スポンサードリンク


広告


« オーストラリアにおける外国仲裁判断の執行 | トップページ | 論文:『豪州の不動産法制度と日本からの投資』(不動産証券化ジャーナル第39号) »

2017年3月16日 (木)

オーストラリアにおける株式譲渡手続

オーストラリアのM&A取引の多くは、株式譲渡又は資産譲渡の方式によって行われます。今回は株式譲渡において必要となる手続の詳細について説明します。なお、本記事で説明する株式譲渡は、オーストラリアの非上場の会社の株式譲渡であることを前提としています。 

1.会社の株主を定める基準

まず前提として、オーストラリアの会社は株主名簿(Register of Members)を作成して備え置かなければならないとされており(会社法168条)、会社の株主が誰であるかについては、この株主名簿を基準として決定されます(会社法231条)。以前のブログ記事に記載したとおり、ASICの登記情報では、非公開会社については、会社の株主が誰かという情報が記載されていますが、この登記情報には公信力はなく、株主名簿に記載されている株主とASICに登記されている株主に齟齬がある場合には、株主名簿に記載されている株主情報を元にして株主が確定されます。

したがって、株式譲渡の手続の際には、対象会社の株主名簿において買主が株主として記載されてはじめて買主が法的に株主として認められることになります。なお、株主名簿は会社法169に定める要件を満たしたものでなければなりません。

2.株式譲渡の実行

M&A取引における株式譲渡の際には、売主と買主の間で「株式譲渡契約」が締結されるのが通常です。この契約において定めた株式譲渡実行日において、売主側は譲渡対象株式に関する「譲渡証書」(instrument of transfer )と「株式証書」(share certificate)を買主側に引渡し、売主側は買主側に対して譲渡代金を支払います。

「譲渡証書」とは、譲渡者、譲受者、譲渡株式の種類・株式数、譲渡対価、譲渡日等の株式譲渡の詳細を記載し、譲渡者と譲受者の両者が署名をする書類(通常は1ページ)であり、対象会社に対して株主名簿の書換えを請求するためには、この譲渡証書を対象会社に対して提出する必要があります。この譲渡証書がどのような書類なのかは、GoogleAustralian Standard Transfer Formと入力して検索していただければ、サンプルが見つかるのでわかるかと思います。株式譲渡の様々な条件(売買の実行条件(conditions precedent)、売主の表明保証(warranties)等を含む)を規定する株式譲渡契約は数十ページある分厚い契約書になりますが、譲渡証書はこの株式譲渡契約とは別物であり、株式譲渡契約に基づいて株式譲渡を実行する際に対象会社に対して株主名簿の書換えを請求するために必要になる書類です。株式譲渡実行日において、売主が署名した「譲渡証書」を買主に交付し、買主は「譲渡証書」に署名をすることによって「譲渡証書」の作成が完了し、対象会社に提出できる状態になります。

「株式証書」は日本の会社法の株券に相当する書類ですが、日本の会社法の株券と異なり、株式の譲渡に株券の交付は必要とならず、日本法にいう有価証券ではありません。株式証書は、同証書に記載されている者が同証書に記載されている対象会社の株式を所有していることの一応の証拠(prima facie evidence)となりますが(会社法1070C(2))、逆に言えば、単なる証拠としての意味しか有さないといえます。株主名簿の書換えを請求する際には、既発行の株式証書を譲渡証書と一緒に対象会社に対して提出することが対象会社の定款において要求されているのが通常です。

3.譲渡代金の支払方法

株式譲渡実行日において、売主側は「譲渡証書」と「株式証書」を買主側に引渡し、売主側は買主側に対して譲渡代金を支払うことになりますが、この譲渡代金の支払方法は、主に「小切手の交付」と「銀行振込」の2種類があります。

「小切手の交付」による場合、買主がオーストラリアの銀行口座に譲渡代金を払い込み、その銀行から小切手を振り出してもらいます。株式譲渡実行日において、買主は「譲渡証書」と「株式証書」の引き換えにこの小切手を売主に交付することになります。買主がオーストラリアの銀行口座を持っていない場合には、買主側が使っている法律事務所の銀行口座に譲渡代金を振り込んで、その銀行から小切手を振り出してもらうこともできます。

「銀行振込」による場合、オーストラリアの銀行間の国内送金であれば数時間で完了しますので、譲渡実行日において売主、買主と双方の弁護士とが集まり、買主側が譲渡実行に必要な書類(譲渡証書、株式証書等)を確認した後で、銀行に対して送金指示を出します。数時間後に譲渡代金が売主側の銀行口座に着金したことが確認できたら、買主側は譲渡実行に必要な書類の交付を受けることになります。銀行振込が国際送金になる場合には同日には送金が完了しないため、買主側は事前にオーストラリアの銀行口座に譲渡代金を送金しておくのが通常です。買主側がオーストラリアに銀行口座を持っていない場合には、買主側が使っている法律事務所の銀行口座に譲渡代金を振り込んで、その銀行から売主側の銀行口座に送金をしてもらうことも可能です。

4.譲渡実行後の手続

買主は「譲渡証書」と「株式証書」を対象会社に対して交付して株主名簿の書換えを請求します。対象会社は、株主名簿の書換えを行い、買主に対して買主が所有者として記載されている新しい「株式証書」を買主に発行します。

買主は株主の変更についてASICに対して譲渡実行から28日以内に届出を行う必要があります。この届出によってASICにおける対象会社の登記情報(株主に関する情報)が更新されることになります。

オーストラリアの会社の株式譲渡には、かつて印紙税が課されていましたが、この印紙税は現在オーストラリアの全ての州において廃止されています。但し、例外的に、対象会社が一定の金額以上の不動産を保有している場合には、不動産の譲渡と同視されて、保有不動産の価値に応じた印紙税が課されることがあります。この印紙税は譲渡実行から一定の期間内に支払われる必要があります。

« オーストラリアにおける外国仲裁判断の執行 | トップページ | 論文:『豪州の不動産法制度と日本からの投資』(不動産証券化ジャーナル第39号) »

会社法」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: オーストラリアにおける株式譲渡手続:

« オーストラリアにおける外国仲裁判断の執行 | トップページ | 論文:『豪州の不動産法制度と日本からの投資』(不動産証券化ジャーナル第39号) »