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2020年7月18日 (土)

株主有限責任の原則とその例外

「株式会社の株主は、その出資額の限度を超えて会社の負債や行為について責任を負うことはない」という株主有限責任の原則は、オーストラリアの会社法にも存在しています。オーストラリアの株式会社(company limited by shares)は、公開会社(public company)と非公開会社(propriertary company)の2種類がありますが、そのいずれにもこの株主有限責任の原則は適用されます(公開会社と非公開会社の違いについては以前のブログ記事を参照)。

しかし、これにはいくつかの例外があります。代表的な例として、Piercing Corporate VeilLifting Corporate Veil)と破産取引阻止義務の違反があります。

1.Piercing Corporate VeilLifting Corporate Veil

日本の会社法にも、一定の例外的な場合(会社の法人格が形骸化している場合、又は会社の法人格が濫用されている場合)において、会社と会社の株主の行為を同一視して、株主の責任を追及することができるようにする法原則があり、法人格否認の法理と呼ばれています。この法人格否認の法理は、会社法には明文の規定はないものの裁判例では認められており、その条文上の根拠は民法13項などの一般条項などに求められます。法人格否認の法理の適用は非常に限定的であり、既存の法律の適用では救済できないが救済しなければ著しく正義に反する結果になるような非常に例外的なケースにしか適用されません。

オーストラリアでも日本とほぼ同じような状況であり、会社の行為を会社の株主の行為と同一視して、株主の責任を追及することができるようにする法原則があり、Piercing Corporate VeilLifting Corporate Veil)と呼ばれています。オーストラリアの会社法の条文には明文の規定はありませんが、裁判例では古くから認められており、判例法(コモンロー)となっています。Piercing Corporate VeilLifting Corporate Veil)は、会社の法人格が詐欺行為(fraud)のために使用されたり、法律上の義務を回避することを唯一又は主要な目的として使用された場合において適用が認められていますが、適用が認められるケースは非常に限定的であり、既存の法律の適用では救済できないが救済しなければ著しく正義に反する結果になるようなケースにしか適用されません。

2.破産取引阻止義務の違反

破産取引阻止義務の違反によって株主が子会社の行為について責任を追及される場合は、「会社法588V条の違反によって責任を負う場合」と「影の取締役として破産取引阻止義務の違反の責任を負う場合」の2通りがあります。

(1)会社法588V

オーストラリアの会社の取締役は、会社が支払不能状態である、又はこれ以上債務を負うと支払不能状態に陥る可能性がある場合には、会社が更なる債務を負う取引(「破産取引(insolvent trading」といいます)を行うことを阻止する義務を負っており、これは「破産取引阻止義務(duty to prevent insolvent trading)」と呼ばれます(会社法588G)。この破産取引阻止の義務に違反した場合、取締役は裁判所から民事制裁や刑事罰を課され、また、会社の破産により損害を蒙った無担保債権者の損害額を会社に支払うように命令される可能性があります。破産取引阻止義務に違反すると会社の債務について取締役が個人責任を負うという重大なリスクがあるため、会社が支払不能状態になると会社の取締役が自ら会社の倒産手続を開始する(具体的には、会社の取締役会で倒産手続を開始する決定をする)のが通常です。

この破産取引阻止義務というのは日本の会社法にはない制度であり、オーストラリアの会社の取締役に就任する場合は、破産取引阻止義務を負うことになり、違反することで会社の債務について個人責任を負う可能性があることに注意すべきです。

前置きが長くなりましたが、この取締役の破産取引阻止義務は「親会社(holding company)」にも適用されることが会社法588Vで定められています。すなわち、オーストラリアの会社の親会社は、子会社が破産取引を行った際に、子会社が支払不能であること、又は支払不能状態に陥る可能性があることを疑う合理的な理由があり、かつ親会社の取締役がそのような理由を認識しており、又は合理的に認識すべきだった場合には、親会社は子会社の取締役と同様に破産取引阻止義務を負う、とされています。親会社がこの破産取引阻止義務に違反した場合、子会社の破産により損害を被った無担保債権者の損害額を会社に支払うように命令される可能性があります。

(2)影の取締役(Shadow Director

「影の取締役」とは、取締役には任命されていないものの、その者の指示や思惑に従って取締役が行動をする状態になっている場合、当該者は影の取締役として取締役と同等に扱われることになる、というものです(会社法第9条のDirectorの定義の(b))。取締役には個人(自然人)しか任命することができないのですが、影の取締役には法人が該当すると判断されることはありますし、実際にそのような判断がなされた裁判例も数多くあります(Akai Pty Ltd (in liq) v Ho [2006] FCA 511など)。

子会社の取締役が親会社の経営陣(CEO)や取締役会の指示や決定に従って行動する状態になっている場合において、子会社が破産取引を行うと、親会社が影の取締役として破産取引阻止義務の違反をしたことになります。このように親会社が子会社の影の取締役とみなされないためには、子会社の取締役が自律的に子会社の経営事項について決定を行っていることを確保することが重要になります。

上記の代表的な例の他にも、オーストラリアの環境法や労働安全衛生法などで、子会社による環境汚染行為や労働安全衛生法違反などについて親会社に対して責任を追及できることが規定されているケースがあります。

オーストラリアでは、子会社を設立して事業を行わせることにより、株主有限責任の原則によって、子会社の事業からのリスクを原則的に遮断することができるのですが、上記のように例外的に子会社の行為について株主(親会社)の責任が追及される場合があるため、注意が必要になります。

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