内部通報制度(Whistleblower Protection Policy)
【本記事の最後に2019年8月9日と11月28日にASICのガイドライン(Regulatory Guidance)に関する追記をしています】
2019年7月1日からTreasury Laws Amendment (Enhancing Whistleblower Protections) Act 2019 (Cth)が施行され、内部通報制度(Whistleblower prorection)に関する会社法(Corporations Act 2001 (Cth)のPart 9.4AAA(1317AA条以下)の規定が大幅に改正されることになりました。
1.内部通報者の保護
「Eligible Whistleblower」が、会社又はその関連会社における不正行為(Misconduct)、不適切な状態・状況が存在する、もしくは会社又はその関連会社、それらの役員・従業員が会社法等に違反する行為、12ヶ月以上の懲役刑が課される連邦法の違反行為もしくは公衆又は金融システムに危険を生じさせる行為等を行ったと合理的に疑う理由があるときにおいて、ASIC、APRA、「Eligible Recipient」等に情報提供を行った場合、「Part 9.4AAAに定める保護(Whistleblower Protection)」を受けることができます(1317AA条)。
「Eligible Whistleblower」には、当該会社の役員・従業員、当該会社にサービス又は製品を提供している個人、当該会社にサービス又は製品を提供している者の従業員、これらの者の親戚等が含まれます(1317AAA条)。
「Eligible Recipient」には、当該会社又はその関連会社の役員・Senior Manager、Auditor(監査人)、当該会社内で内部通報の窓口として指定された者等が含まれます(1317AAC条)。
「Part 9.4AAAに定める保護」としては、(1)情報提供を受けた者は情報提供者(Whistleblower:内部通報者)の身元が判明する情報を開示してはならない(1317AAE条)、(2)当該情報提供に関して、民事・刑事・行政上の責任を問われず、契約上その他の責任も追及されない(1317AB条)、(3)当該情報開示を行ったことを理由として情報提供者に不利な扱い(解雇、職責変更、嫌がらせ・脅し等)をしてはならない(1317AC条)、(4)裁判所は不利な扱いを行った者に対する賠償等を命じることができる(1317AD条)といったものがあります。
2.内部通報制度の制定義務
オーストラリアの会社のうち「Public Company(公開会社)」と「Large Proprietary Company(大規模非公開会社)」については、内部通報制度(Whistleblower Protection Policy)を定める必要があります(1317AI条)。「公開会社」及び「大規模非公開会社」の意味については以前の記事参照。
内部通報制度は以下の点を網羅している必要があります(1317AI条(5))。
・ 内部通報者が保護を受けることができる情報の範囲
・ 内部通報を受ける担当者及び内部通報の方法
・ 会社が内部通報者をサポートし、不利益から保護する方法
・ 会社が内部通報された情報を調査する方法
・ 会社が内部通報された情報の中で言及されていた従業員を公正に取り扱う方法
・ 内部通報制度を会社の役員・従業員に周知させる方法
・ その他会社法規則で定める事項
この内部通報制度の制定義務は2019年7月1日から施行されますが、法令で半年間の猶予期間が定められているため、公開会社と大規模非公開会社は、2020年1月1日までに会社法の要件を満たした内部通報制度を制定する必要があります。
【2019年8月9日追記:なお、ASICは内部通報制度の要件に関するガイドライン(Regulatory Guidance)を制定する予定です。このガイドラインが制定された場合には、各社は内部通報制度をこのガイドラインに沿ったものに修正する必要があると考えます。2020年1月1日までにこのガイドラインが制定されるかどうかは不明であるため、各社は2020年1月1日までに会社法の要件を満たした内部通報制度を制定し、その後にガイドラインが制定されたら、さらにガイドラインに沿って内部通報制度を修正することになると考えます。】
【2019年11月28日追記:2019年11月13日に、ASICは内部通報制度の要件に関するガイドライン(ASIC Regulatory Guide 270 - Whistleblower policies)を制定しました。ガイドラインの内容を確認したところ、ガイドラインでは会社法で要求されている以上の内容を内部通報制度に盛り込むことを求めているように思われます。具体的には、ガイドラインの8ページ以下のTable 1において内部通報制度に盛り込むべき内容が規定されていますが、これは会社法1317AI条(5)に規定されている内容以上のものであると考えられます。ガイドラインは法律ではありませんが、ASICが適切だと考える内部通報制度の内容を規定しているものであるため、規制官庁であるASICに問題視されないためにも、やはりガイドラインに従って内部通報制度を制定することが必要であると考えられます。】
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