インサイダー情報の公表
以前の記事でオーストラリアのインサイダー取引規制の概要について説明したとおり、インサイダー情報を有している者が当該インサイダー情報にかかる金融商品の取引を行う場合、インサイダー規制に違反することになります。しかし、その情報が市場に公表された場合、当該情報はインサイダー情報ではなくなり、公表後に当該金融商品の取引を行うことはインサイダー規制には違反しないことになります。今回はこのインサイダー情報の公表について説明します。
オーストラリア会社法1042C条(1)では、①情報が容易に観察可能な事項(readily observable matter)である場合、または、②当該情報によって価格が影響を受ける金融商品に投資する投資家の注意を引く形で情報が開示され、かつ投資家の間に当該情報が拡散するための合理的な時間が経過した場合において、当該情報はインサイダー情報に該当しなくなるとされています。
オーストラリア証券取引所(ASX)に上場している会社の場合、ASXのウェブサイトや当該会社のウェブサイトにおいてアナウンスメントが掲載されることになり、その後すぐに(数時間内に)Thomson ReutersやBroombergなどのメディアでも情報が流れるため、その時点までには①や②を満たすこととなり、開示された情報がインサイダー情報に該当しなくなると考えられます。
なお、オーストラリア会社法1042C条(1)で求められている投資家の注意を惹く開示としては、ASXでの開示でも会社のウェブサイトの開示でも違いはありません。ただし、ASXの上場規則において、市場にリリースされる情報については、まずはASXを通じてリリースをする必要があります(ASX Guidance Note 14の10項)。したがって、会社のウェブサイトでの開示はASXでの開示の直後に行うことになります。
ASXや会社のウェブサイトでリリースされた情報が、①容易に観察可能な事項になるか、または、②投資家の間に拡散するための合理的な時間が経過したかについて、形式的・外形的に明確な基準はなく、基準は規範的なものになります。
「拡散するための合理的な時間」というときの「合理的な時間」は状況によって異なります。たとえば、取引量が非常に少ない金融商品であれば取引量が多い金融商品に比べて情報が拡散するための「合理的な時間」はより長くなると解されます。また、リリースされた情報の内容が理解に時間を要する複雑なものであれば、即座に理解できる単純な内容の情報に比べて、情報が拡散するための「合理的な時間」はより長くなると解されます。
どの程度の時間が「合理的な時間」であるか、はっきりとした基準がないため、インサイダー取引のリスクを避けるためには、ASXや会社のウェブサイトでアナウンスメントが掲載され、メディアにおいても報道がなされ、情報が投資家の間に行き渡ったことを十分に確認した上で、取引を行うべきということになります。
« 内部通報制度(Whistleblower Protection Policy) | トップページ | フランチャイズ事業に関する規制 »
「会社法」カテゴリの記事
- 幻冬舎ゴールドオンラインでの連載(2021.06.20)
- 会社の契約締結、株主総会・取締役会、会議通知、議事録等の電子化(2020.11.20)
- オーストラリアにおける海外(日本)の金融商品の販売・勧誘に対する規制(2020.09.16)
- 株主有限責任の原則とその例外(2020.07.18)
- M&A後のリストラクチャリング(2020.01.10)
「コンプライアンス」カテゴリの記事
- 京都海外ビジネスセンター イノベーションセミナー(2022.03.20)
- フランチャイズ事業に関する規制(2019.11.16)
- インサイダー情報の公表(2019.11.07)
- 内部通報制度(Whistleblower Protection Policy)(2019.08.05)
- 現代奴隷法(Modern Slavery Act)(2019.06.03)
« 内部通報制度(Whistleblower Protection Policy) | トップページ | フランチャイズ事業に関する規制 »
コメント