資源・エネルギー法

2015年10月25日 (日)

資源・エネルギー法(先住民の権利 - Native Title)

前回からの続きです。今回は土地の探査・採掘を行なおうとする際に対処しなければならない先住民の権利(Native Title)について説明します。

3. 先住民の権利(Native Title

オーストラリアの先住民であるアボリジニーは、オーストラリアの土地に対して一定の権利(Native Title)を有していることが1992年の最高裁判所(High Court)のマボ判決(Mabo and Others v Queensland (No.2 (1992) 175 CLR 1)で認められ、これに応じてオーストラリア政府はNative Titleに関する立法(Native Titles Act  1993 (Cth))を行っています。

同法において、アボリジニーの人々は、彼らの伝統的な法律・慣習に基づいて関係性を有している土地に対してNative Titleを有するものとされています。このNative Titleの具体的な内容は、個々のアボリジニーのグループの法律・慣習の内容によって異なります(例えば、その土地の上で狩猟・採取を行う権利、儀式のためにその土地にアクセスする権利等)。

Native Titleを有していると考えるアボリジニーの人々は、連邦裁判所に対してNative Titleの存否・内容についての確認申請を行うことができます。連邦裁判所は確認申請をNational Native Title Tribunal (NNTT)Native Titleに関する専門審理・登記機関)に移送し、NNTTは一定の要件を満たしていると判断した場合、確認申請をRegister of Native Title Claimsに登記します。確認申請が登記された後、連邦裁判所は審理を行い、Native Titleの存否・内容について決定を行ないます。Native Titleの存在が認められた場合、そのNative Titleの存在・内容はNational Native Title Registerに登記されることになります。これらのRegister of Native Title Claims及びNational Native Title Registerはオンラインで誰でもアクセスすることができ、これらのRegisterを調査することによって、土地に対してNative Titleの確認申請がなされているか否か、及びNative Titleの存在が認められているか否かについて確認することができます。

土地についてNative Titleの確認申請がなされている場合、又はNative Titleの存在が認められている場合、Native Titleを侵害することになる探査・採掘の許可の申請を行おうとする者は、原則として、Native Titleの登記された確認申請者又はNative Titleの登記された保有者であるアボリジニーの人々と交渉を行う必要があります。交渉の結果、合意がまとまれば、当該合意の内容に従った探査・採掘の許可を得ることができます。この合意の内容としては、アボリジニーの人々に対する金銭的な補償が一般的ですが、この他にも開発される鉱山において一定数のアボリジニーの人々を職業訓練して雇用することを義務付けるといったものもあります。合意がまとまらない場合には、当事者はNNTTに対して、探査・採掘の許可が与えられるべきか否か、与えられる場合にはどのような条件が付されるべきかについて決定を求めることができます。

なお、アボリジニーの人々と土地の利用・管理について締結した契約のうち一定の要件を満たすものについては、Indigenous Land Use Agreementとして、Register of Indigenous Land Use Agreementsに登録することができます。このRegisterはオンラインで誰でもアクセスすることができます。

2015年10月21日 (水)

資源・エネルギー法(探査・採掘に関する許可/環境規制)

オーストラリアの法律事務所では一般的で重要であるが、日本の法律事務所ではあまり見られない業務分野として、資源・エネルギー法(Energy & Resources Law)があります。鉱物(石炭、鉄鉱石、銅等)、石油・ガス等の資源・エネルギーを探査・採掘し、採掘した資源・エネルギーを精製・販売するのが基本的な資源・エネルギーのビジネスであり、資源・エネルギー法とは、このビジネスに関連して問題となる法律をいいます。

本稿では、資源・エネルギー分野で問題となる事項及びその概要について説明します。

1. 探査・採掘

 

オーストラリアでは私人による土地の所有が認められているといえますが(オーストラリアの不動産制度(1)を参照)、私人の土地の所有権は当該土地に存在する鉱物・エネルギー資源には及びません。オーストラリアの土地に存在する鉱物・エネルギー資源は、国家の管理する土地に存在するものであれ、私人の所有する土地に存在するものであれ、全て国家に帰属するものとされています。

 

(1)探査

 

鉱物・エネルギー資源を採掘するためには、まず土地の探査(Exploration)を行って資源が地下に存在するの調査しなければなりません。探査を行おうとする者は、政府機関に申請を行って許可(Exploration Licence等の名称で呼ばれます)を得る必要があります。この探査許可には、探査許可の期間、探査対象の土地の範囲、政府機関に支払う費用、探査の際に従うべき条件等が付されます。探査活動によって探査対象の土地に損害等の影響を及ぼす場合には、当該土地の所有者に対して補償を行う必要があります。探査許可は政府機関が管理する登記簿に登記され、誰でも登記情報を入手することができます。探査許可の譲渡、探査許可に対する担保権設定等には政府機関の承認が必要であり、当該譲渡、担保権設定等は登記されて登記簿に反映されます。政府機関は、適切な技術的、人的及び財務的リソースを有していないと判断される者に対する探査許可の譲渡は、承認しない場合があります。

 

(2)採掘

 

探査の結果、資源が存在することが確認できた場合、採掘(Mining/Production)の段階に移ります。採掘を行おうとする者は、政府機関に申請を行って許可(Mining Lease等の名称で呼ばれます)を得る必要があります。採掘許可についても探査許可と同じく許可期間、採掘対象土地の範囲、政府機関への費用、採掘の際に従うべき条件等が付され、また、採掘対象土地の所有者に対する補償も必要になります。登記簿に登記される内容等についても探査許可と同様です。採掘許可に基づいて資源の採掘を行った場合、採掘者は採掘許可を出した政府機関に対して採掘料(Royalty:採掘した資源の価値の数%等)を支払う必要があります。

 

上記の探査・採掘に関する法律・規制は主に州法が管轄する分野になります。探査・採掘の許可(これらの許可は一般にTenementと称されます)は、各州の関連政府部門が管理しており、たとえば、クイーンズランド州における探査・採掘の許可の情報は、こちらでオンラインで調査・閲覧することができます。

 

2. 環境規制

 

資源の大規模な採掘を行う場合、環境に大きな影響を及ぼすことが多いため、そのような採掘を行おうとする者は、環境規制当局に対して申請して許可(Environmental Protection LicenceEnvironmental Authority等の名称で呼ばれます)を得る必要があります。この環境許可を得るためには、採掘プロジェクトが環境に及ぼす影響を評価した書面を作成して提出したり、一般公衆に広く意見を求める手続を経たりする必要がある場合があります。この環境許可の取得には12年かかる場合もあり、採掘プロジェクトのスケジュールや実行可能性に大きな影響を与えます。環境許可には様々な条件が付されるのが通常であり、採掘者はこれらの条件を遵守しなければなりません。そのような条件の一つとして、採掘者は採掘完了後に採掘現場の環境を復旧(Rehabilitation)しなければならないというものがあり、この復旧義務を担保するために多額の保証金を環境規制当局に支払わなければならない場合もあります。

 

環境規制は、州法と連邦法の双方が管轄しており、州と連邦のそれぞれの環境許可を得なければなりません。但し、この環境許可に関する手続は現在簡素化されてきており、(州の手続に)一本化される傾向にあります。環境許可は、各州及び連邦の環境部門が管理しており、たとえば、クイーンズランド州における環境許可の情報は、こちらでオンラインで調査・閲覧することができます。

2015年7月12日 (日)

ジョイント・ベンチャーの形態(2)-税務上の観点からの考察

前回は法務的観点からJVの形態について考察しましたが、今回は税務上の観点からの考察をします。

税務上ポイントとなるのは、主に、(1)JVのビジネスの損失を他のビジネスの利益と通算させて相殺することができるかどうかという点、及び(2)JVのビジネスの利益を配当等によって出資者に還元する場合に柔軟に行うことができるか、また、二重課税を課されることはないか、という点であるといえます。

 

 

 
 

Incorporated JV

 
 

Unincorporated JV

 
 

信託(Unit Trust

 
 

概要

 
 

JVビジネスに関する損益の計算を行い、JV会社が当該損益の計算に基づいて税金(所得税)を支払うことになります。JV当事者とJV会社は別Entityであり、それぞれ個別に損益の計算を行い、税金を支払うことになります。

 
 

JVビジネスに関する損益の計算を行い、その損益の結果はJV持分割合に基づいてJV当事者に帰属します。JV当事者は自己に帰属するJVビジネスの利益について税金(所得税)を支払います。

 
 

JVビジネスに関する損益の計算を行い、その損益の結果を信託(Unit Trust)に対する受益権の持分(Unit)割合に基づいてJV当事者に帰属します。JV当事者は自己に帰属するJVビジネスの利益について税金(所得税)を支払います。

 
 

JVビジネスの損失をJV以外のビジネスの利益と相殺できるか

 
 

JV会社で生じた損失(JVビジネスの損失)をJV当事者の他のビジネスの利益と相殺させてJV当事者の利益を減少させて納税額を減らすことはできません。

但し、一定の条件を満たせば、JV会社はJVビジネスの損失を翌年以降に繰り越し、翌年以降にJV会社に発生する利益と相殺することができます。

 
 

JV当事者はJVビジネスの損益を他のビジネスの損益と通算して損益計算を行うことができます。

また、一定の条件を満たせば損失を翌年以降に繰り越すこともできます。

 
 

信託で生じた損失(JVビジネスの損失)は信託レベルで留まり、JV当事者の他のビジネスの利益と相殺させることはできません。

但し、一定の条件を満たせば、信託はJVビジネスの損失を翌年以降に繰り越し、翌年以降に信託に発生する利益と相殺することができます。

 
 

JVビジネスの利益還元に関する要件及び税金

 
 

JV会社の利益や財産をJV当事者に還元するためには会社法上の利益配当の要件(債務超過でないこと、十分な会計上の利益があること等)を満たす必要があります。

JV当事者はJV会社からの配当に所得税を課されます。ただし、JV会社のレベルで支払った配当利益にかかる所得税は、JV当事者が支払う所得税から差し引くことができます(Franking   Creditといいます)。

 
 

JVビジネスの利益はすでにJV当事者に帰属しており、還元をする必要はありません。

 
 

信託財産をJV当事者に還元することは信託契約の規定に従って行われますが、会社法の利益配当の要件のようなものはなく、十分な会計上の利益がない場合でもJV当事者に対する還元を行うこともできます。会社の減資に相当する信託財産の払い戻しも会社法上の減資の要件の適用を受けず、信託契約に従って行うことができます。

信託レベルでは所得税は課されませんが、JV当事者は信託からの配当に所得税を課されます。

 

上記のとおり、税務上の観点から見るとUnincorporated JVが優れており、特にJV当事者がJVビジネスの損益を他のビジネスの損益と通算して損益計算を行うことができるという点のメリットは非常に大きいといえます。

Unincorporated JVのデメリットは、前回説明したとおり、JVに関する債務についてJV当事者が無限責任を負うという点ですが、このデメリットについてはJV当事者自体を特別目的会社(Special Purpose Company)にすることによって対応することができます。

豪州の資源関係分野でよく見られるのは、豪州の統括会社の下に、プロジェクト毎に会社(SPC)を設立し、当該SPCJV相手とUnincorporated JVを組成するというものです。豪州の統括会社の下にプロジェクトの数だけSPCがぶら下がることになりますが、これらの統括会社とSPCをまとめて連結納税の対象とすることで各SPC(各プロジェクト)の損益を通算させることができます。

以上、前回と今回で法務及び税務上の観点からジョイント・ベンチャーの形態を考察してきましたが、細かい問題は他にも数多くあり、各形態のメリット・デメリットを総合的に考慮した上で、ジョイント・ベンチャーの形態を決定する必要があります。

2015年6月 9日 (火)

ジョイント・ベンチャーの形態(1)-法務的観点からの考察

日本企業がオーストラリアに投資する場合、オーストラリア又はその他の国の企業と共同出資(ジョイント・ベンチャー)によってビジネスを行うことがあります。特に大規模な資源・インフラ・不動産開発プロジェクト等でジョイント・ベンチャーは多く見られます。

 

ジョイント・ベンチャーの形態には、大きく分けて、Incorporated Joint-VentureUnincorporated Joint-Venture及び信託(Unit Trust)の3種類があります。これらの3種類のジョイント・ベンチャーの形態について、以下の表のとおり、法務的観点からの考察をまとめてみました(この他にもパートナーシップといった形態もありますが、あまり実務では使用されていないのでここでは割愛します)。 

 

 

 

 
 

Incorporated JV

 
 

Unincorporated JV

 
 

信託(Unit Trust

 
 

概要

 
 

「会社」をJVEntityとして使用し、JV当事者は当該会社に対して出資をすることによってJV関係を構築します。

 

 

 
 

JVEntityを作らず、JV当事者の間でJVの権利・義務関係を規律するJV契約を締結し、当該契約に従ってJV当事者がJVビジネスを行うものです。これは簡単に言うと、JV当事者間で共同でビジネスを行うJV契約を締結しただけのJVになります。

 

 

 
 

JV当事者間で出資をして信託の受託者となる会社を設立します(この会社はCorporate Trusteeといわれます)。この会社は最小限の資本金(各JV当事者が1ドルずつ出資する等)によって設立されるのが通常です。JV当事者はこの会社を受託者として財産(金銭等)を出資し、これを信託財産とします。受託者はこの信託財産を使ってJVビジネスを行います。受益者であるJV当事者は受託者に対する指示を出して、JVビジネスをコントロールすることになります。

 
 

法人格

 
 

JVは会社ですので、法人格を有し、JVの権利・義務はJV会社に帰属することになります。

 
 

JVに法人格はなく、JVの権利・義務は全てJV当事者に直接に帰属することになります。

 
 

信託(Unit Trust)には法人格はありませんが、受託者は会社ですので法人格はあります。外部との権利・義務関係は全て受託者に帰属することになります。

 
 

責任の限定

 
 

JVの債務についてはJV会社が責任を負い、株主有限責任の原則により、JV当事者(JV会社の株主)はJV会社の債務について責任を負いません。

 
 

JV当事者はJVに関する債務について無制限に責任を負い、JV事業に関する債務の債権者から直接に請求を受けることになります。

 
 

JVに関する債務については受託者が責任を負い、外部からの請求に対しては受託者が矢面に立つことになります。信託契約を適切に作成することによって、JV当事者(受益者)は信託財産の限度で責任を負うようにすることができます(これはIncorporated JVで株主がJV会社に対する出資の限度で責任を負う株主有限責任と同じです)。

 
 

JVの持分割合

 
 

JV当事者のJVに対する持分割合は、JV当事者が保有するJV会社の株式数によって表されます。

 
 

JV契約の中でJV当事者の持分割合を定め、その持分割合に応じてJV当事者はJVの資産及び権利・義務を有することになります。

JVの資産は持分割合に応じたJV当事者間での共有となり、JVの負債はJV当事者が持分割合に応じて負担します。

 
 

JV当事者のJVに対する持分割合は、信託(Unit Trustと呼ばれます)に対する受益権の持分(Unit)の割合によって表されます。

 
 

JVのガバナンス

 
 

JVのガバナンスは、会社法、定款及び株主間契約によって規律され、株主総会・取締役会といったガバナンスの組織及び権利・義務関係は明確に規定されることになります(例えば、会社法において、会社の一定の事項について株主総会決議事項であると定めていたり、株主には会社に対する一定の情報請求権が認められていたりするため、下記のUnincorporated JVほどには株主間契約に詳細にガバナンスの組織及び権利・義務関係について規律する必要性は低いともいえます)。

 
 

JVのガバナンスの組織及び権利・義務関係は全てJV契約の内容は詳細に定める必要があります(例えば、JVの意思決定をする運営委員会をどのように構成するか、JVのどういった事項をJV当事者(運営委員会)の全会一致決議事項とするのか等について、JV契約で詳細に定めなければなりません)。

 
 

JVのガバナンスは、信託法、受託者の定款、信託契約及び受益者間契約(Unit-Holders Agreement)等によって規律されることになります。受託者のガバナンスと信託のガバナンスの2つに分かれることになりますが、信託のガバナンスについてはUnincorporated JVの場合のように特に詳細に信託契約及び受益者間契約で定める必要があります。

 
 

譲渡可能性

 
 

JV持分の譲渡はJV会社の株式譲渡によって行われます。通常は、株主間契約においてJV会社の株式譲渡については、他のJV当事者の同意が必要とされていたり、他のJV当事者に先買権が与えられていたりします。

 
 

JV持分を譲渡する場合、JV当事者の資産及び契約関係(契約上の地位)を譲渡することになるため、資産譲渡と同じく煩雑であり、(JV契約に別段の定めが無い限り)他のJV当事者の同意が必要になります。

 
 

JV持分の譲渡は、受託者の株式譲渡及び信託持分(Unit)の譲渡によって行われます。通常は、受託者の定款及び/又は受益者間契約等において、これらの譲渡について他のJV当事者の同意が必要とされていたり、他のJV当事者に先買権が与えられていたりします。

 
 

配当方法

 
 

JV事業の利益はJV会社の株主(JV当事者)に対する配当という形で行われます。配当を行うためには、会社に配当可能利益があること、株主総会決議を得ていること等の会社法上の要件を満たす必要があります。

 
 

JV事業に関する損益は各JV当事者に直接に帰属することになるため、JVからJV当事者に対する配当はそもそも行われません。

 
 

JV事業の利益は信託の受益者に対する利益分配といった形で行われます。利益分配は信託契約等に従って行われる必要がありますが、会社と異なり会社法上の要件は適用されないため、配当可能利益がない場合でも利益分配を行うことができます。

 

 

以上、色々と書きましたが、法務の観点から一番重要なのはJVの債務に関する責任が有限であるか否かであるといえます。Unincorporated JVですと無限責任を負うことになるため、この点はUnincorporated JVの大きな欠点となります。ただ、Unincorporated JVには、この無限責任を負うという欠点を上回る税務上の大きなメリットがあるため、Unincorporated JVはオーストラリアのJVで広く用いられています。

 

次回は税務上の観点からJVの形態を考察します。