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2019年11月30日 (土)

Privilege(秘匿特権)について(1)

1.Discoveryの制度

オーストラリアの民事裁判が日本の民事裁判と異なる大きな点として、Discoveryの制度があります。Discoveryの制度では、民事裁判の各当事者は当該裁判の争点に関連する証拠(documents relevant to the factual issues in dispute)で自身が保有しているもの(in the party's custody, possession or power)を全て裁判所及び相手方当事者に開示しなければなりません。日本の裁判であれば、裁判の当事者が保有している証拠で自身にとって不利なものであれば、基本的に裁判所や相手方当事者に開示しないでおくことができますが、Discoveryの制度があるオーストラリアでは、そのような自身に不利な証拠であっても裁判所及び相手方当事者に開示する義務があります。そうはいっても、当事者としては自身に不利な証拠は存在しないと裁判所や相手方に対して嘘をつけばよいと考えるかもしれませんが、オーストラリアの弁護士は依頼者のみならず裁判所に対してもOfficer of Courtとして義務を負っており、依頼者がそのような嘘をつくことを許してはなりません。あくまでも依頼者がそのような嘘をつくと言い張る場合、弁護士はその依頼者からの委任を解除し、弁護人を降りることになります。当事者がDiscoveryにおいて要求されている証拠を提出しない場合、裁判所によって、その当事者が原告であれば訴訟が棄却され、被告であれば抗弁が却下される可能性があります。

2.Privilege(秘匿特権)

Discoveryにおいて、証拠の開示が免除される例外がいくつかあります。ここでは、Legal Professional PrivilegePrivilege against Self-incrimination及びWithout Prejudict Privilege3つを取り上げます。

(1)Legal Professional Privilege

Client Legal Privilegeとも呼ばれます。Legal Professional Privilegeは、弁護士と依頼者の間のコミュニケーションであり、法的アドバイスを得ること又は訴訟(既存の訴訟及び合理的に予期される訴訟)で使用することを主たる目的として行われたものに適用されます。法的なアドバイスを得ることを主たる目的としたコミュニケーションを対象とするLegal Professional PrivilegeAdvice Privilegeと呼ばれ、弁護士のアドバイスのメモやメールなどがこれに当たります。訴訟で使用することを主たる目的としたコミュニケーションを対象とするLegal Professional PrivilegeLitigation Privilegeと呼ばれ、裁判で使用するために作成した主張書面、証人の供述書・専門家の意見書その他の証拠(もちろん裁判で証拠として提出された後はPrivilegeの適用はありません)がこれに当たります。

両者の区別をわかりやすく言うと、Advice Privilegeは訴訟の有無にかかわらず、あらゆる法的なアドバイスに対して適用があり、他方で、Litigation Privilegeは訴訟での使用目的でなされた依頼者以外の第三者(証人、専門家等)とのコミュニケーションについても適用があります。

よく弁護士からのコミュニケーションにConfidential and Privilegedという文言がメールやレターの冒頭に明示されていることがありますが、これはこのLegal Professional Privilegeが適用されることを示すために記載されています。

なお、Legal Professional Privilegeは依頼者の権利であり、依頼者は明示又は黙示にこのLegal Professional Privilegeを放棄することができます。Legal Professional Privilegeの対象となるコミュニケーションの内容を第三者に開示した場合は明示的にLegal Professional Privilegeを放棄したといえます。また、Legal Professional Privilegeの維持と矛盾する行動をとった(inconsistent with the maintenance of privilege場合は黙示的にLegal Professional Privilegeを放棄したものとみなされます。守秘義務や使用目的の制限等の適切な措置を取らずに、M&Aや不動産取引において弁護士が作成した法務デューディリジェンスレポートを相手方に開示したり、弁護士の作成したアドバイスメモを他者に開示してシェアするなどした場合、当該レポートやアドバイスメモに関してLegal Professional Privilegeの維持と矛盾する行動をとったとみなされ、Legal Professional Privilegeがは放棄されたとみなされます(したがってDiscoveryの際に開示を拒むことはできなくなります)。日本にはこのLegal Professional Privilegeが存在しないため、日本の感覚で弁護士のアドバイスなどを第三者と共有するとLegal Professional Privilegeが失われてしまうので特に注意が必要です。

また、このLegal Professional Privilegeは、裁判におけるDiscovery手続の際に開示を拒むことができるだけでなく、政府機関や監督当局から行政上の調査等を受けた際に開示を拒むこともできます。

長くなったので、次回に続きます。

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