Deed(捺印証書)とは何か
オーストラリアの契約書では、「●● Agreement」という名称のもの(例:Distribution Agreement、Shareholders Agreement)の他に、「●● Deed」という名称のもの(例:Deed of Variation、Confidentiality Deed)がよく見られます。Deed(捺印証書)とは、契約書の形式の一種であり、通常の契約書よりも厳しい締結方法が要求される代わりに、通常の契約書にはない特別な効果が与えられます。日本法にはDeedに相当する概念はありません。
1.締結方法
Deedとして契約書を締結するためには、契約書においてDeedとして契約書を締結することを明確にした上で(契約書の名称を●● Deedとする等)、以下の方法で契約書に署名をします。
契約書の当事者が個人の場合:契約書の署名欄に「Signed, sealed and delivered by [個人の氏名]」と記載した上で、当該個人が署名します。さらにその署名に証人に立ち会ってもらい、当該証人も当該個人の署名の横に自己の氏名を記載して、署名をします。証人は18歳以上の成人(豪州法上は18歳が成人年齢)であり、契約の当事者以外の者であれば誰でも構いません(当該個人の親戚、弁護士等の関係者であっても構いません)。
<署名欄の例>
Signed, sealed and delivered by [Name of Individual] in the presence of: |
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Signature of witness |
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Signature |
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Name of witness |
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契約書の当事者がオーストラリアの会社の場合(取締役が2名以上いる会社又は取締役1名と秘書約1名が異なる会社) :契約書の署名欄に「Executed by [会社名] in accordance with section 127 of the Corporations Act 2001 (Cth)」と記載した上で、「2名の取締役(Director)」又は「1名の取締役と1名の秘書役(Company Secretary)」が自己の氏名を記載して、署名をします。オーストラリアの会社法第127条では、このような署名方法によりオーストラリアの会社がDeedを締結できると規定しています。
<署名欄の例>
Executed by [Name of Company] in accordance with section 127 of the Corporations Act 2001 (Cth): |
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Signature of director |
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Signature of company secretary/director* |
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Name of director |
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Name of company secretary/director* |
*delete whichever is not applicable
※ 2名の取締役が署名する場合には、上記の右の署名欄の「company secretary/」という部分を横線で消し(company secretary/director)、1名の取締役と1名の秘書役が署名する場合には上記の右の署名欄の「/director」という部分を横線で消します(company secretary/director)。
契約書の当事者がオーストラリアの会社の場合(唯一の取締役が唯一の秘書役も兼ねている非公開会社(proprietary company)の場合):契約書の署名欄に「Executed by [会社名] in accordance with section 127 of the Corporations Act 2001 (Cth)」と記載した上で、「取締役(Director)兼秘書役(Company Secretary)」が自己の氏名を記載して、署名をします。オーストラリアの会社法第127条では、このような署名方法によりオーストラリアの会社がDeedを締結できると規定しています。
<署名欄の例>
Executed by [Name of Company] in accordance with section 127 of the Corporations Act 2001 (Cth): |
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Signature of sole director and sole company secretary |
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Signature of sole director and sole company secretary |
※ 取締役が1名しかおらず秘書役を設置していない会社の場合、会社法第127条に基づくDeedの締結はできないことになります。この場合、Common Law(判例法)に基づくDeedの締結方法を用いなければなりませんが、ここではその締結方法の説明は省略します。会社法第127条のDeedの締結方法が使用できるように、取締役が1名しかいない場合には秘書役を設置して取締役が秘書役も兼ねるようにした方が良いといえます。
契約書の当事者がオーストラリア以外の会社の場合:オーストラリア以外の会社(日本の会社等)には、会社法第127条の適用はないため、上記のオーストラリアの会社の署名欄とは異なります。署名欄に「Signed, Sealed and Delivered for and on behalf of [Name of Company] by its authorised signatory in the presence of」と記載した上で、会社の印鑑(Common Seal)を捺印し(Common Sealがない会社の場合には下記のように中にSealと記載した円を記載することで構わない)、会社を代表して契約を締結する権限を有する者が署名し、その署名に立ち会った証人も署名します。
※ 会社の印鑑の捺印又はSealという円の記載が必要になるのは、Deedの有効な締結要件であるSigning、Sealing及びDeliveryのうちのSealingの要件を満たすためです。なお、上記の契約の当事者が個人である場合、特別法によって、当該契約がDeedと表示されており、かつ当該個人が証人に立ち会ってもらって署名してもらえばSealingがあったものとみなされるため、印鑑の捺印は必要となっていません。また、上記の契約の当事者がオーストラリアの会社である場合、オーストラリアの会社法第127条に従った署名方法で署名すればSealingはなくともDeedを締結できることになっています。
<署名欄の例>
Signed, Sealed and Delivered for and on behalf of [Name of Company] by its authorised signatory in the presence of: |
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Signature of witness |
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Signature of authorised signatory |
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Name of witness |
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Name of authorised signatory |
契約書の当事者の代理人(Attorney)が署名する場合:契約の当事者が個人であれ会社(外国会社を含む)であれ、当該当事者の代理人(Attorney)が署名する場合、以下の例のように契約の当事者が誰であるかを明確に示して、当該当事者の代理人として署名することを明確にした署名欄とします。当事者が代理人に対してDeedを締結する代理権を付与する委任状(Power of Attorney)は、Deedの形式で締結されている必要があります。代理人が契約に署名する場合には、契約の相手方は代理人に署名権限を付与する委任状を提出させて、Deedの形式で締結されているか確認をすることになります。
<署名欄の例>
Signed, Sealed and Delivered for and on behalf of [Name of Company] by its attorney under a power of attorney date [Date] in the presence of: |
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Signature of witness |
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Signature of attorney |
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Name of witness |
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Name of attorney |
なお、オーストラリアでは最近契約書の締結に電子署名(electronic signature)を使用することが見られるようになってきました。しかし、Deedについては電子署名を使用して締結することはできないという見解が一般的です。電子署名システムを提供する会社でもDeedの締結には電子署名を使用しないように注意しています(例えば、Adobeのこの記事の4.4を参照)。電子署名を使用する場合には締結しようとしている契約書がDeedではないことを確認する必要があります。
2.特別な効果
Deedとして締結された契約書には、通常の契約書にはない特別な効果が与えられます。特別な効果はいろいろあるのですが、ここでは以下の3つを取り上げます。
(1)Deedに基づく権利については、時効が成立する期間が通常の契約に基づく権利よりも長くなっており、通常の契約であれば6年であるところが12年に延長されています(「オーストラリアの時効制度(1)-Limitation Period」参照)。したがって、Deedに基づく権利は時効がより成立しにくくなっています。
(2)Deedの形式による契約は、約因(Consideration)が存在しなくても契約として成立します。約因というのは価値の交換であり、オーストラリア法では、契約の当事者が価値のある約束を交換しなければ契約は成立しないことになっています。このため、一方の当事者が他方の当事者に対して対価なしに価値あるものを与えるという契約(たとえば贈与契約)は、約因が存在しないため、契約として成立しないことになります。しかし、例外的に、Deedの形式によって契約を締結する場合には、約因が存在しなくても契約として成立することができます。
(3)Deedの形式による契約は、契約の当事者ではない者に対しても権利を与える(義務を負う)ことができます。日本法では、民法第537条により、契約により当事者の一方が契約の当事者ではない第三者に対して権利を与える(義務を負う)ことが認められています。しかし、オーストラリア法では、契約の当事者は他の契約の当事者に対して権利を与える(義務を負う)ことはできますが、契約の当事者ではない第三者に対しては権利を与える(義務を負う)ことはできません(この原則をDoctrine of Privityといいます)。Deedの形式による契約の場合、当該Deedの当事者は、当該Deedの当事者ではない第三者に対しても権利を与えることができ、当該第三者は当該当事者に対してこの権利を執行することができます。ある者が第三者に対して一方的に権利を与える(義務を負う)Deedは、特にDeed Pollという名称で呼ばれます。例えば、A社がB社から秘密情報の提供を受ける場合において、B社がA社に対して秘密保持に関するDeed Poll(A社は署名するがB社は署名しない)を差し入れるといったことが考えられます。この場合、A社はDeed Pollに署名していませんが、B社に対してDeed Pollに規定されている守秘義務をA社に対して強制することができます。
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