オーストラリアの不動産売買手続
オーストラリアにおける不動産の売買手続は、おおよそ以下のとおりになります。
(1)不動産を探してオファーを出す
Realestate.com.auやDomainといった不動産検索ウェブサイトで売却に出されている不動産をチェックし、購入したい不動産を決めます。買主は、同ウェブサイトに記載されている不動産エージェントに連絡し、物件の内見を行なうなどした後、価格を決めて売主に対してオファーを出します。オファーは口頭で不動産エージェントに伝えることで構いません。オファー価格を決める際には、RP Data Core LogicやResidexといった不動産データ会社が提供しているValuation Report(鑑定レポート)が参考になります。このレポートは1物件あたり数十ドル程度です。On the HouseやAustralian Property Monitorsは無料の鑑定レポートを提供していますが、精度は上記の有料のものに比べると劣るように思います。
不動産エージェントは、売主側の代理人であり、売主の利益のために行動しているので、買主側としては注意が必要です。不動産エージェントは、売主に不利な情報(たとえば、物件が洪水の被害を受けやすい地域に入っている、物件にアスベストが使用されている等)は積極的には開示しないため、買主側は自ら調査を行う必要があります。オーストラリアでは両手仲介は禁止されており、売主及び買主双方に中立の不動産エージェントというのはありえません。但し、買主側で別途買主側の利益を代表する不動産エージェントを雇うことは可能です。
オーストラリア国外に居住する外国人がオーストラリアの不動産を購入する場合、不動産エージェントが不動産の仲介を行なうことが多いですが、この不動産エージェントが売主側の代理人であるのか、それとも買主側の代理人であるのかを確認しておくことが重要です。
(2)売買契約書を締結する
売主がオファーを受け入れる場合、売買契約書を締結することになります。不動産エージェントは、エージェント側の弁護士が作成した売買契約書を買主に出してきますので、買主はこれをレビューして問題が無いか確認する必要があります。通常は、買主はこの時点から弁護士を雇い、弁護士に売買契約書をレビューしてもらいます。売買契約書の内容に問題が無ければ、売主及び買主の双方が売買契約書に署名して締結します。売買契約書締結時に買主は売買金額の5~10%の頭金を支払うのが一般的です。この頭金は不動産エージェント又は売主側の弁護士が受領して保管し、決済時に売買代金に充当されるのが通常です。頭金は小切手の交付又は銀行振込の方法で支払うのが一般的です。
なお、売買契約書は、業界団体等によって定められている標準書式を利用して作成されるのが通常です(たとえば、クイーンズランド州では、Real Estate Institute of QueenslandとQueensland Law Societyが標準書式を定めています)。ただ、標準書式の内容について追加・変更する特別条件(Special Condition)が規定されていることもあるため、しっかりとレビューをする必要があります。
(3)売買契約の締結から決済条件の完了まで
売買契約書では、「物件調査の結果に買主が満足すること」及び「買主が決済に必要な融資を確保できること」の2点が売買決済の条件となっていることが一般的に多いといえます。これらの決済条件は売買契約書締結日から2~3週間の期限内に満たすように規定されるのが通常です。すなわち、これらの条件が売買契約書締結日から期限内に満たされない場合、売主又は買主は売買契約書を解除することができます。このため、買主はこの期限内に専門の建築業者に委託して物件の構造等の建物の情況を確認させ、弁護士に委託して物件の法律・権利関係に問題がないかを確認させ、また、害虫駆除業者に委託してシロアリ等の問題がないかを確認させます。これらの確認によって問題点が見つかった場合、買主に伝えて、問題点を決済までに直させたり、値引きをするように要求をすることができます。
マンション等の区分所有建物の物件を建物完成前に購入する場合(オフ・ザ・プランで購入する場合)、物件が完成して購入予定の区分所有部分の登記が完了することが決済条件として規定されるのが通常です。この決済条件は、売買契約書から1~2年といった長期の期限が定められます。
売買契約書締結日から物件の危険負担は買主側に移転しますので、買主は売買契約書締結日から物件について保険を掛けるの一般的です。
(4)決済の実行
売買契約書の条件が満たされた後、決済の準備が始まります。売買契約書では、決済日は売買契約書締結日から30日~60日後とするのが一般的です。
買主側の弁護士は、所有権移転登記に必要な書類(Transfer Document)を作成し、買主及び売主がこれに署名します。また、買主側の弁護士は、印紙税(Stamp Duty / Transfer Duty)(物件価格によって異なりますが、約3~6%程度)を税務署に支払ってTransfer Documentに印紙税支払済のスタンプを押してもらいます。このスタンプ済のTransfer Documentが所有権移転登記に必要となるため、印紙税を支払わなければ所有権移転登記を行うことはできないようになっています。決済後直ちに所有権移転登記を行えるように、印紙税は決済前に支払っておくのが通常です。また、買主が銀行からローンを受けて、購入物件に銀行のために担保権を設定する場合には、銀行の弁護士が作成する担保権設定契約書に署名します。
決済は、売主の弁護士、買主の弁護士、売主の銀行の弁護士(売主が物件に担保を設定している場合)、買主の銀行の弁護士(買主が物件に担保を設定する場合)が集まって行ないます(買主及び売主は出席しないのが通常です)。買主の弁護士は、売主の弁護士に売買代金(頭金の金額を除く)の小切手を手渡し、売主の弁護士から署名済・スタンプ済のTransfer Document(及び所有権証書(もし発行されていれば))を受領し、売主の銀行の弁護士から担保権解除書類を受領します。買主側の銀行の弁護士は、買主の弁護士から署名済・スタンプ済のTransfer Document、署名済の抵当権解除書類及び署名済の抵当権設定契約書を受領し、売主の銀行の既存の抵当権解除の登記、売主から買主への所有権移転の登記、及び買主の銀行のための抵当権設定の登記を行います。これらの登記手続が完了し、買主が新たな所有者として登記されるまで1ヶ月程度かかります。
(5)購入に要する費用
不動産購入に要する費用ですが、印紙税(Stamp Duty / Transfer Duty)が最も大きく、物件の売買価格の3~6%程度かかります(印紙税の具体的なパーセンテージについては、ニューサウスウェールズ州、ヴィクトリア州、クイーンズランド州の税務当局のウェブサイトを参照ください)。平均的な居住用物件であれば、弁護士費用は2,000ドル程度、建築業者・害虫駆除業者の合計費用は1,000ドル程度といったところです。また、登記手続に数百ドル程度の手数料がかかります。不動産エージェントは売主側の代理人であるため、売主から売買代金の2%程度の報酬を受領します。買主は売主側の不動産エージェントに対して報酬を支払う必要はありません。但し、買主が買主側の不動産エージェントを雇った場合、買主側の不動産エージェントに対して報酬を支払う必要が生じます。
(6)外国人による購入
オーストラリアの永住権を持っていない外国人がオーストラリアの居住用不動産を購入する場合、外国投資審議委員会(Foreign Investment Review Board:FIRB)の許可を得る必要があり、FIRBの実務運用上、新築の物件を購入する場合(又は更地を購入して建物を新築する場合)でなければこの許可を取得することはできなくなっています。外国からの投資によって居住用不動産の価格が高騰してオーストラリア人の手の届かないような価格にならないように、FIRBは、原則として、外国人が居住用不動産を購入することは認めていませんが、例外的に、新築の居住用不動産の場合にはオーストラリアの居住用不動産の供給に資するため、許可を与えています。なお、新築であれば、マンションに限られず、一戸建てでも許可を取得することは可能です。
他方、外国人(日本人又は日本の会社)が商業用不動産(オフィス、商業施設等)を購入する場合、その価値又は売買価格が1,094万豪ドル以下であればFIRBの許可は必要となりません。
FIRBの許可が必要となる場合、FIRBの許可を得ることを売買契約書において決済の条件として定めておくことが必要になります。
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