオーストラリアの法改正の動きを逃すことはないと思います。無料のサービスで素晴らしいです。有料で同じようなサービスを提供している会社がいくつかありますが、自分で3つくらい使用してみた結果、このLexologyで十分と思いました。

 2.Australian Financial Review 

オーストラリアの多くのビジネスパーソンが読んでいると思われる、日本の日経新聞に相当する新聞です。私は日経新聞とAustralian Financial ReviewAFR)の両方を毎日読んでいるのですが、AFRの方が興味分野が細かく分けられており、また、業界のうわさ的な記事も載っています。たとえば、AFRにはPropertyという不動産専門のセクションがあるのですが、ここではどの都市のどのビルがWaleがどれくらいでCap Rateいくらで誰が誰に売却したといったような具体的な情報が記載された記事が出ています。また、Street Talkというセクションがあり、公表されておらず水面下で動いているM&Aの交渉などのうわさが書いてあったりします。AFRを読んでいればオーストラリアの大きなM&A取引や不動産取引の動きを逃すことはないと思います。月59豪ドルを支払って購読していますが、その価値は十分にあると思っています。

小さな取引も含めてオーストラリアのM&A取引や不動産取引の最新情報をおさえるためにはMergermarketがよいですが、このサービスは有料であり、また、大きな取引はAFRでおさえられるし、日系企業関係はMarrでおさえられるので、今のところMergermarketは購読しなくてもよいかと思いっています。

 3.Marr Online

Marr Onlineでは日本企業による日本国内外のM&A取引が細かいものも含めて速報でメールでお知らせしてくれるメール配信サービス(12回くらい配信)を無料で提供しています。配信されるメールのうち、オーストラリアに関するものはチェックしますし、また、自分のクライアントである企業やオーストラリアに進出している企業のM&A情報はオーストラリアに関連しない取引情報であってもチェックします。

 4.Queensland Law Society

クイーンズランド州弁護士会は月1くらいの頻度で最新の法改正や会員向けセミナーなどの情報を記載したニューズレターを発信しています。ただ、このニューズレターは、クイーンズランド州弁護士会のメンバーしか受信できないかもしれません。

また、クイーンズランド州弁護士会のVirtual Legal LibraryLexisNexisThomson Reutersなどの判例・情報検索システムも小規模な事務所のためにオンラインで提供しています。これらの検索システムの導入は非常に高額であり小規模事務所にとってかなりの負担となるため、このサービスは非常にありがたいです。

あとは、NNA(オーストラリアの新聞記事を日本語で提供する有料サービス)やJetroシドニー事務所のニューズレター(オーストラリアの法改正・経済動向やセミナー情報が記載されている。無料)なども有益かと思います。

上記以外で有益なサービスがあれば、ぜひ情報をご共有ください。

2021年4月 7日 (水)

Casual Employee(臨時従業員)に関する法律改正

今回の記事は、202088日に掲載した2つの記事(Casual Employee(臨時従業員)に関する問題(1)(2))の続編の記事になります。

上記の2つの記事で問題になっていたCasual Employee(臨時従業員)に関する問題について、法律改正により解決がなされました。

<参考>今回の法改正に関するオーストラリア政府の説明

Casual Employeeの該当性について争われている裁判(WorkPac Pty Ltd v Rossato)は、は現在オーストラリアの最高裁(High Court)に係属中ですが、今回の法改正は、この最高裁の判断を待たずに、立法的に問題の解決を図ったものといえます。

2021322日にオーストラリア連邦議会で可決されたFair Work Amendment Supporting Australia's Job and Economic RecoveryAct 2021Cthにより、オーストラリアの労働基本法であるFair Work Act 2009Cth)(FWA)が2021327日(改正日)より改正され、以下のような変更がなされました。

1.Casual Employee(臨時従業員)の定義の制定

改正後のFWAでは、Casual Employee(臨時従業員)の定義が規定されることになりました。Casual Employee(臨時従業員)は「仕事が継続して無期限にあるとは限らないという前提で雇用されることになった従業員」をいうと定義されました(改正FWA15A条)。

Casual Loadingが支払われているどうかではなく、また、雇用された後にどのような形態で勤務したか否か(規則的なパターンで勤務を続けたか否かなど)は関係なく、上記のような前提で雇われることになったかどうか、という点がCasual Employeeの該当性の判断基準となります。これは「安定して(Stable)規則的(Regular)かつ予測可能な(Predictable)シフトで勤務しているCasual Employeeは正社員とみなす」というCasual Employeeの判断に関する裁判所の基準を否定して覆すものといえます。

2.正社員(Permanent Employee)への変更権

Casual Employeeの定義は雇用者側にとって有利ですが、これのバランスを取るものとして、改正後のFWAでは、雇用者は、「12ヶ月以上雇用されており、かつ、直近6ヶ月以上において規則的なパターンで継続的に勤務したCasual Employee」に対して、正社員(Permanent Employee)への変更のオファーをださなければならないことになりました(改正FWA66B条)。但し、オファーを出さないことに合理的な理由がある場合(今後12ヶ月以内に当該Casual Employeeが担当している職務が無くなる場合や職務の分量が大幅に減少する場合、当該Casual Employeeが勤務日数や勤務回数について同様に勤務できず大きな調整が必要になる場合など)にはオファーを出さなくてよいとされています。

正社員への変更のオファーは、12ヶ月間の雇用期間が経過した後21日以内になされなければなりません。また、要件を満たさない又は例外事由に該当するなどにより、正社員への変更のオファーを出さない場合でもその旨を従業員に通知する必要があります。

また、雇用者側から上記のオファーを出さない場合であっても、「12ヶ月以上雇用されており、かつ、直近6ヶ月以上において規則的なパターンで継続的に勤務し、かつ、今後も大きな調整が必要なく同様に勤務できるCasual Employee」は雇用者に対して正社員への変更を要求することができます(改正FWA66F条)。

正社員への変更の要求は、12ヶ月間の雇用期間から更に21日経過した後(すなわち雇用者がオファーを出さなければならない期間が経過した後)に出すことができます。

改正日においてCasual Employeeであった従業員については、雇用者は改正日から6ヶ月以内に正社員への変更権を付与するための要件を満たすか否かを判断し、要件を満たす従業員に対しては正社員への変更のオファーを出す必要があります。

但し、雇用者がSmall Business Employer(雇用している「正社員」と「規則的なパターンで継続的に勤務するCasual Employee」の数が15名未満の雇用者)である場合には例外的な取り扱いが定められており、雇用者からCasual Employeeに対して正社員への変更のオファーを出す必要がありませんが、Casual Employeeから雇用者に対して正社員への変更の要求をすることはできます。また、この正社員への変更の要求は12ヶ月の雇用期間後であればいつでも出すことができます(改正日からでも出すことができます)。

3.Casual Employment Information Statement

雇用者はCasual Employeeを雇用する際には、Casual Employeeの意味、12ヶ月間の勤務後の正社員への変更権等を記載したCasual Employment Information StatementCasual Employeeに対して交付しなければならないことになりました(改正FWA125B条)。

改正日の時点で雇用されているCasual Employeeに対しては、雇用者は改正日から6ヶ月経過後実務上可能な限り早急にCasual Employment Information Statementを交付する必要があります。

4.Casual Loadingとの相殺

Casual Employeeとして雇われた者がCasual Employeeではない(正社員である)と主張し、裁判所が当該主張を認めて、雇用者に対して当該従業員が正社員であることに基づく有給休暇などの補償の支払いを命ずる場合、裁判所は、雇用者が当該従業員に対して支払ったCasual Loadingを補償金額から差し引かなければならないとされました(改正FWA545A条)。これはCasual EmployeeによるDouble Dipping(「Casual Loading」と「年次有給休暇等」の二重取り)を防止するための規定になります。

この規定は改正日前に発生した有給休暇などの権利や改正日前に支払われたCasual Loadingにも適用されます。

5.まとめ

この法改正によって、Casual Employeeをめぐる論争は終結することになりました。今後は正社員になることを希望するCasual Employeeは正社員への変更権を行使して正社員となることができるようになり、労働者の生活が安定することになると考えます。他方で、雇用者側としては正社員化が進むことにより雇用の調整(人員削減)がより難しくなると考えます。

今後作成するCasual Employeeの雇用契約書については、Casual Employeeの定義に沿った調整を行い、正社員への変更権を規定するなどの修正を行う必要があると考えます。

また、Casual Employeeを雇用している場合には、改正日(2021327日)から6ヶ月以内に正社員への変更のオファーを出すか否かの判断をしたり、Casual Employment Information Statementを交付するなどの対応が必要になります。

2021年2月28日 (日)

オーストラリアの不動産開発によく見られるストラクチャー

オーストラリアにおいて不動産開発を行う際に、「開発行為を行う主体(開発業者)」と「開発対象となる土地を保有する主体(土地所有者)」が別々になっていることがよく見られます。

開発業者が自分で開発する土地を保有しているのがシンプルですが、諸々の事情により開発業者と土地所有者が別々になることがあります。たとえば、以下の(1)~(3)のような事情が考えられます。

(1)土地所有者がCapital Gainの減免を受けられるようにするために開発業者と土地所有者を別々にする場合:以前のブログ記事を参照

(2)第三者である土地所有者が開発業者に対して土地の所有権は譲渡はしないものの土地の開発には同意する場合:土地所有者からすると単純に土地を開発業者に売却するよりも開発に関与することでより多くの利益を得ることが期待でき、また、開発業者としても土地所有者からの土地の譲渡による印紙税を節約することができます。

(3)開発業者が土地を取得した上で第三者から開発プロジェクトへの出資を募ることを想定している場合:当該第三者が土地所有者の主体の持分を取得すると当該第三者が土地所有者が保有している土地の譲渡を受けたのと同様であるとして印紙税(Landholder Duty)が発生する可能性がありますが、開発業者の主体の持分を取得しても印紙税は発生しません。

上記のように開発業者と土地所有者が別個となっている場合、開発業者と土地所有者の間では、「開発業者が土地所有者から土地を提供してもらい、当該土地において開発行為(マンションの建設など)を行う権利を与えてもらう代わりに、土地所有者に対して開発から得られた利益の一定割合を提供する」という合意がなされるのが通常です。このような合意が規定された契約書は、一般的にDevelopment Agreementなどと呼ばれます。

このDevelopment Agreementでは、基本的に開発に関する全ての業務を開発業者で行い、その費用を負担することになります。すなわち、開発業者の方で開発許可を申請して取得し、販売業者を雇って開発物件の販売行為を行い、銀行からローンを受けて、建築業者に建物を建築させるという開発に関する一連の業務を開発業者の責任で行い、その費用を負担することになります(オーストラリアにおける不動産の開発手続については以前のブログ記事を参照)。その代わりに、開発から上がる利益(販売収益からローンの元本・金利返済額、建築費用、販売費用等のプロジェクト費用を差し引いたもの)については、土地所有者に一定の金額(土地の価値相当額+一定の利息金額)を渡した後は、Development Fee(開発の報酬)として、残りは全て開発業者のものとなる(開発の利益は開発業者に落ちる)ようにするのが一般的です。又は、土地所有者に一定の金額を渡すのではなく、開発した物件の一部(例えば、当該金額に相当する価値のマンションの戸数)を分け与えるアレンジメントがなされることもあります。

土地所有者に開発の利益を与えないようにすることは土地の所有者が得た上記の金額(土地の価値相当額+一定の利息金額)がmere realisation of a capital assetとしてCapital Gainとみなされて、Capital Gainの減免を受けられるようにするためにも重要になります。この減免が受けられると土地所有者にとって非常に有利ですが、Capital Gainとみなせて減免が受けられるか否かについては、土地所有者の開発への関与の程度など様々な要素を総合的に考慮した上で判断されることになるため、税務専門家のアドバイスを受けることが必要です。

日本企業がオーストラリアの不動産開発プロジェクトに参画する場合、上記のような土地所有者と開発業者が別々になっており、日本企業は土地所有者に対しては出資せず、開発業者に対してのみ出資をすることが求められるケースが多いと考えます。このようなストラクチャーや出資方法に問題があるわけではありませんが、このような場合には、土地所有者と開発業者の間で締結されているはずのDevelopment Agreementをしっかりとレビューし、開発プロジェクトの利益が開発業者に落ちることになっていることを確認する必要があります。また、土地所有者がDevelopment Agreementを履行しない場合(Development Feeの不払いなど)に備えて、開発業者が土地所有者の保有する土地に抵当権を設定しているかも確認すべきポイントになります(金融機関からのローンを受ける場合には、金融機関の抵当権が1番抵当権となり、開発業者の抵当権は2番抵当権となります)。

2020年11月27日 (金)

オーストラリアの会計事務所

2020年時点でのオーストラリアの会計事務所の売上高、パートナー数等の情報がAustralian Financial Reviewに掲載されていました。売上高上位50社までを以下に記載します。

4大会計事務所が圧倒的に大きく、売上高・従業員数からみて6大法律事務所の大体5倍くらいの規模になっています。

順位

会計事務所

2020年度の売上高(百万豪ドル)

パートナー数

パートナー以外の専門家

1

PwC

2600.00

695

6338

2

Deloitte

2500.00

870

8885

3

Ernst & Young

2130.00

572

6278

4

KPMG

1905.00

559

7336

5

Findex

371.98

297

1654

6

BDO

328.42

205

1316

7

Pitcher Partners

264.00

117

978

8

Grant Thornton

257.00

158

1195

9

RSM Australia

220.74

108

1113

10

PKF

125.60

89

568

11

William Buck

121.25

102

485

12

Bentleys Network

115.12

75

510

13

Nexia Australia

109.39

87

508

14

HLB Mann Judd

108.14

81

522

15

Walker Wayland Australasia

96.09

92

504

16

McGrathNicol

86.70

35

250

17

Countplus

82.61

64

315

18

Moore Australia

77.94

73

397

19

Hall Chadwick

74.60

51

265

20

Synergy Group

72.46

15

269

21

DFK Australia New Zealand

62.96

52

n/a

22

ShineWing Australia

59.01

31

199

23

Kelly Partners

48.30

44

149

24

Accru

40.74

31

185

25

Russell Bedford

38.11

26

187

26

MGI Australasia

37.27

30

179

27

UHY Haines Norton

35.81

33

170

28

Vincents

34.18

40

0

29

Rubik3

32.78

5

160

30

Brentnalls

32.68

28

135

31

Cor Cordis

31.79

17

80

32

Perks Accountants & Wealth Advisers

30.60

24

161

33

Fordham Group

30.30

16

117

34

Boyce Chartered Accountants

23.93

14

124

35

Prosperity Advisers Group

22.15

19

63

36

Cutcher & Neale

22.04

8

3

37

Hood Sweeney

21.47

16

61

38

Lowe Lippmann

17.40

7

69

39

Bedford CA

17.30

11

44

40

Allan Hall Business Advisors

16.80

9

68

41

RJ Sanderson & Associates

16.55

9

n/a

42

Altus Financial

15.20

10

35

43

Roberts & Morrow

15.05

16

70

44

NKH Knight

14.70

18

60

45

ESV

14.65

12

51

46

Pilot Partners

13.73

10

57

47

MOR Accountants

12.79

9

0

48

Carbon Group

12.56

21

100

49

Blaze Acumen

12.33

8

52

50

Sammut Bulow Bennett Partners

12.12

9

0

 

 

2020年11月25日 (水)

オーストラリアの企業倒産法の改正

現在、オーストラリアでは、コロナウィルス対策として、企業の倒産を防止するための倒産臨時措置法が施行されていますが、これは20201231日に期限を迎えて終了する予定です。その後に多くの企業(特に中小企業)の倒産が発生することが予測されており、それに対する対応として企業(特に中小企業)の倒産を迅速かつ効率的に処理するための会社法(オーストラリアの会社の倒産手続は会社法に規定されています)の改正が予定されています。

この会社法の改正案(Corporations Amendment (Corporate Insolvencvy Reforms) Bill 2020は、こちらで確認することができます。また、その下位規則である会社法規則の改正案であるCorporations Amendment (Corporate Insolvency Reforms) Regulations 2020と破産実務規則(Insolvency Practice Rules (Corporations) 2016)の改正案であるInsolvency Practice Rules (Corporations) Amendment (Corporate Insolvency Reforms) Rules 2020は、こちらで確認することができます。この会社法の改正は、連邦議会での審議・承認を経た上で、来年11日から施行される予定となっています。

以前のブログ記事『オーストラリアの倒産手続(外部管理)』で紹介したとおり、オーストラリアの倒産手続には、主として、事業の再生を目指す再生型の「任意管財手続(Voluntary Administration)」と事業の清算処分を目指す破産型の「清算手続(Liquidation又はWinding Up)」の2種類があります。今回の法改正では、これらの2種類の手続について新たに簡易なヴァージョンの手続を導入するというものです。

1.簡易再生手続(Restructuring)の導入

今回の法改正では、任意管財手続の簡易なヴァージョンとして、簡易再生手続(Restructuringが導入されることが予定されています。

簡易再生手続は、債務(偶発的債務を除く)の総額が$1M未満の会社に適用されます(会社法規則の改正案5.3B.03(1))。

会社が支払不能である、又は支払不能に陥ることが合理的に予見できる場合には、会社は取締役会決議によって、Restructuring Practitioner(再生人)を任命することができ(会社法の改正案453B条)、この再生人の任命によって簡易再生手続は開始します(同453A条)。債権者その他の第三者は簡易再生手続を開始することはできません。再生人は任命後1営業日以内にASIC(会社の監督機関)及び会社の債権者に対して任命を通知する必要があります(会社法規則の改正案5.3B.45条)。

任意管財手続や清算手続と同じく、再生人に任命されることができる者は、原則として、ASICに登録された資格のある清算人(登録清算人:Registered Liquidator)のみです(会社法の改正案456B条)。この登録清算人になるためには、会計関連の学位を持ち、直近5年間においてシニアレベルで4,000時間以上の倒産関連業務に従事した経験を有するなどの要件を満たした上で、ASICに申請して登録を受ける必要があります。ただし、今回の改正では、再生人に関する限りにおいて、この登録清算人の要件を緩和されており、豪州において認められた会計士の資格(Chartered Accountants Australia and New ZealandCPA Australia又はInstitute of Public Accountantsの会計士の資格)を有し、再生人の責務を果たすだけの能力があることが立証され、その他Insolvency Practice Schedule (Corporations)に定める条件(適切な保険への加入、豪州在住であることなど)を満たすことができれば、再生人に任命されることができる登録清算人となることができます(破産実務規則の改正案20-2条)。

簡易再生手続では、会社の既存の取締役は、簡易再生手続の開始後も、会社のコントロールを維持し、会社の通常の業務の範囲内で(in the ordinary course of business)事業活動を継続することができます(他方で、通常の業務の範囲外の事業活動については再生人の承認又は裁判所の許可が必要です(会社法の改正案453L条))。簡易再生手続において会社の通常の業務の範囲内で、又は再生人の承認若しくは裁判所の許可を得て会社が債務を負った場合、会社の取締役は破産取引阻止の義務の違反責任を問われません(同588GAAB条)(取締役の破産取引阻止の義務については、以前のブログ記事『オーストラリアの倒産手続(外部管理)について留意すべき点』の4.破産取引阻止の義務を参照)。

これまでのオーストラリアの倒産手続(任意管財手続と清算手続)では、任命された管財人又は清算人が会社の事業及び財産についてコントロールし、既存の取締役はコントロールを失うことになっており、いわゆるDebtor in Possessionモデルは採用されていませんでした(以前のブログ記事『オーストラリアの倒産手続(外部管理)について留意すべき点』の2.DIP型手続を参照)。今回の改正で導入される簡易再生手続では、オーストラリアの倒産手続で初めてDebtor in Possessionのモデルが採用されることになります。

再生人の役割は、会社の既存の取締役に対して債務整理についてアドバイスし、再生計画(Restructuring Plan:債権の減免・支払延期などが規定される:詳細については会社法規則の改正案5.3B.13条及び5.3B.14条参照)の作成をサポートすることなど(会社法の改正案453E条)であり、既存の取締役をサポートし、監督するという役割になります。再生人の役割・権限等の詳細については、規則案5.3B.08に規定されています。

会社は、再生人のサポートを受けて、再生計画案を作成します。再生計画案は、簡易再生手続の開始から20営業日以内に債権者に提案される必要があります(会社法規則の改正案5.3B.02(1)(b)5.3B.15条、5.3B.19条)。また、再生人は、簡易再生手続の適用基準が満たされているか否か、及び会社は再生計画案に従って債務を弁済できる可能性が高いか否か等について意見を述べた書面を作成し、再生計画案と一緒に債権者に提出する必要があります(同5.3B.16条)。また、再生計画案についてASICへの通知も必要になります(同5.3B.47条)。

債権者は再生計画案の受領から15営業日以内に承認するか否かの判断を会社に伝えます(同5.3B.19条)。債権者が再生計画案に記載されている自己の債権金額について異議がある場合には、再生計画案の受領から5営業日以内に会社に伝える必要があります(同5.3B.20(2))。なお、担保を有している債権者は、当該担保でカバーされない債権額についてのみ再生計画案について債権者として扱われ(同5.3B.25(1)(e))、また、再生計画案に同意をしない限り、当該担保及びそれによってカバーされる債権額について、承認された再生計画について拘束されません(同5.3B.27(3))。

債権額の過半数の債権者が再生計画案に同意した場合、再生計画案は債権者に承認されたことになり(同5.3B.23条)、その後、会社は、再生人の監督の下、再生計画に従って既存の取締役が運営することになります。この債権者による再生計画案の承認について、債権者集会を開催する必要はなく、再生計画案の承認は、電子的な方法(オンラインでの投票等)で採決されることが予定されています。債権者が再生計画案を承認しない場合、取締役は別の倒産手続(任意管財手続又は清算手続)の開始を検討することになります。

簡易再生手続の期間中(再生計画が承認されるまでの期間)は、再生人の同意又は裁判所の許可がない限り、債権者による訴訟提起や担保権の執行は禁止され、また、会社の取締役等の個人保証の執行も禁止されます(会社法の改正案453Q条、453R条、453S条、453V条)。ただし、任意管財手続の場合と同様(以前のブログ記事『オーストラリアの倒産手続(外部管理)について留意すべき点』の5.モラトリアムを参照)、会社の全ての資産に対して担保権を有している担保権者は、例外的に簡易再生手続の開始から13営業日以内であれば担保権を実行することができます(同454C条)。 

2.簡易清算手続(Simplified Liquidation Process)の導入

今回の法改正では、清算手続の簡易なヴァージョンとして、簡易清算手続(Simplified Liquidation Process)が導入されることが予定されています。

簡易清算手続は、事業を再生できる見込みがない小規模な会社(偶発債務を除く債務の総額が$1M未満の会社)について適用されます(会社法規則の改正案5.5.03(1))。また、簡易清算手続は「債権者による任意清算(Creditors’ Voluntary Liquidation)」の場合にのみ利用が可能です(会社法の改正案500AA(1))。

* 以前のブログ記事『オーストラリアの倒産手続(外部管理)』で紹介したとおり、オーストラリアの清算手続には、裁判所が命令を出して清算人を選任する「強制清算」と会社が株主総会の特別決議によって自ら清算人を選任する「任意清算」があります。また、「任意清算」については、債権者の関与なしに株主主導で進めることができる「株主による任意清算(Members’ Voluntary Liquidation)」と債権者の関与が必要になる「債権者による任意清算(Creditors’ Voluntary Liquidation)」の2種類があります。前者については、会社が全ての債務を弁済することができる場合に利用することができ、債権者の利益が害されることがないため、債権者の関与が不要となっています。後者については、会社が全ての債務を弁済することができない場合に利用され、債権者の利益に影響を及ぼすため、債権者の関与が必要になっています。簡易清算手続は、この後者の「債権者による任意清算(Creditors’ Voluntary Liquidation)」の場合にのみ利用可能ということになります。

会社の取締役会は、簡易清算手続の適用基準が満たされていると信じる合理的な理由があると考える場合には、任意清算を決定して清算人を選任する株主総会の特別決議がなされた日から5営業日以内に、簡易清算手続の適用基準が満たされている旨の宣言をしなければなりません(会社法の改正案498条)。この宣言を受けて、清算人が簡易清算手続の採用を決定することができます。清算人は、簡易清算手続の適用を決定する10営業日以上前に、会社の株主及び債権者に対して簡易清算手続の適用基準が満たされている旨を通知しなければなりません(同500A(3))。会社の債務全体の25%以上の債権額を有する債権者が簡易清算手続に反対した場合、簡易清算手続を行うことはできなくなります(同500AB条)。簡易清算手続を適用することを決定した場合、清算人は5営業日以内にASICに通知をする必要があります(会社法規則の改正案5.5.06条)。

簡易清算手続が適用される場合、清算人は、会社法533条に基づく会社の調査及びASICへの報告(会社の倒産に関して取締役や従業員等に会社法の違反があったか否かの調査などを調査してASICに報告する)をする必要がなくなります(会社法の改正案500AE(2)(a))。ただし、簡易清算手続が行われている場合であっても、債権者に対して重大な不利益を与える上記のような違反があったと清算人が考えるに至った場合には、ASICへの報告をすることが必要になります(会社法規則の改正案5.5.05条))。また、清算手続において必要とされている様々な債権者集会を行う必要もなくなります(会社法の改正案500AE (2)(b)以下)。偏頗弁済(Unfair Preference)や否認取引(Voidable Transaction)に関する例外も設けられています(同500AE(3)(a)及び(b))。通常の清算手続であれば、清算手続開始から6ヶ月以内に行った偏頗弁済は無効となるのですが、簡易清算手続においては、この期間が3ヶ月に短縮され、相手方が関連会社ではなく、かつ金額が3万豪ドル以下であれば、偏頗弁済であっても無効となりません(会社法規則の改正案5.5.04条)。

今回導入される簡易再生手続と簡易清算手続の主な内容の説明は以上のとおりです。

改正法案はまだ審議段階にあるため、今後法案として成立するまでに内容が変更される可能性がある点には留意ください。

2020年11月21日 (土)

オーストラリア留学(Juris Doctor課程)の記録(その4)

オーストラリア留学(Juris Doctor課程)の記録(その1)(その2)及び(その3)の続編の記事です。20091月に開始したJuris Doctor過程の2年目の夏休みにオーストラリアのBig 6の一つであるAllens Arthur Robinson(現Allens)のメルボルン・オフィスでのインターンの記録を以下に公開します。この記録は当時所属していた日本の法律事務所への留学報告書として作成したものです。以下に記載されている情報は2011年4月時点のものであることにご留意ください。本記事の最後の方で日本の法律事務所が国際的な法律事務所として発展していくためには海外に弁護士を長期で派遣して、外国人弁護士をパートナーとして受け入れていく必要があるといったことが書いてあり、そんなことは日本の大手事務所はどこもやっていると思うかもしれませんが、2011年4月時点では、日本の法律事務所は中国以外には支店を出しておらず、外国人の弁護士のパートナーもいなかったのです。

IVAllens Arthur Robinsonメルボルン・オフィスでのインターン経験

2011117日から214日まで約1か月間、Allens Arthur Robinsonメルボルン・オフィスにおいて、Vacation Clerkshipをさせていただきました。これはオーストラリア留学(Juris Doctor過程)の記録(その2)II.(1)で書いたSeasonal ClerkshipAllensでの呼び名で、法律事務所の採用活動の一環として行われるインターンになります。このインターンで良いパフォーマンスを見せると、TraineeAllensではGraduateと呼ばれる)として採用されます。Allensは、Vacation Clerk100人程度選び、その中から30人程度を最終的にGraduateとして採用するそうです。私は一般の学生としての立場で応募したのですが、Allensで働いている●●先生を通じて、●●先生にコンタクトしていただき、●●先生の方から人事に話をしていただいたため、採用されることができました。英語が母国語ではない、成績も大して良くない、オーストラリア国籍・永住権もない、といった私の状況では、コネがなければまず採用されません。

インターンは、11月~12月、12月及び67月の3回に分けて実施されます。私はこのうちの12月のインターンを行いました。インターンは、全部で29人であり、その内21人がUniversity of Melbourne出身(JD5名、LLB16名)でした。LLB1学年3400人、JD100人程度であることを考えると妥当なJD/LLBの割合だと思います。同じメルボルンにあるMonash Universityからは4名、Deakin UniversityLa Trobe Universityからの出身者は1名ずつしかおらず、RMIT University0名でした。通常はMonash出身者がもっと多いようなのですが、この回のインターンでは少ないとのことでした。University of Melbourne出身かMonash University出身でない場合には、学年トップクラスの成績を取らなければ、大手事務所のインターンに採用されるのは難しいということのようです。また、29名中20名が女性であり、女性がマジョリティーでした。他の回のインターンではもう少し男性が多いようですが、成績を重視する大手事務所では、女性の方がロースクールで良い成績をとるため、女性が多くなる傾向にあるそうです。なお、私以外は全員オーストラリア国籍です。アジア系(主に中国系)が私を含めて9名いたので、人種的な違和感はありませんでした。実際にAllensの若い弁護士にはアジア系の方が非常に多かったです(23割はいたという印象です。)。

最初の3日間は全体研修であり、その後も毎日12時間は必ず何かしらの全体研修が行われました。インターンは、各Practice Groupに分散してインターンをするため、毎日インターン同士が顔を合わせて親しくなる機会を作るために、毎日のスケジュールに全体研修を組み込んでいるようです。

Allensでは朝830分から勤務開始だそうですが、あまり出勤時間には厳しくないようであり、9時頃に来所している方も多くいました。多くの弁護士は、午後6時頃には退所します。この点は、シンガポールのノートン・ローズでも同じでした。日本のように午後6時に弁護士がほとんど残っているという状況はオーストラリアでは考えられません。なお、香港で勤務したことがある弁護士によると、香港の法律事務所(イギリス系)は非常に忙しく毎日深夜まで働いているとのことでした。Allensでは、午後730分まで働くと、事務所から無料でディナー(事務所にいるシェフが作る)が支給されるそうです。Allensには所内に食堂はありませんが、キッチンがあり、お抱えのシェフがいて、所内でクライアントと会議後ランチをとったりする際に活躍します。

Allensのメルボルン・オフィスは弁護士数が300人程度います。秘書は弁護士45人に1名があてられており、秘書は日本の法律事務所よりも多くの弁護士を担当しています。但し、タイピングやコピーの専門部署が別にあり、これらは秘書の仕事を軽減しています。また、Allensでは、弁護士のキャリアパスはGraduate(入所してから1年後の資格取得まで)⇒Lawyer⇒Senior Associate(Lawyerになってから最低4年勤務が必要)⇒Partnerとなっています。Senior Associateというのは弁護士として4年勤務すれば自動的になれるものではなく、パートナーの推薦を受けた上で、所内の委員会での承認を得なければなりません。案件を一人でそれなりにこなせるようにならなければSenior Associateにはなれないそうです。Senior Associateになると、新聞が無料で購読できる、Blackberryが支給されて費用は事務所負担となる、月1回のSenior AssociatePartnerとの定例会議に参加できる等の特典があります。

Allensはもともとメルボルン本拠の事務所とシドニー本拠の事務所がくっついてできた事務所なので、どちらが本部なのかははっきりしていないとのことです。Managing PartnerMichael Rose氏は両都市を毎週行ったり来たりしているそうです。なので、メルボルン・オフィスの弁護士にシドニーが本部かと尋ねると気を悪くされます。

Allensでは、Practice Group毎に月1回定例のMeetingを開催して、Group内のコミュニケーションを図っています。Meetingではランチをとりながら、34人の弁護士がプレゼンテーション(10分×3, 4)をします。内容は、Group内で知っておくべき案件の説明、海外勤務経験の報告、新しい制度導入の提案・説明(私が参加した回で提案・説明されていたのは、各弁護士が担当した案件を記録するデータベースを作り、弁護士が案件で行った作業内容も記入して、どの弁護士が過去にどういう作業を経験したことがあるのか他の弁護士が参照できるようにする制度でした)等です。プレゼンの後にはクイズ(法律に関係ない普通のクイズ)の出題がされて、弁護士間で点数を競っていました。

IT関係でいうと、Allensではすべての文書データについて文書番号が付けられており、一元的に管理されています。誰がいつ作成したか、どの案件のために作成されたか、誰がどのような変更を加えたか、誰がいつ閲覧したか等の情報が全て誰からでも把握できるようになっており、管理には便利なのかも知れませんが、いちいち文書データを作るたびに案件コードとDescriptionを記入しなければならないので面倒です。

私は、Finance & Banking Groupに配属され、●●先生と同じ部屋に机を置かせてもらっていました。主に●●先生の仕事を見させていただいたのですが、日本企業がクライアントの案件が多く、案件内容は、エネルギー開発の大きなプロジェクト案件から小さなゼネラルコーポレート案件まで色々ありました。●●先生はFinanceの専門家なので、Finance以外の案件になる時は、Allensの内部のその分野の専門の弁護士に依頼して対応しています。オーストラリアで日本企業はかなり大きな案件に関与しており(日本はオーストラリアに対する最大の投資国の一つです)、優良なクライアントであるにもかかわらず、あまりケアがなされていないようであり(オーストラリアや欧米の優良企業のところには訪問に行ったり、食事に誘ったりする等の営業を積極的に行うのに、日本企業のところに行くパートナーはほとんどいない等)、力を入れてクライアント開発を行えば、まだまだ相当の案件が得られそうです。日本企業は、欧米の企業と違って、日本人が主体であり、企業文化も独特であり、英語もあまり上手ではなく、人種も違うので、普通のオーストラリアのパートナー弁護士(パートナーになるくらいの年齢で欧米重視の傾向がある白人の弁護士)からすれば、日本企業にやや距離を置きがちなのはわかるような気がします。外国のクライアント(特にアジア系の日本や中国のクライアント)に対するケアという点では、まだまだ改善の余地があると思われます。

Allensのアジアオフィスで成功しているのは、ベトナムとインドネシアです。ベトナムが成功している理由は、ベトナムにいる2人のパートナーが15年程滞在しており完全に現地化しているからだそうです。現地の法律・実務の知識、政府・顧客とのネットワーク、現地の文化の理解等は、長く滞在しないと得られないものです。インドネシアはもともと競争相手があまりおらず、また現地の有力な弁護士と提携しているので上手くいっているようです。アジア地域では、英米系国際事務所のブランドが非常に強く、オーストラリアの事務所は、英米系よりも価格を安く設定しているにもかかわらず、苦戦をしています。一方で、多くのオーストラリアの弁護士は、英米系国際事務所のアジア・オフィスで活躍しています。オーストラリアの法曹は、弁護士個人としてみるとアジアで活躍していますが、オーストラリアの事務所としてみるとアジアでは苦戦しています。アジア・オフィスやアジアのクライアントに出向した弁護士がそのまま(給与等の待遇の良い)英米系国際事務所に転職してしまう事例も多くあるようです。英米系国際法律事務所が進んでいると感じるのは、現地の弁護士を大量に雇用し、現地の弁護士をパートナーに昇格させているところです(多少の差別はあるようですが)。他方、Allensではまだ日本人・中国人弁護士等の英語がNon-Nativeの弁護士でパートナーになった弁護士はいないと聞いています(提携先事務所(ジャカルタ等)のパートナーは除く)。複数の管轄にまたがる国際案件を処理するのであれば、英語がネイティブの弁護士及び当該管轄の法律を知っている現地の弁護士との協働が欠かせません。これらの弁護士を採用し、日本人と同等の扱いをし、パートナーとして認めていくようにしなければ、良い人材は集まらず、複数の管轄にまたがる国際案件を扱える国際法律事務所になることはできないと思います。オーストラリア留学(Juris Doctor課程)の記録(その3)で書いたノートン・ローズのシンガポール・オフィスのシンガポール人弁護士は、ノートン・ローズに帰属意識を持っており、ロンドンへの出向の機会があったり、ロンドンから派遣されてくる弁護士が事務所に大勢いる等、文化的にもイギリス流に親和しています。また、アジア・オフィス間の交流もあります(例えば、私のインターン期間中にも、アジアでの仲裁業務をどう伸ばしていくかについて検討するという名目で、シンガポールの仲裁グループの弁護士(ほぼ全員、といっても56名)が香港に行って会合をしていました。)。日本の法律事務所も少なくともアジアでは同じことができるはずだと思います。

●●先生のもとで最初は日本企業案件に限らず、普通のオーストラリア弁護士と同じ案件に入って経験を積み、徐々に日本企業の案件が増えてきて、今はほぼ100%日本企業案件になっています。日本人弁護士が外国の法律事務所で日本企業案件を扱うためには、日本企業案件に理解のある有力パートナーと組んで二人三脚でやっていく必要があります。オーストラリア人パートナーは英語力やオーストラリア法の実務知識を提供し、所内で他のパートナーに日本企業案件の重要性を説いて協力を求め、日本人弁護士は日本企業への営業(商工会議所等日本人でなければ入っていきにくいコミュニティーもある等)や日本企業のケア(オーストラリア人弁護士と日本企業の担当者との間のコミュニケーションのブリッジ役、日本語での電話相談対応等)を行うといった相互補完の関係です。日本人弁護士は英語力で劣り、文化的にも異分子であるため(アジア系が多いため人種的に異分子という感覚はない)、日本人であることの長所(日本語、日本文化の理解、そして日本企業の担当者が感じる日本人弁護士に対する親近感・安心感(実際に日本人弁護士の方が日本企業のことを良く世話してくれます。))を理解してくれる有力パートナーがいなければ、日本人弁護士が外国の法律事務所で活躍することは難しいと思われます。これがクリアできれば少なくともオーストラリアでは日本人弁護士の活躍する機会はかなりありそうです。なお、日本人弁護士は現地の法律実務に精通し、ある程度の現地の法律問題は自らアドバイスできるレベルでなければあまり意味がありません。日本人弁護士がオーストラリアで活躍するためにはオーストラリアの法律実務に精通する必要があり、オーストラリアの事務所に出向でやってきて1年間滞在するくらいではオーストラリアの事務所で活躍することは不可能だと思います。

Allensのメルボルン・オフィスの弁護士の仕事の圧倒的大部分は国内案件であり、アジアの案件に関与しているのは基本的にアジア・オフィスにいる弁護士です。Allensの国内案件では、Blake Dawsonのように日本企業案件が特に多いわけではありません。インターン向けに行われたAllensの事務所やプラクティスを説明するセミナー(インターン生に対するSales Pitch)に何度か参加する機会がありましたが、イギリスの名門事務所Slaughter MayBest Friendsであることが常に言及され、Slaughter Mayのロンドン・オフィスに6ヶ月間出向する機会があることが喧伝されていました。●●先生が所属しているBanking & Financeグループのパートナーのほとんど全員が過去にロンドンで勤務した経験があるということですから、弁護士の間にロンドンを重視(崇拝?)する傾向があるのだと思います。但し、若手の弁護士は最近のアジアの発展もあってアジアへの関心が高く、アジア系のバックグラウンドを持つ弁護士も多いので、彼らの年次が上がるにつれて、これからはアジアがより重視されていくようになるのではないかと思います。

2020年11月20日 (金)

会社の契約締結、株主総会・取締役会、会議通知、議事録等の電子化

これまでオーストラリアの会社法では、会社が会社法に基づいて契約書に署名をする場合には契約書面に物理的に署名をしなければならず、株主総会や取締役会は物理的に参加者が集合して開催をしなければなりませんでした(一部の参加者が電話やビデオ会議で参加することは可能)。しかし、コロナウィルスの影響を受けて、人や物の物理的な移動が困難になったことから、連邦政府は20205月にCorporations (Coronavirus Economic Response) Determination (No. 1) 2020(以下「臨時措置法」といいます)を制定し、会社による契約書の署名や株主総会や取締役会の開催を電子的な方法で行えるように変更しました。この変更はコロナウィルスの影響に対応するための一時的な措置とされており、2021年3月まで継続することになっています。

この電子的な方法による会社による契約書の署名や株主総会や取締役会の開催が非常に効率的であると利用者に好評であったため、連邦政府は会社法を改正し、この臨時措置法による変更を永続的なものにする予定です。

この点に関する会社法の変更案(Exposure Draft)はこちらのウェブサイトでみることができます。

具体的な変更の内容は以下のとおりです。

1.会社による契約書の電子的な方法による署名

オーストラリアの会社が契約書に署名する場合、会社法127条に従って、その会社の取締役2名(又は取締役1名と秘書役1名の合計2名)が契約書に署名するのが一般的です(この点に関しては、以前の記事を参照ください)。

これまでは会社法127条に従った署名方法とするためには、取締役2名(又は取締役1名と秘書役1名)が契約書の同一の書面(物理的に一つの書面)に署名をしなければならない(そうでなければ少なくともその署名の有効性に疑義が生じる)とされてきましたが、会社法の改正法案では、各取締役(又は秘書役)が契約書の別々の書面(内容は全く同一だが物理的に異なる書面)に署名をしても構わない(いわゆるSplit Executionでも問題がない)ことが明確にされています(会社法の改正法案の127条(3A)及び(3C))。ただし、各書面は契約書の内容の全部を含んでいる必要があります(したがって、契約書の署名ページのみを印刷して署名することは認められません)。この法改正により、契約書の物理的な書面を署名のために、異なる場所にいる取締役(及び秘書役)の間で回す必要はなくなることになります。

また、取締役(又は秘書役)が物理的な署名(いわゆるwet ink signature)ではなく電子的な方法で署名をすることも会社法127条に従って署名方法として認められることになりました(会社法の改正法案の127(3B))。これまでは電子的な方法による署名が会社法127条に従った署名方法として認められるか否かについて議論が分かれていましたが、この法改正により、電子的な方法による署名は会社法127条に従った署名方法として認められることが明確になりました。ただし、その署名方法において、署名者を明示し、署名者の署名する意思を示し、かつその署名方法が信頼のおけるものである必要があります。この署名方法に関する要件は、PDFの契約書にタッチスクリーンを使用して署名をしたり、DocuSignAdobe Signなどの電子署名ソフトウェアを使用して署名することによって一般的には満たされると考えられます。

なお、上記はオーストラリアの会社による契約書の締結に関するものであり、個人(自然人)や外国(オーストラリア以外の国)の会社による契約書の締結には適用されません。

2.株主総会や取締役会の電子的な方法による開催

オーストラリアの会社の株主総会と取締役会についても、電子的な方法による開催が可能となっています。これまでも参加者が物理的に集合して開催されている株主総会や取締役会に一部の参加者が電話やビデオ会議などによって参加することは可能とされていましたが、今回の法改正では、物理的な開催場所を設けることなく、全ての参加者が電子的な方法(電話やビデオ会議など)によって参加する方法で開催することが可能となります(このような方法で開催された会議はvirtual meetingと呼ばれます。会社法の改正案の249L条(1)(a)、253Q条、253R条)。

株主総会や取締役会の召集通知、書面決議書、委任状、議事録などの会議に関する書類は全て電子的な方法により作成し、交付することが可能となります(会社法の改正案の253S条、253T条)。電子的な方法による作成・交付には、インターネット上に書面をアップロードしておき、クリックすることで当該書面にアクセスできるリンクを送信することも含まれます(253S条(3))。また、議事録について電子的な方法で保存することで足りるようになります(253T条)。

会議が電子的な方法で開催された場合(virtual meetingが開催された場合)には、以下の特別なルールが適用されます。

  • Virtual Meetingによる株主総会の決議の採決には、Poll(投票:参加者が行使した議決権を集計して決議の可決を判断する)の方法を使用しなければなりません(会社法の改正案の250J(1)253Q(3))。

* 他方で、Virtual Meetingではない通常の株主総会では、Show of Hands(挙手:参加者に挙手をさせてその多寡によって決議の可決を判断する)の方法で採決をすることが原則であり、議長、5名以上の株主又は5%以上の議決権を有する株主によってPollの方法が要求された場合にだけ、Pollの方法で採決がされることになっています(会社法250L条)。なお、一般的には、Show of Hnadsは、採決前に可決又は否決の結果が確実に判明している場合(会社に提出された委任状によって採決前に結果が判明しているなど)に使用され、採決前に結果が明白ではない場合にはPollの方法を採るべきであると考えられます(そうしなければ株主総会の議長は必要な注意義務を果たしていないと判断される可能性があります)。

  • 株主総会Virtual Meetingを行う場合には、会議前又は会議中に参加者から出された質問やコメントを議事録に記載しておく必要があります(会社法の改正案の251A(1)(a))。
  • 株主総会又は取締役会の参加者は、その選択により、会議で議決権を行使するか、又は(実務上可能である場合)会議前に議決権を行使する機会を与えられる必要があります(会社法の改正案の253Q(4))。

なお、上記において下線が引かれている「議事録を電子的な方法で保存すること」と「Virtual Meetingの株主総会の議事録には参加者の質問やコメントを記録しておく必要があること」については、現在臨時措置法によって一時的に導入されている改正には含まれておらず、今回の改正会社法によって初めて導入されるものになります。それ以外の点については、全て現在の臨時措置法によって一時的に導入がされており、今回の改正会社法によって永続的な変更となります。

2020年11月 7日 (土)

オーストラリアの外資規制の変更(National Security Testの導入)

現在オーストラリアでは、国家安全保障を強化する観点から、外資規制(Foreign Acquisitions and Takeovers Act 1975 (Cth))を改正することが予定されています。

改正法案(Exposure Draft)は、こちらのウェブサイトでみることができます。

以前のブログ記事で説明したとおり、現行の外資規制では、「外国人」が「オーストラリアの会社、事業、土地等に対する権益を取得する行為」をする場合に、連邦財務大臣(FIRB)に届出を行い、その承認を得ることが必要になります。FIRBが承認をするか否かの判断の際には、対象行為が「オーストラリアの国益(National Interest)に反するか否か」という基準に基づいて判断を下します。このオーストラリアの国益が何であるかについては法令上定義されておらず、国益に反するか否かの判断には連邦財務大臣に広範な裁量が与えられています。国益に反するか否かの考慮要素としては、国家安全、競争、オーストラリア政府の政策、経済・コミュニティへの影響、投資家の属性等が挙げられています。これはNational Interest Testと呼ばれています。

今回の法改正では、この既存のNational Interest Testを残しつつ、National Security Testという国家安全のみを考慮要素とした新しい規制が導入されます。この法改正は本年中に立法化され、来年(2021年)11日から施行される予定です。その際には、今年(2020年)329日に導入された一時的な外資規制強化(FIRBの承認が必要になる金額基準(monetary threshold)がゼロになり、FIRBの審査期間が最長6ヶ月に延長された - 詳細については以前のブログ記事をご参照)は撤廃される予定です。すなわち、来年11日からは、National Interest Testの金額基準と審査期間が元に戻り、その上で、追加で新しいNational Security Testが導入される、ということになります。

今回導入されるNational Security Testの主な内容は、以下の1~3のとおりです。

1.Notifiable National Security Action

「外国人」(その定義は以前のブログ記事を参照)が以下の(A)又は(B)の「国家安全に関わる通知行為(Notifiable National Security Action)」を行う場合には、連邦財務大臣(FIRB)に通知を行い、その承認を得ることが必要になります。

(A)「National Security Business」に対して「Direct Interest(直接的権益)」を取得する行為、又は「National Security Business」を新たに開始する行為

「National Security Business」とは、以下の事業を指します(Foreign Acquisitions and Takeovers Regulations 2015 (Cth)の改正法案の10A 条)。

  • Security of Critical Infrastructure Act 2018 (Cth)又はTelecommunications Act 1997 (Cth)によって規制されている事業(電気・ガス・水道、港湾、電気通信など)
  • 重大な軍事・諜報用の製品・技術・サービスの開発・製造・供給を行う事業
  • 豪州政府に機密扱いを受けている情報を取り扱う事業
  • 豪州の軍隊・国防省・国家諜報機関が収集した軍事・諜報要員の個人情報(アクセスを許せば豪州の国家安全に影響を及ぼすもの)を取り扱う事業
  • 豪州の軍隊・国防省・国家諜報機関の委託を受けて軍事・諜報要員の個人情報(アクセスを許せば豪州の国家安全に影響を及ぼすもの)を収集し、又は取り扱う事業

「Direct Interest」とは、①事業/会社/信託の10%以上の権益を取得すること、②事業/会社/信託の5%以上の権益を取得し、取得者及び当該事業/会社/信託に関する法的なアレンジメントがとられること、又は③事業/会社/信託の経営及び支配若しくは方針決定に影響を及ぼし、又は参画できるようになること(取得する権益の割合にかかわらない)、を意味します(現行のForeign Acquisitions and Takeovers Regulations 2015 (Cth)16条)。

(B)①国防に使用するために連邦政府が所有又は占有しているオーストラリアの不動産、②国家諜報機関が権益を有しているオーストラリアの不動産(当該外国人が国家諜報機関の当該権益を認識していることが合理的に期待される場合に限る)、③連邦財務大臣が別途法令で指定する地域に含まれるオーストラリアの不動産、に対する権益を取得する行為

既存のNational Interest Testにおける「重大行為(Significant Action)」又は「通知行為(Notifiable Action)」と異なり、Notifiable National Security Actionには金額基準はないため、対象行為の金額的な大きさにかかわらず通知が必要になります。

2.Reviewable National Security Action:Call-in Power

「外国人」が以下に定義される「審査可能行為(Reviewable National Security Action)」を行う場合において、連邦財務大臣(FIRB)が当該行為が国家安全上の懸念を生じさせると考えるときは、当該行為について国家安全の観点から審査を行うことができるようになります(Foreign Acquisitions and Takeovers Act 1975 (Cth)の改正法案の37C条)。この連邦財務大臣(FIRB)の審査を行う権利は、Call-in Powerと呼ばれます。

「審査可能行為(Reviewable National Security Action)」とは、既存のNational Interest Test又は新しく導入されるNational Security Testに基づいて連邦財務大臣(FIRB)に対する通知・承認が必要とならない行為(すなわち、既存のNational Interest Testにおける「重大行為(Significant Action)」又は「通知行為(Notifiable Action)」に該当せず、かつ、新しく導入されるNational Security Testにおける「国家安全に関わる通知行為(Notifiable National Security Action)」にも該当しない行為)であって、以下のいずれかに該当するものをいいます(Foreign Acquisitions and Takeovers Act 1975 (Cth)の改正法案の37B条)。

  • オーストラリアの事業又はオーストラリアの事業を行っている会社/信託に対してDirect Interestを取得する行為
  • オーストラリアの不動産に対する権益を取得する行為
  • オーストラリアの事業を行っている会社/信託から証券の発行を受ける行為
  • オーストラリアの事業との間で重大な契約を締結又は終了する行為
  • オーストラリアの会社・信託の運営・役員に影響を及ぼせるような契約を締結する行為
  • オーストラリアの会社・信託の役員に影響を及ぼせるように定款・信託契約を変更する行為
  • オーストラリアの事業を開始する行為

ただし、連邦財務大臣(FIRB)は、Reviewable National Security Actionが行われてから10年経過した場合には、審査を行うことはできなくなります(同37C (2))。

また、Reviewable National Security Actionに該当する行為を行う者が、当該行為について任意で事前に連邦財務大臣(FIRB)に対して通知を行ったり、連邦財務大臣(FIRB)から承認を受けていた場合、若しくは、一定の期間内の一定の範囲内の行為について事前に連邦財務大臣(FIRB)から包括的な承認(Exemption Certificate)を得ていた場合には、連邦財務大臣(FIRB)は、Reviewable National Security Actionの審査を行うことはできません(同37C(4))。

3.Last Resort Power

 連邦財務大臣(FIRB)は一度審査を行い、承認をした行為について、以下のいずれかの事情がある場合には、再度、国家安全の観点から当該行為を審査することができるようになります(Foreign Acquisitions and Takeovers Act 1975 (Cth)の改正法案の73A条)。

  • 承認を得る際に、申請者が重大な点において虚偽又は誤解を招く情報を提供し、又は提供されなければ重大な点において虚偽又は重大な誤解を招くであろう情報を提供していなかった場合
  • 承認が出された後、申請者の事業、ストラクチャー若しくは組織又は申請者の活動内容について重大な変更があった場合
  • 承認が出された後、状況やマーケットに重大な変更があった場合

この連邦財務大臣(FIRB)の再審査を行う権利は、Last Resort Powerと呼ばれます。

連邦財務大臣(FIRB)は、再度の審査の結果、国家安全の観点から必要があると判断し、かつ、当該行為を行った者と国家安全上の懸念を助教するために誠実に協議を行い、かつ、その他の規制制度では国家安全上の懸念を除去できない場合には、当該行為について新たな条件を課したり、既存の条件を変更したり、又は当該行為の承認を取り消して当該行為が行われる前の状態に戻すように命令することができます。

 

今回導入されるNational Security Testの主な内容の説明は以上のとおりです。

改正法案はまだ審議段階にあるため、今後法案として成立するまでにNational Security Testの内容が変更される可能性がある点には留意ください。

2020年10月 6日 (火)

移籍のお知らせ

この度、7年3か月勤務したクレイトン・ユッツ法律事務所を退職し、別の法律事務所に移籍することになりました。9月末から3か月間のGarden Leaveを経て、来年1月から移籍先の法律事務所で勤務を開始します。移籍後も引き続きオーストラリアにおいて弁護士として業務を行ってまいります。このブログも継続していきますので、ご愛顧のほど宜しくお願い致します。

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