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2019年7月

2019年7月22日 (月)

FIRB承認について注意すべき点

1.FIRB承認の対象となる取得行為

【この項目の最後に201981日にFIRBへの照会結果を追記しています】

外国人がオーストラリアで事業を営む会社の株式やオーストラリアの事業に関する資産を取得(Acquire)する行為は、一定の条件を満たす場合、FIRBへの通知やFIRBの承認が必要になる「通知行為(Notifiable Action)」や「重大行為(Significant Action)」に該当します。

たとえば、以前の記事の「2.(1)(A)」の箇所でも述べたとおり、①外国人がオーストラリアで事業を営む会社の株式を取得し、②当該会社の総資産の価値又は当該株式の取得対価のいずれか高い方が基準値を超過しており、かつ③当該会社について外国人が単独で20%以上の権益を有することは、「重大行為」に該当します。

気をつけなければならないのは、この「取得(Acquire)」の定義には、「当該割合の持分を保有し始めることstarts to hold an interest of that percentage in the entity)」が含まれていることです(Foreign Acquisition and Takeovers Act 1975 (Cth)20条)。

たとえば、上記の①と②の要件が満たされていたものの、外国人が単独で取得する対象会社の株式が20%未満であったため、③の要件を満たさなかった場合、「重大行為」には該当しません。その後に、他の株主が株式の償還(redemption)等を行って他の株主の持株割合が減少し、当該外国人の持株割合が上昇して20%を越えることになった場合には、新たな「取得(Acquire)」があったとみなされて「重大行為」に該当することになります(したがって、FIRBの承認を取得することが必要になります)。

また、こちらの記事の「3.例外(Exemptions)」で述べたとおり、外国人が豪州の不動産に投資する不動産ファンド(上場・未上場)に対して一定割合(上場ファンドの場合は10%、未上場ファンドの場合は5%)以下の出資を行う場合には、FIRBの承認は必要になりません。しかし、当該ファンドが投資家からの持分の償還(redemption)に応じたこと等によって、外国人の持分割合が上記の割合を超過してしまう場合、このExemptionが適用されなくなってしまうため、注意が必要です。

201981日追記:外国人による投資後に、当該外国人の行為によらずして、当該外国人の持分割合が基準割合を超えることになった場合、上記の解釈のとおり新たな「取得」があったことになるかについて、FIRBに確認をとりました。FIRBからの回答によれば、「取得(Acquire)」の通常の意味には、取得者の何らかの行為(action)を伴うことが含まれており、「通知行為(Notifiable Action)」や「重大行為(Significant Action)」という言葉からしても何らかの行為(action)がとられることを想定していると解釈できるとのことです。この解釈は、Foreign Acquisition and Takeovers Act 1975 (Cth)の第81(1)でも「A foreign person who proposes to take a notifiable action must give a notice to the Treasurer before taking the action」と規定されており、「take」という動詞が使用されていることや、第16(1)の「propose to acquire an interest…」の定義でも「'make’an offer to acquire an interest」、「'make' or 'publish' a statement that invites a holder of a relevant interest to dispose of an interest」、「'take' part in negotiations with a view to acquiring an interest」というように積極的な行為を意味する動詞が使用されていることからも裏付けられるとのことでした。このFIRBの解釈によれば、外国人の行為によらずして当該外国人の持分割合が基準割合を超えることになった場合には、「通知行為」や「重大行為」があったことにはならず、FIRBへの通知やFIRBの承認は必要にならないといえそうです。ただ、FIRBからは、FIRBの回答はリーガルアドバイスではないため依拠することはできず、FIRBへ通知するか否かは弁護士にアドバイスを仰ぐべきであり、FIRBへの通知が必要か否か不明確な場合には保守的に考えてFIRBへの通知を出すことをお薦めするというコメントも受けています。】

2.FIRB承認の必要性の判断基準時

FIRB承認の必要性は、外国人による取得(Acquire)の時点で判断されます。

たとえば、以前の記事の「2.(1)(C)」の箇所も述べたとおり、①外国人がオーストラリアの土地に対する権益を取得し、かつ②当該土地に対する権益の取得が基準値を超過している場合には、「重大行為」に該当し、FIRBの承認を取得することが必要になります。この基準値は土地の権益の種類によって異なっており、「居住用地」や「更地の商業用地」は基準値がゼロであり、これらの権益を取得する場合には、「重大行為」に該当し、FIRBの承認を取得することが必要になります。

外国人が商業ビル(開発済の商業用地)を取得し、将来的にはその商業ビルを取り壊して更地にし、その上で居住用マンションを建設しようと考えていたとします。この場合、当該土地の性質は、「開発済の商業用地」⇒「更地の商業用地」⇒「居住用地」の順で変化していくことになります。しかし、外国人が取得する時点では当該土地は「開発済の商業用地」であるため、当該土地に対する権益の価値が基準値(取得する外国人が日本人又は日本企業の場合には1,154百万豪ドル)を超過していなければ、「重大行為」に該当せず、FIRBの承認は必要ないことになります。

2019年7月 8日 (月)

就業規則等の社内規則について

オーストラリアの会社においても、就業規則をはじめとする従業員に適用される様々な規則が定められているのが通常です。

日本では、労働基準法において、常時10人以上の従業員を使用する雇用主は、就業規則を作成し労働基準監督署に届け出る義務があります。他方、オーストラリアでは、就業規則の作成は任意であり、当局に届け出る必要もありません。

1.一般的な就業規則の内容

オーストラリアでは、就業規則は、Employment HandbookEmployment Policyなどと呼ばれます。就業規則には、以下の(1)~(11)のような内容が盛り込まれることが一般的です。以下の全ての内容を一つの就業規則に盛り込む必要はなく、複数の規則(Policy)に分けて規定しても構いません。特に(8)のプライバシーに関する事項(Privacy Policy)などは、会社のウェブサイト等で一般公開されるものであるため、別個の規則として作成するのが通常です。

(1) 労働安全衛生に関する事項(Work Health and Safety Policy

⇒ 雇用主及び経営陣は従業員の労働安全衛生を確保する法的義務を負っており、この義務を果たすためにも労働安全衛生に関する事項を規則として定めておく必要があります。

(2) いじめ、ハラスメント及び差別に関する事項(Bullying, Harassment and Discrimination Policy

⇒ 労働法上、雇用主及び経営陣は職場におけるいじめ、ハラスメント及び差別を防止するために合理的な措置を採る義務を負っており、この義務を果たすためにも禁止されるいじめ、ハラスメント及び差別を規則で明確にし、また、そのような行為があった時にとられる手続についても規定しておきます。

(3) 行為規範(Code of Conduct

⇒ 従業員として期待される行為(服装の定めなども含む)を規定します。

(4) 薬物及びアルコールに関する事項(Drug and Alchohol Policy

⇒ 職場における薬物・アルコール類の禁止・制限について規定します。

(5) 休暇に関する事項(Leave Policy

⇒ 年休や病欠の取り方等について規定します。

(6) 紛争解決・苦情申立に関する手続(Dispute Resolution and Grievance Policy

⇒ 従業員が雇用主や他の従業員に対して苦情を申し立てたり、紛争を解決するための手続を定めます。

(7) パフォーマンス管理・懲戒に関する手続(Performance Management and Discipline Policy

⇒ 従業員のパフォーマンスの評価・管理の基準・手続、従業員による不適切な行為や懲戒処分の種類・内容並びに懲戒手続を定めます。

(8) インターネット・Eメール・ソーシャルメディアの利用に関する事項(Internet, Email and Social Media Policy

(9) プライバシーに関する事項(Privacy Policy

⇒ Privacy Act 1988 (Cth)に基づき従業員や顧客等の個人情報の管理に関する規則を定めます。その内容についてはAustralian Privacy Principlesに従って定められます(以前の記事を参照)。

(10) 給与・福利厚生に関する事項(Pay, Conditions and Benefits

(11) 内部通報制度に関する事項(Whistleblowing Policy

⇒ 201971日以降は、公開会社(Public Company)及び大規模非公開会社(Large Proprietary Company - ①連結の年間収入が$25百万豪ドル以上、②連結の総資産が25百万豪ドル以上、③従業員が100名以上の3つのうち2つ以上を満たすProprietary Company)は、Corporations Act 2001 (Cth)において内部通報制度に関する制度を定めることが求められます。

(12) 経費に関する事項(Expense Policy

⇒ どのような経費が会社の経費として落とせるか、経費申請の手続などを定めます。

2.就業規則の法的性質

就業規則は雇用主と従業員の間の合意(雇用契約における明示の規定又は雇用主と従業員の間に黙示の合意)によって雇用契約の内容に組み込むこともできます。この場合、就業規則の内容は雇用契約の一部となるため、雇用主と従業員の双方は就業規則の内容を遵守することが義務付けられ、就業規則に違反をした場合には雇用契約の違反とみなされます。また、雇用主が就業規則を変更する場合には、雇用契約の変更と同様に従業員の同意が必要になります。オーストラリアでは、このように就業規則を雇用契約の一部として組み込む扱いは一般的ではありません。むしろ、就業規則が雇用契約の一部とならないように、雇用契約や就業規則において明示的に就業規則は雇用契約の一部ではないことを定めるのが通常です。

就業規則が雇用契約の一部ではない場合、就業規則は雇用主による業務にかかる指図と解されるのが一般的です。雇用主は、雇用契約上、従業員に対して業務上の指図を出すことができますが、この業務上の指図を文書化して定めたものが就業規則ということになります。この場合、雇用主は就業規則の内容を遵守する法的な義務は負わず、また、就業規則の内容の変更について従業員の同意は必要ないことになります。ただし、業務上の指図は合理的なものでなければならないため、就業規則の内容も合理的なものでなければ従業員は従う義務はないことになります。従業員の立場からすれば、雇用主に対して法的義務を負わせたい事項があれば、これが就業規則に定めてあれば満足するのではなく、雇用契約の中に規定するように要求すべきといえます。

2019年7月 7日 (日)

従業員の解雇について

(1)期間の定めのある雇用契約

豪州法上、固定期間の雇用契約(予め定めた一定の時期に雇用が終了するタイプの契約)であれば、固定期間の満了により雇用契約は終了します。この期間の定めのある従業員は、期間満了に伴い、解雇予告(Notice of Termination)や整理解雇手当(Redundancy Pay)を受ける権利はありません。ただし、期間の定めのある契約が複数回更新されることにより、期間の定めのない契約として扱われる可能性がありますので、この点は留意する必要があります。

(2)期間の定めのない雇用契約

期間の定めのない雇用契約を従業員の同意なしに雇用主が終了させる場合、①雇用契約違反に基づく解雇、及び②整理解雇(Redundancy)の2つがあります。

① 雇用契約違反に基づく解雇

雇用契約違反に基づく解雇の例として、従業員が不正行為(Misconduct)を行ったため懲戒解雇されるケースとやパフォーマンス(Poor Performance)により解雇されるケースがあります。いずれについても解雇に到るまでの手続が就業規則等において定められているのが通常ですが、一般には以下のような手順を経ることが見られます。

1.従業員に対してShow Cause Letterを出し、雇用主が従業員の不正行為・低パフォーマンスについて懸念を有していること、また、当該従業員の弁明や改善が不十分であれば、雇用主が所定の手続をとった上で当該従業員の雇用を終了させることを伝えます。

なお、上記のShow Cause Letterと並行して、雇用主は従業員に対して合意に基づいて退職をする機会を与えることも行われます。当該従業員が合意すれば以下の2以降の手続を経ずに当該従業員の雇用を終了させることができます。

2.雇用主は、当為従業員に対して不正行為・低パフォーマンスについての合理的な証拠を示し、当該従業員に弁明の機会や改善の機会を与えます。弁明や改善が不十分である場合には、雇用主は解雇(又はその他の懲戒処分)の決定を行うことになります。この手続は複数回にわたって行われることも多くあります(3ヶ月ごとに当該従業員の行為・態度・パフォーマンスをチェックし、当該従業員と改善策を協議し、それでも改善が見られない場合に解雇の決定を行うなど)。

3.雇用主は解雇の決定を行った上で、当該従業員に対して解雇の通知を行います。解雇の通知に関して、法令上、重大な不正行為(Serious Misconduct)による懲戒解雇の場合を除き(Fair Work Act 2009Cth)第123(1)(b)Fair Work Regulations 2009 (Cth)1.07条)、一定期間の事前通知(解雇予告:Notice of Termination)が要求されています(Fair Work Act 2009Cth)第117条)。この法令で定める通知期間は最低限の通知期間であり、雇用契約や労使裁定(Modern Award)、労使協約(Enterprise Agreement)においてこれよりも長い通知期間が定めてある場合には、その長い方の通知期間が適用されます。雇用契約において通知期間を定めていない場合、判例法上、従業員は雇用主からの解雇に際して「合理的な通知(Reasonable Notice)」を受ける権利があり、合理的な通知(Reasonable Notice)の期間が法令上の通知期間又は労使裁定や労使協約に定める通知期間よりも長い場合には、合理的な通知の期間に従うことになります。「合理的な通知」とは、従業員の年功、勤続年数、年齢、給与、転職の容易性等を考慮して決められます。一般に、年次の高い長期雇用された従業員の場合は、「合理的な通知」も相当長期のものが必要になる可能性があり、場合によっては6ヶ月又は12ヶ月となる可能性もあります。

雇用主は通知期間分の給料を支払うことにより(Payment in Lieu of Notice)、通知期間の終了を待たずに従業員の雇用を終了させることもできます。

② 整理解雇

整理解雇(Redundancy)は従業員が担当していた職務が雇用主にとって必要とされなくなる場合に発生します(Fair Work Act 2009Cth)第119条)。二名の従業員が担当していた職務が一名の従業員でも担当できるようになった、又は他の従業員が兼務できるようになったといった場合でも整理解雇は発生します。

整理解雇を行う場合、雇用主は当該従業員に対して整理解雇手当(Redundancy Payment)を支払う義務があります(Fair Work Act 2009Cth)第119条)。

整理解雇は雇用契約や就業規則、労使裁定(Modern Award)や労働協約(Enterprise Agreement)に定める手続にしたがって行われなければなりませんが、典型的には以下のような手順で行われます。

1.雇用主は、当該従業員の職務が不要になったことを明確に証明する論拠(ビジネスケース)を固めます。

2.整理解雇の通知を出す前に(23週間前に)、雇用主は当該従業員と協議を開始します。この協議では整理解雇の可能性について触れた上で、その他の選択肢がないかについても誠実に議論します。

3.整理解雇の通知を出す少なくとも1週間前までに、雇用主は当該従業員と最終の協議を行い、当該従業員のフィードバックを聞いた上で、他に選択肢が無ければ、当該従業員の職務がRedundantになることを知らせます。

4.雇用主が当該従業員に対して追加の補償金等を支払う場合には、雇用主は当該従業員との間でDeed of Settlementを締結して雇用終了の条件を明確に規定します。

5.当該従業員に整理解雇の通知を出して雇用終了日と当該従業員に支払われる補償金等の確認を行います。

 

【20201110日追記:雇用契約書には、「雇用者は従業員に対して、●ヶ月の事前通知を出すことによって雇用契約を終了することができる」旨が規定されているのがよく見られます。しかし、この規定は雇用を終了させる場合に必要となる事前通知の期間を定めているにすぎず、●ヶ月前の事前通知を出せば如何なる理由によっても解雇できることを定めたものではありません。雇用者が合理的な理由なしに従業員の雇用を終了させる行為は、Unfair Dismissal(不当な解雇)に該当し、豪州労働法において禁止されています(Fair Work Act 2009 (Cth)379条以下)。不当な解雇に該当しないためには、上記(2)で述べたとおり、①雇用契約違反に基づく解雇、又は②整理解雇(Redundancy)である必要があります。また、上記で述べたとおり、適切な手続を経て解雇が行われる必要があります。Unfair Dismissalの保護を受けることができる従業員は、雇用者の下で6か月以上(雇用者が小規模事業者の場合は12ヶ月以上)勤続した従業員であって、かつ、労使裁定又は労使協約が適用されず、給与金額がHigh Income Threshold20201110日時点において年間153,600豪ドル)未満である従業員になります(第382条)。しかし、豪州労働法においてUnfair Dismissalの保護を受けない従業員についても、上記のような適切な理由に基づき、適切な手続を経なければ、解雇は行わないのが通常です。理由を明確にせずに従業員を解雇した場合、豪州労働法において違法とされている理由に基づいて解雇した(たとえば、性別などによる差別や労働組合の組合員であることを理由とした解雇など)という主張が従業員からなされたり、裁判所等からそのような認定がされるリスクがあるためです(裁判実務において、従業員の解雇が違法な理由に基づくものでなかったことを立証する責任は雇用者側に課されており、雇用者が立証に失敗すると解雇が違法な理由に基づくものであったことが推定されます)。Unfair Dismissalに該当せずとも、違法な差別や労働法上の権利を行使したことを理由とする解雇その他の不利益行為は、豪州労働法において違法行為となり、禁止されています。】

雇用契約におけるJob Description(職務範囲)について

豪州の雇用契約では従業員のJob Description(当該従業員が行うべき業務)(Position Descriptionとも呼ばれます)について比較的詳細に定めてあるのが通常です。従業員の評価はこのJob Descriptionに照らして判断されます。Job Descriptionに記載されている業務を適切に実行していれば従業員は雇用契約上で求められる職務遂行義務を果たしていることになりますし、そうでなければ職務遂行義務を果たしていないとして懲戒処分の対象となりえます(最悪の場合には解雇処分を受けます)。

Job Descriptionを変更する際には、従業員の同意を得るか、又は変更が合理的かつ業務の内容を根本的に変えないものである必要があります。従業員の同意を得ずに、業務の内容を根本的に変えることになるJob Descriptionの変更を雇用主が行った場合、当該従業員を整理解雇(Redundancy)又は違法な解雇を行ったものとみなされる可能性があります。

たとえば、Job Descriptionに受付業務を担当すると記載されている従業員に対して、会計帳簿の管理業務を行わせることは業務の内容を根本的に変えるものとして認められません(整理解雇又は違法な解雇とみなされます)。他方、同じ従業員に対して、受付業務で必要になる会議室予約システムの使い方の習得を命じることはJob Descriptionに記載されている受付業務の範囲内として認められると考えられます。

日本では、従業員の業務範囲を雇用契約等で詳細に定めることは少なく、従業員は会社が命じた業務であれば何でも柔軟に対応するのが一般的となっています(たとえば、営業を担当していた者を法務に配置換えする等)。この日本の感覚で豪州で従業員に対して担当業務の変更を命じることは認められませんので注意が必要です。

雇用契約において、雇用主はビジネスの状況に応じて従業員のJob Descriptionを変更できる旨の規定が入れておくことにより、Job Descriptionの変更について従業員の事前の同意があったという主張を行うことは可能です。ただし、このような場合であっても、このような主張が認められるかについては不確実性が残るため、雇用主が従業員のJob Descriptionを一方的に変更することは極力避けるべきであり、従業員と事前に協議を行い、可能な限り従業員の同意を得るようにするべきです。

2019年7月 5日 (金)

事業譲渡時の雇用の承継

オーストラリアでは、企業買収を行う場合の主要な方法として、①株式譲渡(Transfer of Shares)と②事業譲渡(Transfer of Business)の2つがあります(日本法の合併、会社分割のような組織再編行為は存在しません)。

株式譲渡による企業買収の場合、買収対象会社の株式が売主(買収対象会社の株主)から買主に移転するだけですので、買収対象会社の従業員の雇用契約その他の権利・義務は、そのまま買収対象会社において存続することになります。

他方、事業譲渡による企業買収の場合、買収対象会社(売主)はその事業にかかる資産を買主に譲渡することになるため、買収対象会社の従業員の雇用契約その他の権利・義務についても買収対象会社から買主に譲渡させることが必要になります。

事業譲渡にあたり、買収対象会社の従業員の雇用契約その他の権利・義務を買収対象会社から買主に移転させるためには、当該従業員の同意が必要になります。買主が買収対象会社の従業員に対して、現在の雇用契約と実質的に同等の条件で、かつ全体的に見て現在の雇用契約よりも当該従業員に不利ではない条件で新しい雇用契約のオファーを行わなかった場合(where offer of employment is not made on the terms and conditions that are substantially similar to and on an overall basis no less favourable than the employee's terms and conditions of employment with his/her previous employer)、売主は当該従業員に対して整理解雇(Redundancy)を行ったとみなされます(Fair Work Act 2009 Cth)第122(3))。売主が整理解雇を行ったとみなされる場合、売主は当該従業員に対して整理解雇手当を支払う必要があります。

整理解雇手当の支払うことになるリスクを避けるために、事業譲渡契約の中において、買主が承継する予定の従業員に対して、現在の雇用契約と実質的に同等の条件で、かつ全体的に見て現在の雇用契約よりも当該従業員に不利ではない条件で新しい雇用契約のオファーを行うことを買主に義務づけることが良く見られます。また、承継しない予定の従業員については、上記のようなオファーを出さないため、整理解雇が行われたとみなされますが、この整理解雇手当の支払による負担も事業譲渡の売買価格に反映させるか否かも事業譲渡契約の中で規定されます。

また、売主(現在の雇用主)の下で発生・累積した年次有給休暇(Annual Leave - 年間20日)、病気休暇(Personal Leave - 年間10日)及び永年勤続休暇(Long Service Leave - 同一雇用主の下で10年間勤続した場合に2ヶ月間の有給が与えられるという豪州特有の休暇制度)にかかる従業員の権利や整理解雇手当(Redundancy Payment)や永年勤続休暇(Long Service Leave)の付与の計算のベースとなる従業員の勤続年数は、買主(新しい雇用主)においてそのまま引き継がれるのが原則です(Fair Work Act 2009 (Cth)22(5))。ただし、例外的に、発生・累積済の年次有給休暇、整理解雇又は不当解雇(Unfair Dismissal)にかかる従業員の権利の付与のベースとなる勤続年数については買主に引き継がれないようにすることも可能です(Fair Work Act 2009 (Cth)91条、第122(1)、第384(2)(b))。

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