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2018年4月21日 (土)

オーストラリアでよく見られる節税スキーム(その1)

1.Discretionary Trust (裁量信託)又はFamily Trust(家族信託)

オーストラリアの個人事業主などの比較的に小規模のビジネスには、信託(トラスト)の形態で行われているものが良く見られます。これは、事業資産を信託財産として拠出し、経営者及びその家族(配偶者や子供など)を受益者として裁量信託(Discretionary Trust)を設定するというものが多いです。裁量信託は、受託者がその裁量によって信託の収益・財産をどの受益者にどの程度分配するかを自由に決定できる信託です。受託者は経営者自身又は経営者が設立した会社とし、受託者は信託財産からあがる収益を受益者に分配するのですが、その裁量により受益者(家族)全体での課税額が最少になるように分配します。

たとえば、毎年180,000豪ドルの利益が上がる事業を経営者が1名で保有している場合、経営者は54,232豪ドルの所得税(Income Tax)を支払う必要があります(以下の個人にかかる所得税の税率の表を参照)。この事業を信託財産として裁量信託を設定し、受益者を経営者、配偶者1名及び子供1名の3名とした場合、事業の利益(信託財産から上がる利益)を3等分(60,000豪ドルずつ)して各受益者に分配することにより、各受益者は$3,572+($60,000$37,000)×32.5%11,047豪ドルの所得税(受益者3名で33,141豪ドル)を払うことになります。これは事業を経営者1名で保有している場合に支払う所得税額よりも約20,000豪ドルも低い金額になります。

上記のケースで子供が就職しており60,000豪ドルの年収がある場合、180,000豪ドルの事業利益をそのまま3等分して子供に60,000豪ドルを分配してしまうと子供の収入は120,000豪ドルとなり、より高い所得税率が課されてしまうことになるため、180,000豪ドルの事業利益は経営者が80,000豪ドル、配偶者が80,000豪ドル、子供が20,000豪ドルとなるように分配します。これにより各人の年収は80,000豪ドルずつとすることができ、より低い所得税率で抑えることができます。

このような裁量信託による節税スキームが使用できるのは、受益者に加えることができる家族メンバーがいて、かつ当該家族メンバーの収入がない(又は低い)ことが必要になります。このような裁量信託はFamily Trust(家族信託)とも呼ばれます。

オーストラリアの個人に課される所得税(Income Tax)の税率は以下のとおりです。

 

課税対象額

 
 

所得税額

 
 

0以上$18,200以下

 
 

ゼロ

 
 

$18,201以上$37,000以下

 
 

$18,200を超える金額につき19%

 
 

$37,001以上$87,000以下

 
 

$3,572+($37,000を超える金額につき32.5%

 
 

$87,001以上$180,000以下

 
 

$19,822+($87,000を超える金額につき37%

 
 

$180,001以上

 
 

$54,232+($180,000を超える金額につき45%

 

他方、会社に課される所得税(Income Tax)の税率は一律30%(但し、年間売上金額が1,000,000豪ドル未満の会社は27.5% )です。

 

2.Negative Gearing(ネガティブギアリング)

Negative Gearingは、オーストラリアではニュースなどのメディアで非常に良く耳にする言葉です。投資用物件から上がる収益(賃料など)が同物件にかかる費用(管理維持費用、ローンの利息、原価償却など)を下回っている場合、その下回っている差額を損失として、物件所有者のその他の収入と損益通算して所得税の課税対象額を下げることができます。これがNegative Gearingと呼ばれます。

たとえば、年収80,000豪ドルの会社員が投資用物件を保有しており、その賃料が年間15,000豪ドル、管理維持費2,000豪ドル、ローン利息12,000豪ドル、原価償却10,000豪ドルとした場合、その投資物件の損失は9,000豪ドルであり(損失が出る投資、すなわちNegative Gearing)、会社員の課税所得を71,000豪ドルに下げることができます。37,001豪ドル以上87,000豪ドル以下の収入の所得税率は32.5%であるため、$9,000×32.5%=2,925豪ドル分も所得税が低くなります。また、原価償却10,000豪ドルは実際には現金が出て行くものではないため、キャッシュフローとしては15,0002,00012,0001,000豪ドルのプラスになります。

豪州では長期的にみれば過去一貫して不動産の価格が上昇し続けているため、不動産を買っておけば、毎年の損益フローで損失がでても(Negative Gearingであっても)他の収入と損益通算して税金を低くすることができるし、不動産の資産価値(ストックとしての価値)は上昇していくため、積極的に銀行からローンを受けて不動産を買う動きにつながっているといえます。

Negative Gearingが利用できるのは、投資用物件の損失を損益通算できる収入(投資用物件からの収益以外の収入)がある人(特に高い所得税率が課される高収入の人)になります。

 

3.不動産にかかるキャピタルゲイン税(CGT)の減免

オーストラリアで不動産を売買して利益(キャピタルゲイン)を上げた場合(すなわち、不動産の譲渡金額が原価(Cost Base)を上回っている場合)、当該利益について税金を支払わなければなりません。Cost Baseは、「不動産の購入金額」+「購入、保有、売却等にかかる諸経費」+「資本支出(リノベーションの費用など)」-「原価償却金額」によって計算されます。

この売却益は、給与所得等のその他の所得と合算されて、所得税の課税対象額に含まれて所得税が計算されることになります。たとえば、給与所得が180,000豪ドルの人が不動産を売却して50,000豪ドルのキャピタルゲインを得た場合、このキャピタルゲインについて$50,000×45%22,500豪ドルの所得税を支払うことになります。

しかし、不動産所有者が個人の場合、不動産を12ヶ月以上保有していれば、当該不動産の売却益(キャピタルゲイン)について50%の減税を受けることができます。上記の例でいえば、売主が個人であり、売却した不動産を12ヶ月以上保有していた場合には、50%の減税の適用を受けて半額の11,250豪ドルの所得税を支払うことになります。

さらに、オーストラリアでは、自宅として購入し、使用していた不動産についてはキャピタルゲインにかかる所得税が免除されます。上記の例でいえば、売主が個人であり、売却した不動産を自宅として購入・使用していたのであれば、売却益について所得税を支払う必要はなくなります。これを利用して、オーストラリアでは不動産を購入して自宅として使用し、住みながら自らリノベーションして不動産の価値を上げて、その後売却して売却益(所得税は課されない)を得るということを繰り返している人もいます。

上記のキャピタルゲインに関する減免税はいずれも不動産の保有者が個人である場合にのみ適用され、不動産の保有者が会社である場合には適用されません。

キャピタルゲインに対する課税は1985年9月20日から導入されたものであり、同日よりも前に取得した不動産については、その売却益に課税はされません。

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