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2019年7月 5日 (金)

事業譲渡時の雇用の承継

オーストラリアでは、企業買収を行う場合の主要な方法として、①株式譲渡(Transfer of Shares)と②事業譲渡(Transfer of Business)の2つがあります(日本法の合併、会社分割のような組織再編行為は存在しません)。

株式譲渡による企業買収の場合、買収対象会社の株式が売主(買収対象会社の株主)から買主に移転するだけですので、買収対象会社の従業員の雇用契約その他の権利・義務は、そのまま買収対象会社において存続することになります。

他方、事業譲渡による企業買収の場合、買収対象会社(売主)はその事業にかかる資産を買主に譲渡することになるため、買収対象会社の従業員の雇用契約その他の権利・義務についても買収対象会社から買主に譲渡させることが必要になります。

事業譲渡にあたり、買収対象会社の従業員の雇用契約その他の権利・義務を買収対象会社から買主に移転させるためには、当該従業員の同意が必要になります。買主が買収対象会社の従業員に対して、現在の雇用契約と実質的に同等の条件で、かつ全体的に見て現在の雇用契約よりも当該従業員に不利ではない条件で新しい雇用契約のオファーを行わなかった場合(where offer of employment is not made on the terms and conditions that are substantially similar to and on an overall basis no less favourable than the employee's terms and conditions of employment with his/her previous employer)、売主は当該従業員に対して整理解雇(Redundancy)を行ったとみなされます(Fair Work Act 2009 Cth)第122(3))。売主が整理解雇を行ったとみなされる場合、売主は当該従業員に対して整理解雇手当を支払う必要があります。

整理解雇手当の支払うことになるリスクを避けるために、事業譲渡契約の中において、買主が承継する予定の従業員に対して、現在の雇用契約と実質的に同等の条件で、かつ全体的に見て現在の雇用契約よりも当該従業員に不利ではない条件で新しい雇用契約のオファーを行うことを買主に義務づけることが良く見られます。また、承継しない予定の従業員については、上記のようなオファーを出さないため、整理解雇が行われたとみなされますが、この整理解雇手当の支払による負担も事業譲渡の売買価格に反映させるか否かも事業譲渡契約の中で規定されます。

また、売主(現在の雇用主)の下で発生・累積した年次有給休暇(Annual Leave - 年間20日)、病気休暇(Personal Leave - 年間10日)及び永年勤続休暇(Long Service Leave - 同一雇用主の下で10年間勤続した場合に2ヶ月間の有給が与えられるという豪州特有の休暇制度)にかかる従業員の権利や整理解雇手当(Redundancy Payment)や永年勤続休暇(Long Service Leave)の付与の計算のベースとなる従業員の勤続年数は、買主(新しい雇用主)においてそのまま引き継がれるのが原則です(Fair Work Act 2009 (Cth)22(5))。ただし、例外的に、発生・累積済の年次有給休暇、整理解雇又は不当解雇(Unfair Dismissal)にかかる従業員の権利の付与のベースとなる勤続年数については買主に引き継がれないようにすることも可能です(Fair Work Act 2009 (Cth)91条、第122(1)、第384(2)(b))。

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