会社法

2021年6月20日 (日)

幻冬舎ゴールドオンラインでの連載

幻冬舎ゴールドオンラインでオーストラリア法務に関する記事を連載させていただけることになりました。

初回は「日本企業のオーストラリアにおけるM&A・事業投資の最近の状況」についての記事となります。

米中対立を受けての中国からの投資激減、コロナ禍による豪州の厳格な入国規制、世界的な脱化石燃料の流れ等が豪州における日本企業の投資活動に及ぼしている影響を説明しています。

コロナ禍の豪州、「日本企業」に有利なM&A環境が生じた3つの理由 | 富裕層向け資産防衛メディア | 幻冬舎ゴールドオンライン (gentosha-go.com)

豪州の最近の状況についてまとめたものであり、内容の賞味期限が短い記事なので、ぜひお早めにお読みください!

2020年11月20日 (金)

会社の契約締結、株主総会・取締役会、会議通知、議事録等の電子化

これまでオーストラリアの会社法では、会社が会社法に基づいて契約書に署名をする場合には契約書面に物理的に署名をしなければならず、株主総会や取締役会は物理的に参加者が集合して開催をしなければなりませんでした(一部の参加者が電話やビデオ会議で参加することは可能)。しかし、コロナウィルスの影響を受けて、人や物の物理的な移動が困難になったことから、連邦政府は20205月にCorporations (Coronavirus Economic Response) Determination (No. 1) 2020(以下「臨時措置法」といいます)を制定し、会社による契約書の署名や株主総会や取締役会の開催を電子的な方法で行えるように変更しました。この変更はコロナウィルスの影響に対応するための一時的な措置とされており、2021年3月まで継続することになっています。

この電子的な方法による会社による契約書の署名や株主総会や取締役会の開催が非常に効率的であると利用者に好評であったため、連邦政府は会社法を改正し、この臨時措置法による変更を永続的なものにする予定です。

この点に関する会社法の変更案(Exposure Draft)はこちらのウェブサイトでみることができます。

具体的な変更の内容は以下のとおりです。

1.会社による契約書の電子的な方法による署名

オーストラリアの会社が契約書に署名する場合、会社法127条に従って、その会社の取締役2名(又は取締役1名と秘書役1名の合計2名)が契約書に署名するのが一般的です(この点に関しては、以前の記事を参照ください)。

これまでは会社法127条に従った署名方法とするためには、取締役2名(又は取締役1名と秘書役1名)が契約書の同一の書面(物理的に一つの書面)に署名をしなければならない(そうでなければ少なくともその署名の有効性に疑義が生じる)とされてきましたが、会社法の改正法案では、各取締役(又は秘書役)が契約書の別々の書面(内容は全く同一だが物理的に異なる書面)に署名をしても構わない(いわゆるSplit Executionでも問題がない)ことが明確にされています(会社法の改正法案の127条(3A)及び(3C))。ただし、各書面は契約書の内容の全部を含んでいる必要があります(したがって、契約書の署名ページのみを印刷して署名することは認められません)。この法改正により、契約書の物理的な書面を署名のために、異なる場所にいる取締役(及び秘書役)の間で回す必要はなくなることになります。

また、取締役(又は秘書役)が物理的な署名(いわゆるwet ink signature)ではなく電子的な方法で署名をすることも会社法127条に従って署名方法として認められることになりました(会社法の改正法案の127(3B))。これまでは電子的な方法による署名が会社法127条に従った署名方法として認められるか否かについて議論が分かれていましたが、この法改正により、電子的な方法による署名は会社法127条に従った署名方法として認められることが明確になりました。ただし、その署名方法において、署名者を明示し、署名者の署名する意思を示し、かつその署名方法が信頼のおけるものである必要があります。この署名方法に関する要件は、PDFの契約書にタッチスクリーンを使用して署名をしたり、DocuSignAdobe Signなどの電子署名ソフトウェアを使用して署名することによって一般的には満たされると考えられます。

なお、上記はオーストラリアの会社による契約書の締結に関するものであり、個人(自然人)や外国(オーストラリア以外の国)の会社による契約書の締結には適用されません。

2.株主総会や取締役会の電子的な方法による開催

オーストラリアの会社の株主総会と取締役会についても、電子的な方法による開催が可能となっています。これまでも参加者が物理的に集合して開催されている株主総会や取締役会に一部の参加者が電話やビデオ会議などによって参加することは可能とされていましたが、今回の法改正では、物理的な開催場所を設けることなく、全ての参加者が電子的な方法(電話やビデオ会議など)によって参加する方法で開催することが可能となります(このような方法で開催された会議はvirtual meetingと呼ばれます。会社法の改正案の249L条(1)(a)、253Q条、253R条)。

株主総会や取締役会の召集通知、書面決議書、委任状、議事録などの会議に関する書類は全て電子的な方法により作成し、交付することが可能となります(会社法の改正案の253S条、253T条)。電子的な方法による作成・交付には、インターネット上に書面をアップロードしておき、クリックすることで当該書面にアクセスできるリンクを送信することも含まれます(253S条(3))。また、議事録について電子的な方法で保存することで足りるようになります(253T条)。

会議が電子的な方法で開催された場合(virtual meetingが開催された場合)には、以下の特別なルールが適用されます。

  • Virtual Meetingによる株主総会の決議の採決には、Poll(投票:参加者が行使した議決権を集計して決議の可決を判断する)の方法を使用しなければなりません(会社法の改正案の250J(1)253Q(3))。

* 他方で、Virtual Meetingではない通常の株主総会では、Show of Hands(挙手:参加者に挙手をさせてその多寡によって決議の可決を判断する)の方法で採決をすることが原則であり、議長、5名以上の株主又は5%以上の議決権を有する株主によってPollの方法が要求された場合にだけ、Pollの方法で採決がされることになっています(会社法250L条)。なお、一般的には、Show of Hnadsは、採決前に可決又は否決の結果が確実に判明している場合(会社に提出された委任状によって採決前に結果が判明しているなど)に使用され、採決前に結果が明白ではない場合にはPollの方法を採るべきであると考えられます(そうしなければ株主総会の議長は必要な注意義務を果たしていないと判断される可能性があります)。

  • 株主総会Virtual Meetingを行う場合には、会議前又は会議中に参加者から出された質問やコメントを議事録に記載しておく必要があります(会社法の改正案の251A(1)(a))。
  • 株主総会又は取締役会の参加者は、その選択により、会議で議決権を行使するか、又は(実務上可能である場合)会議前に議決権を行使する機会を与えられる必要があります(会社法の改正案の253Q(4))。

なお、上記において下線が引かれている「議事録を電子的な方法で保存すること」と「Virtual Meetingの株主総会の議事録には参加者の質問やコメントを記録しておく必要があること」については、現在臨時措置法によって一時的に導入されている改正には含まれておらず、今回の改正会社法によって初めて導入されるものになります。それ以外の点については、全て現在の臨時措置法によって一時的に導入がされており、今回の改正会社法によって永続的な変更となります。

2020年9月16日 (水)

オーストラリアにおける海外(日本)の金融商品の販売・勧誘に対する規制

以前の記事において、「海外の業者がオーストラリア国内の者に対して自己の金融サービスの利用を働きかける行為を行う場合は、AFSLAustralian Financial Services Licence)が必要になる。但し、海外の業者には、様々な免除規定が用意されており、これらの免除規定の要件を満たせば、AFSLは必要にならない。」と説明しました。

今年3月に、この免除規定に関して大きな法改正がなされており、免除規定の適用が厳格化されましたので、今回の記事で説明します。

1.Limited Connetion ExemptionSufficient Equivalence Exemption

海外の業者がオーストラリアにおける金融商品の販売・勧誘において利用している主要な免除規定として、Limited Connetion ExemptionSufficient Equivalence Exemptionがあります。

(1)Limited Connetion Exemption

会社法911D条は、海外の業者がオーストラリア国内の者に対して金融サービスを利用するように勧誘することを意図している、又はそのような効果を有しているであろう行為を行った場合には、オーストラリアにおいて金融サービス業に従事しているとみなす、と規定しています。911D条は域外適用の規定であり、オーストラリア国内で物理的に勧誘を行っておらず、海外からインターネットやメールといった方法で勧誘を行っている場合でも、オーストラリア国内で金融サービス業に従事しているとみなす、というものです。Limited Connetion Exemptionは、911D条の適用によってオーストラリアにおいて金融サービス業に従事しているとみなされる場合には、Wholesale Client(以下の脚注1を参照)のみを相手方とするのであればAFSLは必要にならないとする免除規定です(ASIC Corporations (Foreign Financial Services Providers - Limited Connection) Instrument 2017/182)。

ただ、Limited Connection Exemptionは、one-offで(単独の行為として)海外からオーストラリア国内のWholesale Clientに対して勧誘行為が行われた場合に適用されることを想定した免除規定であり、海外からオーストラリア国内のWholesale Clientに対して、「利益を得る目的で、継続的かつ組織的に」勧誘行為が行われた場合には、911D条によらずしてオーストラリアにおいて金融サービス業に従事していることになるため、Limited Connetion Exemptionは利用することはできません。

*脚注1:Wholesale Clientは会社法761G条と761GA条に定義されており、以下のようなものがWholesale Clientに該当します。

  • 価格が50万豪ドル以上の金融商品を購入する者
  • 20名以上の従業員を有する会社(製造業の場合は100名上の従業員を有する会社)
  • 純資産が5百万豪ドル以上又は過去2年間において総収入が25万豪ドル/年以上であると資格のある会計士から証明書をもらっている者
  • Professional InvestorAFSL保有者、年金基金、APRAに規制された金融機関等、上場会社又はその関連会社、政府機関、10百万豪ドル以上を管理する者など:会社法9条)

(2)Sufficient Equivalence Exemption

Sufficient Equivalence Exemptionは、海外の金融商品取引業者が海外の金融当局の規制を受けており、当該金融当局の規制がオーストラリアの規制と同等であるとASICが認めている場合には、その海外の金融商品取引業者はオーストラリアのWholesale Clientのみを相手方として金融サービス業の提供を行うのであればAFSLは必要にならない、という免除規定です(会社法911A(2)(h))。アジアであればシンガポールや香港の金融当局の規制はオーストラリアの規制と同等であるとASICは認めており、シンガポールや香港の金融商品取引業者はこのSufficient Equivalence Exemptionを利用することができるのですが、残念ながら日本の金融当局の規制はオーストラリアの規制と同等であるとASICには認められておらず、日本の金融商品取引業者はこのSufficient Equivalence Exemptionを利用することはできません。

2.20203月に導入されたFunds Management ExemptionForeign AFSL制度

20203月に法改正がなされ、Limited Connetion ExemptionSufficient Equivalence Exemption2022331日に廃止され、代わりに202241日からFunds Management ExemptionForeign AFSL制度が導入されることになりました。

(1)Funds Management Exemption

Funds Management Exemptionは、Limited Connetion Exemptionの適用範囲を厳格化して狭めたものといえます(ASIC Corporations (Foreign Financial Services Providers – Funds Management Financial Services) Instrument 2020/199)。Limited Connetion Exemptionと異なり、Funds Management Exemptionでは、対象者がWholesale Clientではなく、以下の者に限られます(eligible Australian userと呼ばれます)。

  • 登録された集団投資スキーム
  • 年金基金
  • AFSLを保有するWholesaleファンド
  • APRAに規制された金融機関等
  • オーストラリアの政府機関(市政府を除く)

また、海外の金融商品取引業者はFunds Management Exemptionに依拠することについて、ASICへ届出をすることが必要になります。さらに、オーストラリアにおける連絡先となる代理人(Agent for Service)を選任することが求められます。

これまでLimited Connetion Exemptionに依拠してAFSLなしにオーストラリアのWholesale Clientを勧誘してきた日本の金融商品取引業者は、上記のとおり勧誘対象者が狭まり、ASICへの届出やオーストラリアにおける代理人の選任が必要になります。立法資料によれば、これまでLimited Connetion Exemptionに依拠できる要件を満たさないにもかかわらず、Limited Connetion Exemptionに依拠できると整理して海外の金融商品取引業者が勧誘行為を行ってきたことがあったため、Funds Management Exemptionでは依拠できる要件を厳格化し、ASICへの届出を要求することにしたとされています。

(2)Foreign AFSL制度

Foreign AFSLという海外の金融商品取引業者に適用される新しい許可制度が制定され、これまでSufficient Equivalence Exemptionに依拠することによりAFSLなしにオーストラリアで金融商品サービス業を行うことができた海外の金融商品取引業者は、このForeign AFSLの取得をしなければならなくなりました(ASIC Corporations (Foreign Financial Services Providers – Funds Management Financial Services) Instrument 2020/199)。Sufficient Equivalence Exemptionに依拠してきた海外の金融商品取引業者は、202241日までにこのForeign AFSLASICに申請して取得する必要があります。日本の規制はオーストラリアの規制と同等であるとASICに認められていないため、日本の金融商品取引業者はForeign AFSLを取得することは現時点ではできません(将来に同等の規制であると認められればForeign AFSLを取得できるようになる可能性はあります)。

3.まとめ

上記のとおり、2022年4月1日より、海外の金融商品取引業者がオーストラリアで行う金融取引サービス業に対する規制は厳格化されることになりました。日本の金融商品取引業者は、新しくできたFunds Management Exemptionに依拠するのであれば、ASICへの届出等の対応が必要になります。Funds Management Exemptionに依拠できないのであれば、AFSL保有者に金融取引サービス業(たとえば、金融商品の販売勧誘)を委託することで対応することも可能です。

なお、海外の金融商品取引業者がオーストラリアの者に対して金融商品の販売勧誘を行う場合には、オーストラリアの開示規制も問題となるため、AFSLの問題とは別に検討する必要があります。

2020年7月18日 (土)

株主有限責任の原則とその例外

「株式会社の株主は、その出資額の限度を超えて会社の負債や行為について責任を負うことはない」という株主有限責任の原則は、オーストラリアの会社法にも存在しています。オーストラリアの株式会社(company limited by shares)は、公開会社(public company)と非公開会社(propriertary company)の2種類がありますが、そのいずれにもこの株主有限責任の原則は適用されます(公開会社と非公開会社の違いについては以前のブログ記事を参照)。

しかし、これにはいくつかの例外があります。代表的な例として、Piercing Corporate VeilLifting Corporate Veil)と破産取引阻止義務の違反があります。

1.Piercing Corporate VeilLifting Corporate Veil

日本の会社法にも、一定の例外的な場合(会社の法人格が形骸化している場合、又は会社の法人格が濫用されている場合)において、会社と会社の株主の行為を同一視して、株主の責任を追及することができるようにする法原則があり、法人格否認の法理と呼ばれています。この法人格否認の法理は、会社法には明文の規定はないものの裁判例では認められており、その条文上の根拠は民法13項などの一般条項などに求められます。法人格否認の法理の適用は非常に限定的であり、既存の法律の適用では救済できないが救済しなければ著しく正義に反する結果になるような非常に例外的なケースにしか適用されません。

オーストラリアでも日本とほぼ同じような状況であり、会社の行為を会社の株主の行為と同一視して、株主の責任を追及することができるようにする法原則があり、Piercing Corporate VeilLifting Corporate Veil)と呼ばれています。オーストラリアの会社法の条文には明文の規定はありませんが、裁判例では古くから認められており、判例法(コモンロー)となっています。Piercing Corporate VeilLifting Corporate Veil)は、会社の法人格が詐欺行為(fraud)のために使用されたり、法律上の義務を回避することを唯一又は主要な目的として使用された場合において適用が認められていますが、適用が認められるケースは非常に限定的であり、既存の法律の適用では救済できないが救済しなければ著しく正義に反する結果になるようなケースにしか適用されません。

2.破産取引阻止義務の違反

破産取引阻止義務の違反によって株主が子会社の行為について責任を追及される場合は、「会社法588V条の違反によって責任を負う場合」と「影の取締役として破産取引阻止義務の違反の責任を負う場合」の2通りがあります。

(1)会社法588V

オーストラリアの会社の取締役は、会社が支払不能状態である、又はこれ以上債務を負うと支払不能状態に陥る可能性がある場合には、会社が更なる債務を負う取引(「破産取引(insolvent trading」といいます)を行うことを阻止する義務を負っており、これは「破産取引阻止義務(duty to prevent insolvent trading)」と呼ばれます(会社法588G)。この破産取引阻止の義務に違反した場合、取締役は裁判所から民事制裁や刑事罰を課され、また、会社の破産により損害を蒙った無担保債権者の損害額を会社に支払うように命令される可能性があります。破産取引阻止義務に違反すると会社の債務について取締役が個人責任を負うという重大なリスクがあるため、会社が支払不能状態になると会社の取締役が自ら会社の倒産手続を開始する(具体的には、会社の取締役会で倒産手続を開始する決定をする)のが通常です。

この破産取引阻止義務というのは日本の会社法にはない制度であり、オーストラリアの会社の取締役に就任する場合は、破産取引阻止義務を負うことになり、違反することで会社の債務について個人責任を負う可能性があることに注意すべきです。

前置きが長くなりましたが、この取締役の破産取引阻止義務は「親会社(holding company)」にも適用されることが会社法588Vで定められています。すなわち、オーストラリアの会社の親会社は、子会社が破産取引を行った際に、子会社が支払不能であること、又は支払不能状態に陥る可能性があることを疑う合理的な理由があり、かつ親会社の取締役がそのような理由を認識しており、又は合理的に認識すべきだった場合には、親会社は子会社の取締役と同様に破産取引阻止義務を負う、とされています。親会社がこの破産取引阻止義務に違反した場合、子会社の破産により損害を被った無担保債権者の損害額を会社に支払うように命令される可能性があります。

(2)影の取締役(Shadow Director

「影の取締役」とは、取締役には任命されていないものの、その者の指示や思惑に従って取締役が行動をする状態になっている場合、当該者は影の取締役として取締役と同等に扱われることになる、というものです(会社法第9条のDirectorの定義の(b))。取締役には個人(自然人)しか任命することができないのですが、影の取締役には法人が該当すると判断されることはありますし、実際にそのような判断がなされた裁判例も数多くあります(Akai Pty Ltd (in liq) v Ho [2006] FCA 511など)。

子会社の取締役が親会社の経営陣(CEO)や取締役会の指示や決定に従って行動する状態になっている場合において、子会社が破産取引を行うと、親会社が影の取締役として破産取引阻止義務の違反をしたことになります。このように親会社が子会社の影の取締役とみなされないためには、子会社の取締役が自律的に子会社の経営事項について決定を行っていることを確保することが重要になります。

上記の代表的な例の他にも、オーストラリアの環境法や労働安全衛生法などで、子会社による環境汚染行為や労働安全衛生法違反などについて親会社に対して責任を追及できることが規定されているケースがあります。

オーストラリアでは、子会社を設立して事業を行わせることにより、株主有限責任の原則によって、子会社の事業からのリスクを原則的に遮断することができるのですが、上記のように例外的に子会社の行為について株主(親会社)の責任が追及される場合があるため、注意が必要になります。

2020年1月10日 (金)

M&A後のリストラクチャリング

(1)M&Aの方法

オーストラリア法には合併、分割といった日本法でいう組織再編行為が存在しないため、M&A(企業買収)の方法は、基本的に「①株式譲渡(transfer of shares)」又は「②資産譲渡(transfer of assets)」のいずれかしか存在しません(上場会社の買収に利用されるTOBScheme of Arrangementも株式譲渡といえます)。「②資産譲渡」は個々の資産(動産・不動産、契約、許認可、知的財産権、従業員等)を譲渡人から譲受人に移転しなければならず手間がかかりますが、「①株式譲渡」は資産の所有者である会社の株式の譲渡が行われるだけで、当該会社の個々の資産の移転に関する手続は必要となりません。したがって、「①株式譲渡」の方が簡便に行うことができるため、オーストラリアのM&Aでは株式譲渡が最も一般的なM&Aの方法となっています。「②資産譲渡」が利用されるのは、主として移転したくない資産(又は債務)を選り分けたいというニーズがある場合です。

(2)M&A(会社買収)後の統合

株式譲渡によって会社を買収した場合、買収会社側には買収会社と被買収会社の2つの会社が残ることになります。買収を何度か繰り返していくと買収の数だけ会社の数が増えていくことになります。これらの被買収会社と買収会社をくっつけて1つの会社にまとめたい場合には、まず被買収会社の資産を買収会社へ譲渡し、その後で空になった被買収会社を登記抹消する必要があります。すなわち、M&A後の統合作業は、資産譲渡と登記抹消の2ステップになります。

A. 資産譲渡

この資産譲渡はグループ内での資産譲渡であるため(すなわち譲渡人も譲受人も同じグループ内の会社であるため)、資産譲渡契約はCP、表明保証やコベナンツなどを規定する必要のない簡素なもので済みます(資産譲渡価格も1ドルなどのNominalな金額で済むのが通常です)。しかし、個々の資産(動産・不動産、契約、許認可、知的財産権、従業員等)を移転する手続は必要であり、この手続には手間がかかります。不動産の移転であれば移転登記手続が必要になり、登録される知的財産権(商標権、特許権等)の移転であれば登録移転手続が必要になり、許認可の移転であれば許認可移転手続又は許認可の再申請手続が必要になり、契約の移転であれば契約移転に関する契約相手の同意が必要になり、雇用の移転には従業員の同意が必要になります。

B. 登記抹消

Aの資産譲渡が完了した後で空になった会社を登記抹消しなければなりませんが、その場合、「清算手続を経ない登記抹消」によって登記抹消ができれば最もも簡便です。以前の記事に記載した通り、「清算手続を経ない登記抹消」は、以下の条件が全て満たされている場合にのみ行うことができます。

(1) 会社の全株主が登記抹消に同意していること

(2) 会社が事業を行っていないこと

(3) 会社の資産が1,000豪ドル未満であること

(4) 会社法上支払う必要のある費用及び罰金を全て支払っていること

(5) 会社が債務(偶発債務を含む)を負っていないこと

(6) 会社が訴訟手続の当事者となっていないこと

上記の(5)を満たすためには、会社(資産譲渡の譲渡人)は自身が負っている債務を譲受人に免責的に引き受けてもらうことについて債権者から承諾を得る必要があります。また、会社(譲渡人)に少しでも債務が残っていては(5)を満たすことができないため、全ての債務について債権者から免責的引受けの承諾を得る必要があります。この(5)を満たすことは大変ですが、もし満たすことができれば「清算手続を経ない登記抹消」によって簡便に短期間・低費用で空になった会社(譲渡人)の登記抹消を行うことができます。

(5)が満たせないなどの理由により、この「清算手続を経ない登記抹消」を利用することができない場合、「清算手続を経た上での登記抹消」をすることになります。以前の記事にも記載しましたが、清算手続では清算人(liquidator)を選任して、清算人が会社の資産を換価処分し、会社の債務を弁済した上で、残余財産があれば株主に払い戻すことになるため、多くの時間と費用がかかります。

 

以上のとおり、オーストラリアでは合併といった組織再編行為がないため、買収会社の事業と被買収会社の事業を一つの会社にまとめるためには非常に手間がかかります。オーストラリアで買収を繰り返す会社はこのような買収後の統合作業を行っていることが多く、その統合作業のために法律事務所や会計事務所がアドバイザーとして起用されています。

2019年11月 7日 (木)

インサイダー情報の公表

以前の記事でオーストラリアのインサイダー取引規制の概要について説明したとおり、インサイダー情報を有している者が当該インサイダー情報にかかる金融商品の取引を行う場合、インサイダー規制に違反することになります。しかし、その情報が市場に公表された場合、当該情報はインサイダー情報ではなくなり、公表後に当該金融商品の取引を行うことはインサイダー規制には違反しないことになります。今回はこのインサイダー情報の公表について説明します。

オーストラリア会社法1042C(1)では、①情報が容易に観察可能な事項(readily observable matter)である場合、または、②当該情報によって価格が影響を受ける金融商品に投資する投資家の注意を引く形で情報が開示され、かつ投資家の間に当該情報が拡散するための合理的な時間が経過した場合において、当該情報はインサイダー情報に該当しなくなるとされています。

オーストラリア証券取引所(ASX)に上場している会社の場合、ASXのウェブサイトや当該会社のウェブサイトにおいてアナウンスメントが掲載されることになり、その後すぐに(数時間内に)Thomson ReutersBroombergなどのメディアでも情報が流れるため、その時点までには①や②を満たすこととなり、開示された情報がインサイダー情報に該当しなくなると考えられます。

なお、オーストラリア会社法1042C(1)で求められている投資家の注意を惹く開示としては、ASXでの開示でも会社のウェブサイトの開示でも違いはありません。ただし、ASXの上場規則において、市場にリリースされる情報については、まずはASXを通じてリリースをする必要があります(ASX Guidance Note 1410項)。したがって、会社のウェブサイトでの開示はASXでの開示の直後に行うことになります。

ASXや会社のウェブサイトでリリースされた情報が、①容易に観察可能な事項になるか、または、②投資家の間に拡散するための合理的な時間が経過したかについて、形式的・外形的に明確な基準はなく、基準は規範的なものになります。

「拡散するための合理的な時間」というときの「合理的な時間」は状況によって異なります。たとえば、取引量が非常に少ない金融商品であれば取引量が多い金融商品に比べて情報が拡散するための「合理的な時間」はより長くなると解されます。また、リリースされた情報の内容が理解に時間を要する複雑なものであれば、即座に理解できる単純な内容の情報に比べて、情報が拡散するための「合理的な時間」はより長くなると解されます。

どの程度の時間が「合理的な時間」であるか、はっきりとした基準がないため、インサイダー取引のリスクを避けるためには、ASXや会社のウェブサイトでアナウンスメントが掲載され、メディアにおいても報道がなされ、情報が投資家の間に行き渡ったことを十分に確認した上で、取引を行うべきということになります。

2019年8月 5日 (月)

内部通報制度(Whistleblower Protection Policy)

【本記事の最後に2019年8月9日と11月28日にASICのガイドライン(Regulatory Guidance)に関する追記をしています】

201971日からTreasury Laws Amendment (Enhancing Whistleblower Protections) Act 2019 (Cth)が施行され、内部通報制度(Whistleblower prorection)に関する会社法(Corporations Act 2001 (Cth)Part 9.4AAA1317AA条以下)の規定が大幅に改正されることになりました。

1.内部通報者の保護

「Eligible Whistleblower」が、会社又はその関連会社における不正行為(Misconduct)、不適切な状態・状況が存在する、もしくは会社又はその関連会社、それらの役員・従業員が会社法等に違反する行為、12ヶ月以上の懲役刑が課される連邦法の違反行為もしくは公衆又は金融システムに危険を生じさせる行為等を行ったと合理的に疑う理由があるときにおいて、ASICAPRA、「Eligible Recipient」等に情報提供を行った場合、「Part 9.4AAAに定める保護(Whistleblower Protection)」を受けることができます(1317AA条)。

「Eligible Whistleblower」には、当該会社の役員・従業員、当該会社にサービス又は製品を提供している個人、当該会社にサービス又は製品を提供している者の従業員、これらの者の親戚等が含まれます(1317AAA条)。

「Eligible Recipient」には、当該会社又はその関連会社の役員・Senior ManagerAuditor(監査人)、当該会社内で内部通報の窓口として指定された者等が含まれます(1317AAC条)。

「Part 9.4AAAに定める保護」としては、(1)情報提供を受けた者は情報提供者(Whistleblower:内部通報者)の身元が判明する情報を開示してはならない(1317AAE条)、(2)当該情報提供に関して、民事・刑事・行政上の責任を問われず、契約上その他の責任も追及されない(1317AB条)、(3)当該情報開示を行ったことを理由として情報提供者に不利な扱い(解雇、職責変更、嫌がらせ・脅し等)をしてはならない(1317AC条)、(4)裁判所は不利な扱いを行った者に対する賠償等を命じることができる(1317AD条)といったものがあります。

2.内部通報制度の制定義務

オーストラリアの会社のうち「Public Company(公開会社)」と「Large Proprietary Company(大規模非公開会社)」については、内部通報制度(Whistleblower Protection Policy)を定める必要があります(1317AI条)。「公開会社」及び「大規模非公開会社」の意味については以前の記事参照。

内部通報制度は以下の点を網羅している必要があります(1317AI条(5))。

・ 内部通報者が保護を受けることができる情報の範囲

・ 内部通報を受ける担当者及び内部通報の方法

・ 会社が内部通報者をサポートし、不利益から保護する方法

・ 会社が内部通報された情報を調査する方法

・ 会社が内部通報された情報の中で言及されていた従業員を公正に取り扱う方法

・ 内部通報制度を会社の役員・従業員に周知させる方法

・ その他会社法規則で定める事項

この内部通報制度の制定義務は201971日から施行されますが、法令で半年間の猶予期間が定められているため、公開会社と大規模非公開会社は、202011日までに会社法の要件を満たした内部通報制度を制定する必要があります。

【2019年8月9日追記:なお、ASICは内部通報制度の要件に関するガイドライン(Regulatory Guidance)を制定する予定です。このガイドラインが制定された場合には、各社は内部通報制度をこのガイドラインに沿ったものに修正する必要があると考えます。2020年1月1日までにこのガイドラインが制定されるかどうかは不明であるため、各社は2020年1月1日までに会社法の要件を満たした内部通報制度を制定し、その後にガイドラインが制定されたら、さらにガイドラインに沿って内部通報制度を修正することになると考えます。】

【20191128日追記:20191113日に、ASICは内部通報制度の要件に関するガイドライン(ASIC Regulatory Guide 270 - Whistleblower policies)を制定しました。ガイドラインの内容を確認したところ、ガイドラインでは会社法で要求されている以上の内容を内部通報制度に盛り込むことを求めているように思われます。具体的には、ガイドラインの8ページ以下のTable 1において内部通報制度に盛り込むべき内容が規定されていますが、これは会社法1317AI(5)に規定されている内容以上のものであると考えられます。ガイドラインは法律ではありませんが、ASICが適切だと考える内部通報制度の内容を規定しているものであるため、規制官庁であるASICに問題視されないためにも、やはりガイドラインに従って内部通報制度を制定することが必要であると考えられます。】

2019年7月22日 (月)

FIRB承認について注意すべき点

1.FIRB承認の対象となる取得行為

【この項目の最後に201981日にFIRBへの照会結果を追記しています】

外国人がオーストラリアで事業を営む会社の株式やオーストラリアの事業に関する資産を取得(Acquire)する行為は、一定の条件を満たす場合、FIRBへの通知やFIRBの承認が必要になる「通知行為(Notifiable Action)」や「重大行為(Significant Action)」に該当します。

たとえば、以前の記事の「2.(1)(A)」の箇所でも述べたとおり、①外国人がオーストラリアで事業を営む会社の株式を取得し、②当該会社の総資産の価値又は当該株式の取得対価のいずれか高い方が基準値を超過しており、かつ③当該会社について外国人が単独で20%以上の権益を有することは、「重大行為」に該当します。

気をつけなければならないのは、この「取得(Acquire)」の定義には、「当該割合の持分を保有し始めることstarts to hold an interest of that percentage in the entity)」が含まれていることです(Foreign Acquisition and Takeovers Act 1975 (Cth)20条)。

たとえば、上記の①と②の要件が満たされていたものの、外国人が単独で取得する対象会社の株式が20%未満であったため、③の要件を満たさなかった場合、「重大行為」には該当しません。その後に、他の株主が株式の償還(redemption)等を行って他の株主の持株割合が減少し、当該外国人の持株割合が上昇して20%を越えることになった場合には、新たな「取得(Acquire)」があったとみなされて「重大行為」に該当することになります(したがって、FIRBの承認を取得することが必要になります)。

また、こちらの記事の「3.例外(Exemptions)」で述べたとおり、外国人が豪州の不動産に投資する不動産ファンド(上場・未上場)に対して一定割合(上場ファンドの場合は10%、未上場ファンドの場合は5%)以下の出資を行う場合には、FIRBの承認は必要になりません。しかし、当該ファンドが投資家からの持分の償還(redemption)に応じたこと等によって、外国人の持分割合が上記の割合を超過してしまう場合、このExemptionが適用されなくなってしまうため、注意が必要です。

201981日追記:外国人による投資後に、当該外国人の行為によらずして、当該外国人の持分割合が基準割合を超えることになった場合、上記の解釈のとおり新たな「取得」があったことになるかについて、FIRBに確認をとりました。FIRBからの回答によれば、「取得(Acquire)」の通常の意味には、取得者の何らかの行為(action)を伴うことが含まれており、「通知行為(Notifiable Action)」や「重大行為(Significant Action)」という言葉からしても何らかの行為(action)がとられることを想定していると解釈できるとのことです。この解釈は、Foreign Acquisition and Takeovers Act 1975 (Cth)の第81(1)でも「A foreign person who proposes to take a notifiable action must give a notice to the Treasurer before taking the action」と規定されており、「take」という動詞が使用されていることや、第16(1)の「propose to acquire an interest…」の定義でも「'make’an offer to acquire an interest」、「'make' or 'publish' a statement that invites a holder of a relevant interest to dispose of an interest」、「'take' part in negotiations with a view to acquiring an interest」というように積極的な行為を意味する動詞が使用されていることからも裏付けられるとのことでした。このFIRBの解釈によれば、外国人の行為によらずして当該外国人の持分割合が基準割合を超えることになった場合には、「通知行為」や「重大行為」があったことにはならず、FIRBへの通知やFIRBの承認は必要にならないといえそうです。ただ、FIRBからは、FIRBの回答はリーガルアドバイスではないため依拠することはできず、FIRBへ通知するか否かは弁護士にアドバイスを仰ぐべきであり、FIRBへの通知が必要か否か不明確な場合には保守的に考えてFIRBへの通知を出すことをお薦めするというコメントも受けています。】

2.FIRB承認の必要性の判断基準時

FIRB承認の必要性は、外国人による取得(Acquire)の時点で判断されます。

たとえば、以前の記事の「2.(1)(C)」の箇所も述べたとおり、①外国人がオーストラリアの土地に対する権益を取得し、かつ②当該土地に対する権益の取得が基準値を超過している場合には、「重大行為」に該当し、FIRBの承認を取得することが必要になります。この基準値は土地の権益の種類によって異なっており、「居住用地」や「更地の商業用地」は基準値がゼロであり、これらの権益を取得する場合には、「重大行為」に該当し、FIRBの承認を取得することが必要になります。

外国人が商業ビル(開発済の商業用地)を取得し、将来的にはその商業ビルを取り壊して更地にし、その上で居住用マンションを建設しようと考えていたとします。この場合、当該土地の性質は、「開発済の商業用地」⇒「更地の商業用地」⇒「居住用地」の順で変化していくことになります。しかし、外国人が取得する時点では当該土地は「開発済の商業用地」であるため、当該土地に対する権益の価値が基準値(取得する外国人が日本人又は日本企業の場合には1,154百万豪ドル)を超過していなければ、「重大行為」に該当せず、FIRBの承認は必要ないことになります。

2019年7月 5日 (金)

事業譲渡時の雇用の承継

オーストラリアでは、企業買収を行う場合の主要な方法として、①株式譲渡(Transfer of Shares)と②事業譲渡(Transfer of Business)の2つがあります(日本法の合併、会社分割のような組織再編行為は存在しません)。

株式譲渡による企業買収の場合、買収対象会社の株式が売主(買収対象会社の株主)から買主に移転するだけですので、買収対象会社の従業員の雇用契約その他の権利・義務は、そのまま買収対象会社において存続することになります。

他方、事業譲渡による企業買収の場合、買収対象会社(売主)はその事業にかかる資産を買主に譲渡することになるため、買収対象会社の従業員の雇用契約その他の権利・義務についても買収対象会社から買主に譲渡させることが必要になります。

事業譲渡にあたり、買収対象会社の従業員の雇用契約その他の権利・義務を買収対象会社から買主に移転させるためには、当該従業員の同意が必要になります。買主が買収対象会社の従業員に対して、現在の雇用契約と実質的に同等の条件で、かつ全体的に見て現在の雇用契約よりも当該従業員に不利ではない条件で新しい雇用契約のオファーを行わなかった場合(where offer of employment is not made on the terms and conditions that are substantially similar to and on an overall basis no less favourable than the employee's terms and conditions of employment with his/her previous employer)、売主は当該従業員に対して整理解雇(Redundancy)を行ったとみなされます(Fair Work Act 2009 Cth)第122(3))。売主が整理解雇を行ったとみなされる場合、売主は当該従業員に対して整理解雇手当を支払う必要があります。

整理解雇手当の支払うことになるリスクを避けるために、事業譲渡契約の中において、買主が承継する予定の従業員に対して、現在の雇用契約と実質的に同等の条件で、かつ全体的に見て現在の雇用契約よりも当該従業員に不利ではない条件で新しい雇用契約のオファーを行うことを買主に義務づけることが良く見られます。また、承継しない予定の従業員については、上記のようなオファーを出さないため、整理解雇が行われたとみなされますが、この整理解雇手当の支払による負担も事業譲渡の売買価格に反映させるか否かも事業譲渡契約の中で規定されます。

また、売主(現在の雇用主)の下で発生・累積した年次有給休暇(Annual Leave - 年間20日)、病気休暇(Personal Leave - 年間10日)及び永年勤続休暇(Long Service Leave - 同一雇用主の下で10年間勤続した場合に2ヶ月間の有給が与えられるという豪州特有の休暇制度)にかかる従業員の権利や整理解雇手当(Redundancy Payment)や永年勤続休暇(Long Service Leave)の付与の計算のベースとなる従業員の勤続年数は、買主(新しい雇用主)においてそのまま引き継がれるのが原則です(Fair Work Act 2009 (Cth)22(5))。ただし、例外的に、発生・累積済の年次有給休暇、整理解雇又は不当解雇(Unfair Dismissal)にかかる従業員の権利の付与のベースとなる勤続年数については買主に引き継がれないようにすることも可能です(Fair Work Act 2009 (Cth)91条、第122(1)、第384(2)(b))。

2018年5月20日 (日)

Managed Investment Scheme(MIS)の概要(2)

前回の記事から引き続いてMISの概要について説明します。

Compliance PlanCompliance Committee

ASICに登録されたMIS(Registered MIS)は、MISが会社法をはじめとする法令及びConstitutionを遵守して運営されることを確保するために、Responsible Entityが採る措置を定めたCompliance Planを作成する必要があります(会社法601HA条)。Registered MISのCompliance PlanASICに登録されるため、誰でも所定の金額を払えば、ASICの登記情報としてオンラインで入手することが可能です。

Registered MISは、そのResponsible Entityの取締役の半分以上が社外取締役(external director)ではない場合、Compliance Committeeの設置が必要になります(会社法601JA条)。Compliance Committeeの設置が必要となる場合、Compliance Committeeの組織・運営に関する事項をCompliance Planに記載する必要があります。

「社外(external)」といえるためには、(1)過去2年間において、当該Responsible Entityやその関連会社の従業員や役員ではなく、(2)過去2年間において、当該Responsible Entityやその関連会社と実質的な取引関係を有しておらず、(3)当該Responsible Entityやその関連会社について重大な利害関係を有しておらず、(4)Responsible Entityやその関連会社に重大な利害関係を有している者の親戚ではないことが必要になります(会社法601JA(2))。

Compliance Committeeが設置される場合、そのCommitteeのメンバーは3名以上でなければならず、そのメンバーの過半数が上記の「社外(external)」の要件を満たしていなければなりません(会社法601JB条)。

Compliance Committeeは、Responsible EntityCompliance Planに従ってMISを運営しているか否かを監督し、Responsible Entityに対して違反の有無を報告します。また、Responsible EntityCompliance Committeeの報告事項に対して適切な措置を採らない場合には、ASICに対して報告を行ないます(会社法601JC条)。

Members' Meeting(持分権者会議)

MISの定義(MISの定義については前回の記事を参照)にあるとおり、MISの出資者(MISの持分権者)はMISの日々の運営には関与しません。MISの日々の運営はResponsible Entityに委ねられています。しかし、Responsible Entityの変更、Constitutionの変更、MISの解散(Constitutionに規定されている場合を除く)等の一定の重大な事項については、MISの持分権者の会議を開催し、その会議で決議を行なうことによって決定されます(会社法601FL条、601FM条、601GC条、601NB条)。MISの持分権者会議(Members' Meeting)は会社の株主総会に相当するものといえます。MISの持分権者会議の手続等については、会社法のPart 2G.4252A条以下)に規定されています。

Product Disclosure DocumentPDS

有価証券(株式や債券又はこれらのオプション等)の発行・売出しについては原則として目論見書(Prospectus)という開示書類が必要になりますが(詳細についてはこちらのブログ記事をご参照ください)、Registered MISの持分(Unit TrustUnit等)の発行・売出しについては原則としてProduct Disclosure DocumentPDS)という開示書類が必要になります。PDSには、MISの内容、便益、リスク、費用等のMISの内容を理解する上で必要となる情報が説明されます。

会社法上、PDSの交付が必要になるのは、MISの持分の発行・売出しを行う相手方がRetail Clientである場合に限られます(会社法1012B条及び1012C条)。

Retail Clientとは、以下の(1)又は(2)に該当しない者をいいます。

(1)Wholesale Client(会社法761G条)

・ 500,000豪ドル超を投資する者

・ 大規模企業(製造業の場合には100人以上、それ以外の事業の場合には20人以上を雇用する企業)

・ 直近2年間の純資産が250万豪ドル以上又は総収入が25万豪ドル以上であると会計士の証明を受けた者

・ プロ投資家(Professional Investor)(AFSL保有者、上場会社、10百万豪ドル以上の資産を保有又は運用する者等)

(2)Sophisticated Investor(会社法761GA条)

発行・売出しを行う者がAFSL保有者であり、その過去の経験から相手方が発行・売出しの対象である金融商品(MISの持分)の内容を理解することができると合理的に判断でき、かつ相手方がPDS等の開示が行なわれないことについて書面で同意をする場合には、相手方はSophisticated Investorとなる。

また、相手方がRetail Clientであっても、以下の(3)~(5)の場合にはPDSの交付は必要になりません。

(3)関係当事者(会社法1012D(9A)及び(9B)

発行・売出しの相手方が当該MISResponsible Entity又はその関連会社の経営に関与する者又はその親戚である場合

(4)オーストラリア国外にいる相手方に対して発行・売出しが行われる場合(会社法1011A条)

(5)小規模発行・売出し(会社法1012E条)

過去の経緯等から当該発行・売出しに関心があると考えられる者に対してのみオファーを行い、直近12ヶ月間において、合計2百万豪ドル以下の金額を合計20名以下の者から調達する場合

以上がMISの概要になります。