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2020年1月10日 (金)

M&A後のリストラクチャリング

(1)M&Aの方法

オーストラリア法には合併、分割といった日本法でいう組織再編行為が存在しないため、M&A(企業買収)の方法は、基本的に「①株式譲渡(transfer of shares)」又は「②資産譲渡(transfer of assets)」のいずれかしか存在しません(上場会社の買収に利用されるTOBScheme of Arrangementも株式譲渡といえます)。「②資産譲渡」は個々の資産(動産・不動産、契約、許認可、知的財産権、従業員等)を譲渡人から譲受人に移転しなければならず手間がかかりますが、「①株式譲渡」は資産の所有者である会社の株式の譲渡が行われるだけで、当該会社の個々の資産の移転に関する手続は必要となりません。したがって、「①株式譲渡」の方が簡便に行うことができるため、オーストラリアのM&Aでは株式譲渡が最も一般的なM&Aの方法となっています。「②資産譲渡」が利用されるのは、主として移転したくない資産(又は債務)を選り分けたいというニーズがある場合です。

(2)M&A(会社買収)後の統合

株式譲渡によって会社を買収した場合、買収会社側には買収会社と被買収会社の2つの会社が残ることになります。買収を何度か繰り返していくと買収の数だけ会社の数が増えていくことになります。これらの被買収会社と買収会社をくっつけて1つの会社にまとめたい場合には、まず被買収会社の資産を買収会社へ譲渡し、その後で空になった被買収会社を登記抹消する必要があります。すなわち、M&A後の統合作業は、資産譲渡と登記抹消の2ステップになります。

A. 資産譲渡

この資産譲渡はグループ内での資産譲渡であるため(すなわち譲渡人も譲受人も同じグループ内の会社であるため)、資産譲渡契約はCP、表明保証やコベナンツなどを規定する必要のない簡素なもので済みます(資産譲渡価格も1ドルなどのNominalな金額で済むのが通常です)。しかし、個々の資産(動産・不動産、契約、許認可、知的財産権、従業員等)を移転する手続は必要であり、この手続には手間がかかります。不動産の移転であれば移転登記手続が必要になり、登録される知的財産権(商標権、特許権等)の移転であれば登録移転手続が必要になり、許認可の移転であれば許認可移転手続又は許認可の再申請手続が必要になり、契約の移転であれば契約移転に関する契約相手の同意が必要になり、雇用の移転には従業員の同意が必要になります。

B. 登記抹消

Aの資産譲渡が完了した後で空になった会社を登記抹消しなければなりませんが、その場合、「清算手続を経ない登記抹消」によって登記抹消ができれば最もも簡便です。以前の記事に記載した通り、「清算手続を経ない登記抹消」は、以下の条件が全て満たされている場合にのみ行うことができます。

(1) 会社の全株主が登記抹消に同意していること

(2) 会社が事業を行っていないこと

(3) 会社の資産が1,000豪ドル未満であること

(4) 会社法上支払う必要のある費用及び罰金を全て支払っていること

(5) 会社が債務(偶発債務を含む)を負っていないこと

(6) 会社が訴訟手続の当事者となっていないこと

上記の(5)を満たすためには、会社(資産譲渡の譲渡人)は自身が負っている債務を譲受人に免責的に引き受けてもらうことについて債権者から承諾を得る必要があります。また、会社(譲渡人)に少しでも債務が残っていては(5)を満たすことができないため、全ての債務について債権者から免責的引受けの承諾を得る必要があります。この(5)を満たすことは大変ですが、もし満たすことができれば「清算手続を経ない登記抹消」によって簡便に短期間・低費用で空になった会社(譲渡人)の登記抹消を行うことができます。

(5)が満たせないなどの理由により、この「清算手続を経ない登記抹消」を利用することができない場合、「清算手続を経た上での登記抹消」をすることになります。以前の記事にも記載しましたが、清算手続では清算人(liquidator)を選任して、清算人が会社の資産を換価処分し、会社の債務を弁済した上で、残余財産があれば株主に払い戻すことになるため、多くの時間と費用がかかります。

 

以上のとおり、オーストラリアでは合併といった組織再編行為がないため、買収会社の事業と被買収会社の事業を一つの会社にまとめるためには非常に手間がかかります。オーストラリアで買収を繰り返す会社はこのような買収後の統合作業を行っていることが多く、その統合作業のために法律事務所や会計事務所がアドバイザーとして起用されています。

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