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2018年2月

2018年2月16日 (金)

オーストラリアのインサイダー取引規制

オーストラリアにおいても、インサイダー取引は金融市場の健全性(integrity of financial market)を損なうものとして厳しく規制されており、その規制内容はCorporations ActPart 7.10Division 31042A条以下)において規定されています。

インサイダー取引(insider trading)とは

インサイダー取引とは、ある「金融商品」に関する「インサイダー情報」を保有している者が、当該情報がインサイダー情報であることを認識しながら、又は合理的に認識すべきでありながら、以下のいずれかの行為を行うことをいいます(本人の行為として行うか、又は誰かの代理人の行為として行うかを問わない)。

(1)当該金融商品の応募、取得又は処分

(2)他者に当該金融商品の応募、取得又は処分をさせること

(3)他者が当該金融商品の応募、取得又は処分を行う可能性があると認識していながら、又は合理的に認識すべきでありながら、当該他者に対して当該情報を提供すること

1043A条)

行為者がインサイダー情報を利用したか否か、インサイダー情報が行為者の意思決定に影響を与えたか否か、行為者の行った行為がインサイダー情報以外のその他の理由に基づくものであったかは関係がないとされています。

インサイダー取引の対象となる「金融商品」の範囲には以下が含まれます(1042A条)。

・ 証券(Securities - 株式、債券及びこれらのオプション)

・ デリバティブ

・ 集団投資スキーム(Managed Investment Scheme)の持分

・ 政府の発行する債券等

・ 年金基金の持分

上記(3)の行為については、その対象となる金融商品は、オーストラリアの金融市場(Australian Securities Exchange)において取引されている金融商品に限られます(1043(2)(c))。

「インサイダー情報」とは、(1)一般的に利用可能ではなく(not generally available - 1042C 条)、かつ(2)金融商品の価格又は価値に重大な影響(material effect  - 1042D条)を与えると考えられる情報をいいます(1042A条)。

誤った情報や不確かな情報であっても上記の要件を満たせばインサイダー情報に該当します。

(1)の例としては、政府機関に届出されて一般人が閲覧可能となった情報や証券取引所にアナウンスされた情報が挙げられます。

(2)の例としては、会社の財務・決算情報、M&A取引、重大な訴訟、重大な契約の締結、画期的な新製品の開発、資本構成や根本的な経営戦略の変更が挙げられます。

インサイダー取引に対する罰則

インサイダー取引に対する罰則として、以下の刑事罰と民事罰があります。

(1)刑事罰(criminal penalties

検察が違反者を刑事訴追して、裁判所が以下のような刑罰を与える判決を下します。

・ 違反者が個人の場合は、「10年以下の懲役」及び/又は「4,500 penalty units945,000豪ドル)又は違反者が得た利益の3倍の金額の罰金」

・ 違反者が会社の場合は、「45,000 penalty units9,450,000豪ドル)、違反者が得た利益の3倍の金額、又は会社の年間売上金額の10%の金額のうちの最大の金額を上限とする罰金

1311条、Schedule 3Item 31

(2)民事罰(civil penalties

ASICが原告となって違反者を被告として裁判所に訴え、裁判所が以下のような命令を下します。

・ 違反者が個人の場合は、200,000豪ドル以下の罰金

・ 違反者が会社の場合は、1百万豪ドル以下の罰金

・ 損害を受けた者に対する補償命令

・ 一定期間会社の取締役への就任を禁止する命令

1317E条、1317F条、1317G条、1317HA条、1317J条、1317K条)

インサイダー取引の調査・訴追機関はASICであり、刑事手続と民事手続のいずれの手続を選択するかはASICが様々な要素を考慮した上で裁量によって決定します。ASICが調査・訴追機関となった2009年から20166月までの間に、ASIC42件のインサイダー取引の訴追を行い、そのうち34件で成功しています。インサイダー取引を含めASICが訴追を行った事例については、ASICが毎年出しているASIC Enforcement Outcomesという報告書に記載されています。

オーストラリアのインサイダー取引規制の適用範囲

インサイダー取引がオーストラリア国内で行われたのであれば、国外で発行された金融商品(例えば、東京証券取引所に上場されている日本株)もオーストラリアのインサイダー取引規制の対象となります。実際にシンガポール証券取引所に上場していた株式についてオーストラリア国内でインサイダー取引を行った者がオーストラリアにおいて処罰された事例があります。

また、オーストラリア国外で行われたインサイダー取引であっても、オーストラリアの会社又はオーストラリア国内で事業を行っている会社が発行した金融商品に関するものであればオーストラリアのインサイダー取引規制の対象となります。

(1042B条)

2018年2月11日 (日)

オーストラリアの金融サービス業に関する規制

1. AFSL規制の内容

オーストラリアにおいて「金融サービス業」(Financial Services Business)を行うためには「オーストラリア金融サービス業ライセンス」(Australian Financial Services Licence)(AFSL)が必要になります(Corporations Act911A(1))。

「金融サービス業」とは、金融サービスを提供する事業をいい(761A条)、以下の行為が金融サービスとされています(第766A条)。

(1) 金融商品に関する助言を提供すること

(2) 金融商品を取り扱う(deal in)こと

(3) 金融商品のマーケットをつくること

(4) 登録スキームを運営すること

(5) 保管・預託サービスを提供すること

(6) 伝統的な信託会社サービスを提供すること

なお、「金融商品」(financial products)とは、有価証券(securities)(定義については前回のブログ記事を参照)、登録されたスキームの持分、一定の非登録スキームの持分、デリバティブ、一定の保険等をいいます(764A(1))。

上記(1)について、金融商品に関する助言とは、「ある者が金融商品を取得するか否かの決定に影響を与えることを意図してなされた、又はそのような意図があると合理的に考えられるような情報の提供」をいいます(766B(1))。純粋な事実情報のみの提供(たとえば財務諸表の提供)であれば助言に該当しませんが、事実情報の提供であっても黙示的に金融商品の取得、保有、処分等を促すような形で提供された場合には助言に該当します。

上記(2)について、以下の行為を本人として、又は代理人として行うことは金融商品を取り扱っている(deal in)とみなされます(766C(1))。

・ 金融商品の申込又は取得

・ 金融商品の発行

・ 有価証券の引受

・ 発行済の金融商品の変更

・ 金融商品の処分

上記の金融商品サービス業に該当する行為を他者が行うようにアレンジすること(上記の行為のために交渉を行ったり、上記の行為を実行するために尽力することを含む)も金融商品を取り扱っているものとされます(766C(2))。

金融商品の取扱いを自分自身のために行っている場合は、自らが当該金融商品の発行者である場合を除き、金融商品の取扱いとみなされません(766C(3))。例えば、ある会社Aが、自らの資産ポートフォリオの運用の一環として、あるファンドBが発行する有価証券を取得する場合、又は当該会社Aが当該有価証券を第三者に処分する場合がこれに該当します。

金融サービスを提供する者は、上記の提供するサービスの種類をカバーしているAFSLを取得している必要があります。AFSLを有しているか否かは、ASICのウェブサイトで無料で検索することができます。オーストラリアにおいて金融サービスの提供を受ける場合には、提供者が当該金融サービスをカバーするAFSLを有しているかを上記のウェブサイトで確認することをお薦めします。AFSL取得者にはライセンス番号が割り振られますが、そのライセンス番号又はAFSL取得者の名前を用いて上記のウェブサイトで検索ができます。

2. 代表者による行為

ある者がAFSL保有者の代表者(representative)として、当該AFSL保有者の保有するAFSLがカバーする範囲で上記の金融サービス業に従事する場合、当該代表者は自身でAFSLを保有する必要はありません。AFSL保有者の代表者についてもASICに登録がなされ、固有の番号が割り振られることになり、ASICのウェブサイトで無料で検索し、確認することができます。AFSL保有者の代表者に金融サービス業に関する取引を行う際には、当該代表者がどのAFSL保有者の代表者として行動しているのかを確認し、当該代表者との契約書には当該代表者が本人の資格ではなく、代表者の資格で行動をすることを明記する必要があります。

3. 海外からの勧誘行為

海外の業者であっても、オーストラリアにおいて金融サービス業に従事している場合(carry on a financial services business in Australia)には、AFSLが必要になります(911A条)。この判断基準には、ASICにおける外国会社の登録が必要になる場合である「carry on business in Australia」と同じ判断基準が使用されており、「利益を得る目的で、継続的かつ組織的に(単独の取引ではなく)活動を行うこと」が該当するとされています。詳細については、以前のブログ記事を参照ください。

海外の業者が、オーストラリア国内の者に対して、自己の金融サービスを利用するように働きかける意図をもって行った行為、又はそのような効果を有する可能性のある行為を行った場合には、オーストラリアにおいて金融サービス業に従事したものとみなされます(911D条)。このため、海外の業者がインターネットや電話によってオーストラリア国内の者に対して自己の金融サービスの利用を働きかける行為を行う場合は、AFSLが必要になると考えられます。

例えば、日本の資産運用業者がオーストラリア国内の投資家に対して、日本で運用されているファンドに投資するように勧誘する行為は、当該行為がメールや電話によってのみ行われたとしても、AFSLが必要になると考えられます。ただし、海外の業者には、様々な免除規定(例えば、ASIC Class Order 03/824)が用意されており、これらの免除規定の要件を満たせば、AFSLは必要になりません。海外の業者のAFSLの要否の詳細を検討するためには、これらの免除規定も含めて確認をする必要があります。

 

2018年2月 5日 (月)

オーストラリアの有価証券の発行開示規制

1.業規制と開示規制

オーストラリアにおいて、株式や社債等の有価証券(Securities)の募集・売出しを行う場合、投資家保護の観点から、日本と同じように「許認可」及び「開示」に関する規制が課されます。

日本では、前者は金融商品取引業の許可であり、後者は有価証券届出書の届出、目論見書の交付といったものになります。

オーストラリアでは、前者はAustralian Financial Services LicenceCorporations ActChapter 7に規定)、後者はProspectus等の開示書類の届出・交付(Corporations ActChapter 6Dに規定)となります。

今回は、後者の開示規制について、説明します。

2.開示規制の内容

Corporations Act(オーストラリア会社法)の706条は、以下に説明する一定の免除事由に該当しない限り、新規発行の有価証券の募集には開示書類(Disclosure Document - 原則としてProspectus)が必要となると定めています。

また、707条は、発行済の有価証券の売出しにも開示書類が必要になる場合があることを定めています。この売出しに関する規制は、706条の募集にかかる開示規制の潜脱を防ぐために定められたものであり、例えば、「発行済株式の売出しを行おうとする者が発行体をコントロールしている場合」や「有価証券が転売目的で開示書類なしに発行され、当該発行から12ヶ月以内に転売される場合」は707条によって開示書類が必要になります。

なお、「有価証券」(securities)とは、(a)株式、(b)債券(debenture - 9条において特別な定義があるため注意)、(c)上記(a)又は(b)に関する法律上又は衡平法上の権利又は利益、 (d)上記(a)乃至(c)の発行を受けるオプション等をいいます(700条(1)、761A条)。

3.開示の免除事由

708条では、開示書類が必要とならない免除事由が定められています。

日本の会社がオーストラリアの投資家に対して、株式、社債等の有価証券を発行することを検討している場合には、これらの免除事由に該当することを確認し、開示書類が必要にならないようにすることが重要です。

(1) 免除事由① 小規模募集・売出し(708(1)(7)

有価証券の募集・売出しは、以下の3つの要件を満たしている場合には、開示書類が必要となりません。

・ 募集・売出しのオファーがPersonalなものであること

・ 12ヶ月以内20名以下の投資家に対して有価証券が発行・譲渡されたこと(※注:オファー自体は20名超の投資家に対してなされてもよく、オファーを受諾して有価証券の発行・譲渡を受けた投資家の数が20名以下であればよい)

・ 12ヶ月以内になされた出資・譲渡金額が2百万豪ドル以下であること

Personalなオファーとは、オファーに興味があると考えられる者に対してなされ、そのような者だけが受託することができるオファーをいいます。オファーに興味があるか否かは、オファーをする者とされる者の間の過去のやりとり、関係、言動といった要素を考慮して判断されます。

(2) 免除事由② 洗練された投資家(Sophisticated Investors)へのオファー(708(8)

洗練された投資家は、自分で自己の利益を保護することができ、保護の必要性が低いという理由から開示書類は必要とされていません。

投資家が発行・譲渡を受けようとしている有価証券の発行・譲渡金額と既に保有している同一の有価証券の金額との合計金額が50万豪ドル以上である場合には、洗練された投資家とみなされます。

また、直近の2会計年度のそれぞれにおいて、純資産が2.5百万豪ドル以上又は総収入が25万豪ドル以上である者(又はそのような者がコントロールしている会社又は信託)も洗練された投資家とみなされます。ただし、純資産・総収入の金額については、資格ある会計士の証明書の発行を受けて証明する必要があります。証明書はオファーがなされた時点から6ヶ月以内のものである必要があります。

(3) 免除事由③ Australian Financial Services Licence保有者によるオファー(708(10)

発行体による有価証券の募集・売出しのオファーがAustralian Financial Services LicenceAFSL、日本の金融商品取引業の許可に相当)の保有者を通じてなされ、かつ、当該AFSL保有者がオファーを受ける投資家がその過去の有価証券の投資経験に鑑みてオファーのメリット・リスク、有価証券の価値、オファーの情報の正確性等を理解できると合理的に判断する場合には、開示書類は必要となりません。

(4) 免除事由④ その他の免除事由(708(13)(20)

·  発行体のSenior Manager(当該発行体の財務状況に重要な影響を与えることができる地位にある者)、その親戚又はこれらの者によってコントロールされている会社に対するオファー(708(12)

· 配当再投資プラン又はボーナス株式プランに基づく既存株主へのオファー(708(13)

·  対価が0の株式のオファー(708条(15))

·  行使価格が0で対価も0のオプションのオファー(708(16)

·  一定の条件の下で、Deed of Company Arrangement(会社再生計画)に基づいて債権者に発行する株式のオファー(708(17A)

開示規制に関する説明は以上になります。

次回は、業規制、すなわちAustralian Financial Services Licence(Corporations ActのChapter 7に規定)について説明します。

 

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