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2020年9月

2020年9月16日 (水)

オーストラリアにおける海外(日本)の金融商品の販売・勧誘に対する規制

以前の記事において、「海外の業者がオーストラリア国内の者に対して自己の金融サービスの利用を働きかける行為を行う場合は、AFSLAustralian Financial Services Licence)が必要になる。但し、海外の業者には、様々な免除規定が用意されており、これらの免除規定の要件を満たせば、AFSLは必要にならない。」と説明しました。

今年3月に、この免除規定に関して大きな法改正がなされており、免除規定の適用が厳格化されましたので、今回の記事で説明します。

1.Limited Connetion ExemptionSufficient Equivalence Exemption

海外の業者がオーストラリアにおける金融商品の販売・勧誘において利用している主要な免除規定として、Limited Connetion ExemptionSufficient Equivalence Exemptionがあります。

(1)Limited Connetion Exemption

会社法911D条は、海外の業者がオーストラリア国内の者に対して金融サービスを利用するように勧誘することを意図している、又はそのような効果を有しているであろう行為を行った場合には、オーストラリアにおいて金融サービス業に従事しているとみなす、と規定しています。911D条は域外適用の規定であり、オーストラリア国内で物理的に勧誘を行っておらず、海外からインターネットやメールといった方法で勧誘を行っている場合でも、オーストラリア国内で金融サービス業に従事しているとみなす、というものです。Limited Connetion Exemptionは、911D条の適用によってオーストラリアにおいて金融サービス業に従事しているとみなされる場合には、Wholesale Client(以下の脚注1を参照)のみを相手方とするのであればAFSLは必要にならないとする免除規定です(ASIC Corporations (Foreign Financial Services Providers - Limited Connection) Instrument 2017/182)。

ただ、Limited Connection Exemptionは、one-offで(単独の行為として)海外からオーストラリア国内のWholesale Clientに対して勧誘行為が行われた場合に適用されることを想定した免除規定であり、海外からオーストラリア国内のWholesale Clientに対して、「利益を得る目的で、継続的かつ組織的に」勧誘行為が行われた場合には、911D条によらずしてオーストラリアにおいて金融サービス業に従事していることになるため、Limited Connetion Exemptionは利用することはできません。

*脚注1:Wholesale Clientは会社法761G条と761GA条に定義されており、以下のようなものがWholesale Clientに該当します。

  • 価格が50万豪ドル以上の金融商品を購入する者
  • 20名以上の従業員を有する会社(製造業の場合は100名上の従業員を有する会社)
  • 純資産が5百万豪ドル以上又は過去2年間において総収入が25万豪ドル/年以上であると資格のある会計士から証明書をもらっている者
  • Professional InvestorAFSL保有者、年金基金、APRAに規制された金融機関等、上場会社又はその関連会社、政府機関、10百万豪ドル以上を管理する者など:会社法9条)

(2)Sufficient Equivalence Exemption

Sufficient Equivalence Exemptionは、海外の金融商品取引業者が海外の金融当局の規制を受けており、当該金融当局の規制がオーストラリアの規制と同等であるとASICが認めている場合には、その海外の金融商品取引業者はオーストラリアのWholesale Clientのみを相手方として金融サービス業の提供を行うのであればAFSLは必要にならない、という免除規定です(会社法911A(2)(h))。アジアであればシンガポールや香港の金融当局の規制はオーストラリアの規制と同等であるとASICは認めており、シンガポールや香港の金融商品取引業者はこのSufficient Equivalence Exemptionを利用することができるのですが、残念ながら日本の金融当局の規制はオーストラリアの規制と同等であるとASICには認められておらず、日本の金融商品取引業者はこのSufficient Equivalence Exemptionを利用することはできません。

2.20203月に導入されたFunds Management ExemptionForeign AFSL制度

20203月に法改正がなされ、Limited Connetion ExemptionSufficient Equivalence Exemption2022331日に廃止され、代わりに202241日からFunds Management ExemptionForeign AFSL制度が導入されることになりました。

(1)Funds Management Exemption

Funds Management Exemptionは、Limited Connetion Exemptionの適用範囲を厳格化して狭めたものといえます(ASIC Corporations (Foreign Financial Services Providers – Funds Management Financial Services) Instrument 2020/199)。Limited Connetion Exemptionと異なり、Funds Management Exemptionでは、対象者がWholesale Clientではなく、以下の者に限られます(eligible Australian userと呼ばれます)。

  • 登録された集団投資スキーム
  • 年金基金
  • AFSLを保有するWholesaleファンド
  • APRAに規制された金融機関等
  • オーストラリアの政府機関(市政府を除く)

また、海外の金融商品取引業者はFunds Management Exemptionに依拠することについて、ASICへ届出をすることが必要になります。さらに、オーストラリアにおける連絡先となる代理人(Agent for Service)を選任することが求められます。

これまでLimited Connetion Exemptionに依拠してAFSLなしにオーストラリアのWholesale Clientを勧誘してきた日本の金融商品取引業者は、上記のとおり勧誘対象者が狭まり、ASICへの届出やオーストラリアにおける代理人の選任が必要になります。立法資料によれば、これまでLimited Connetion Exemptionに依拠できる要件を満たさないにもかかわらず、Limited Connetion Exemptionに依拠できると整理して海外の金融商品取引業者が勧誘行為を行ってきたことがあったため、Funds Management Exemptionでは依拠できる要件を厳格化し、ASICへの届出を要求することにしたとされています。

(2)Foreign AFSL制度

Foreign AFSLという海外の金融商品取引業者に適用される新しい許可制度が制定され、これまでSufficient Equivalence Exemptionに依拠することによりAFSLなしにオーストラリアで金融商品サービス業を行うことができた海外の金融商品取引業者は、このForeign AFSLの取得をしなければならなくなりました(ASIC Corporations (Foreign Financial Services Providers – Funds Management Financial Services) Instrument 2020/199)。Sufficient Equivalence Exemptionに依拠してきた海外の金融商品取引業者は、202241日までにこのForeign AFSLASICに申請して取得する必要があります。日本の規制はオーストラリアの規制と同等であるとASICに認められていないため、日本の金融商品取引業者はForeign AFSLを取得することは現時点ではできません(将来に同等の規制であると認められればForeign AFSLを取得できるようになる可能性はあります)。

3.まとめ

上記のとおり、2022年4月1日より、海外の金融商品取引業者がオーストラリアで行う金融取引サービス業に対する規制は厳格化されることになりました。日本の金融商品取引業者は、新しくできたFunds Management Exemptionに依拠するのであれば、ASICへの届出等の対応が必要になります。Funds Management Exemptionに依拠できないのであれば、AFSL保有者に金融取引サービス業(たとえば、金融商品の販売勧誘)を委託することで対応することも可能です。

なお、海外の金融商品取引業者がオーストラリアの者に対して金融商品の販売勧誘を行う場合には、オーストラリアの開示規制も問題となるため、AFSLの問題とは別に検討する必要があります。

2020年9月 4日 (金)

ウェビナー『オーストラリアにおける不動産投資と法的問題点』とストラクチャーに関する補足説明

1.ウェビナーについ

2020年9月2日(水)にクレイトン・ユッツ法律事務所が主催し、不動産証券化協会が後援するウェビナー『オーストラリアにおける不動産投資と法的問題点』で、オーストラリアの不動産法制度(外資規制を含む)を説明し、オーストラリアにおける不動産投資案件(不動産取得、不動産開発、不動産ファイナンス、不動産ファンド投資)の取引ストラクチャーについて解説しました。

ウェビナーの録画はこちらから視聴することができます。

また、ウェビナーの資料はこちらかダウンロードすることができます。

オーストラリアの不動産法制度や不動産投資案件に興味のある方はぜひご覧ください。

なお、ウェビナーの中で時間がなくて十分に説明できなかった「不動産投資のビークル(Special Purpose Vehicle - SPV)は信託と会社のどちらが有利か」という点、及び「物件毎に設立されたSPVを束ねるHolding SPVを使用することのメリット」について、以下補足の説明をします。

2.不動産の投資ビークル(SPV)は信託と会社のどちらが有利

結論を先に述べると、信託と会社のいずれでも、基本的には、オーストラリアで課される税金は利益の30%で同じです。

(1)SPVが会社の場合:

オーストラリアの会社に適用されるIncome Taxは税率30%であるため、不動産を保有している会社(物件保有SPV)は利益の30%をIncome Taxとしてオーストラリア税務当局に支払います。その後、残りの70%を親会社に配当します。親会社がオーストラリアの会社の場合、親会社は配当として受領した70%分の利益についてIncome Taxは課されません(物件保有SPVが支払った30%分のIncome Taxを親会社に課されるIncome Taxから控除できるためです - これをFranking Creditといいます)。すなわち、物件保有SPVと親会社の両方で同じ利益に二重に課税がされないようになっています。

親会社がオーストラリア国外の会社(たとえば日本の会社)である場合、国外の親会社に配当を行う際に、源泉徴収税(最大10%)が課されますが、この源泉徴収税からオーストラリア国内で既に物件保有SPVが支払っている30%分のIncome TaxをFranking Creditとして控除できるため源泉徴収税はゼロになります。したがって、国外の親会社は70%の利益を受領できることになります。結局、オーストラリア国内で支払われた税金は、物件保有SPVが支払った30%のIncome Taxのみとなります。

上記でダウンロードできるウェビナーの資料の22ページのストラクチャーでSPVに会社を使用した場合は、以下のような流れになります。不動産から上がった収益について物件保有SPV(会社)が30%のIncome Taxを支払う。物件保有SPVは残り70%の利益をHolding SPV(会社)に配当する。Holding SPVは配当として受領したこの70%の利益についてIncome Taxは課されない。Holding SPVはこの70%の利益をさらに日本の親会社(会社)に配当する。日本の親会社への配当の際に源泉徴収税は課されない。日本の親会社は70%の利益を受領する。

(2)SPVが信託の場合:

不動産を保有している信託(物件保有SPV)の利益は信託の会計年度末において、受益者に分配されることになり、受益者に適用される税率で税金が課されることになります。信託を複数重ねて利用している場合、利益はそのまま間の信託をパススルーしていき、最終的な受益者のところで当該受益者に適用される税率で税金が課されます。

最終的な受益者がオーストラリアの会社の場合、上記(1)で述べた通り、オーストラリアの会社に適用されるIncome Taxは30%であるため、利益の30%を税金として支払い、70%が手元に残ります。

最終的な受益者がオーストラリア国外の会社の場合、オーストラリアの国外の受益者に対して分配する際に源泉徴収税が課されます。受益者が会社である場合、この源泉徴収税の税率は30%となります。したがって、源泉徴収税として利益の30%が差し引かれ、残りの70%がオーストラリア国外の受益者に分配されます。

上記でダウンロードできるウェビナー資料の22ページのストラクチャーでSPVに信託を使用した場合、以下のような流れになります。不動産から上がった収益について物件保有SPV(信託)がパススルーでHolding SPV(信託)に分配される。Holding SPVも信託であるため、パススルーで日本の親会社(会社)に利益が分配される。ただし、Holding SPVから日本の親会社への分配の際に、源泉徴収税が課され、利益の30%が差し引かれることになる。日本の親会社は70%の利益を受領する。

上記(1)と(2)のとおり、SPVが会社であっても信託であってもオーストラリアで支払う税金は利益の30%となります。

しかし、これは原則であって様々な修正が必要になります。

たとえば、オーストラリアの会社に適用されるIncome Taxは、会社の年間売上が$50百万豪ドル未満であれば、30%ではなく27.5%となります。したがって、SPVに会社を使用した場合、オーストラリアで支払う税金を2.5%だけ減らすことができます。

また、オーストラリアから国外の受益者に対して支払う信託の分配に課される源泉徴収税は、受益者が会社であれば30%ですが、個人(自然人)であれば最大45%となります。したがって、国外の最終受益者が個人である場合に、SPVに信託を利用すると、オーストラリアで支払う税金が45%にもなってしまい、SPVに会社を使用する場合に比べて大幅に不利になります。

さらに、信託を利用する場合で、その信託がManaged Investment Trust(MIT)(ウェビナーの資料の25ページの解説またはこちらのページを参照)に該当すると、国外の受益者に対して支払う信託の分配に課される源泉徴収税は(受益者が個人であっても会社であっても)15%又は10%に減額されます。これはSPVに信託を利用することの大きなメリットです。オーストラリアの不動産ファンドのビークルがほぼ全て信託(Unit Trust)である理由は、このMITの制度があるためです。MITの不動産ファンドに投資する場合、国内の受益者(投資家)が30%の税金を払うのに対して、国外の受益者(投資家)は15%の税金しか払わないため、国外の投資家の方が国内の投資家よりも優遇されているとオーストラリア国内で批判されるくらい有利な優遇措置となっています。さらに、MITの配当について、国外の受益者はオーストラリアで税務申告をする必要はありません。

オフィスビルを開発する際に、海外から投資家を募ってファンド化する可能性も視野に入れて、将来MITが利用できるように、初めから信託(Unit Trust)をビークルにしておくこともあります。他方で、マンションや宅地を開発して個々の顧客に売り切ってしまう場合、将来MITを利用する可能性はないため、ビークルを会社にするということもあります。

3.物件毎に設立されたSPVを束ねるHolding SPVを使用することのメリット

Holding SPVについては、上記のウェビナー資料の22ページと23ページを参照。

メリット①:Holding SPVとその下にある複数の物件保有SPVを連結化して、物件毎の損益を通算することができるようになります。

メリット②:Holding SPVを会社にすることにより、オーストラリアの事業を統括するEntityとすることができます。このHolding SPVの下に不動産と関係ない事業を行うオーストラリアの子会社をぶら下げても良いですし、そこで上がった収益を国境を跨いで日本まで送金せずにHolding SPVの下で留めておき、さらにオーストラリア国内での再投資に回すこともできます。

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