労働法

2021年9月 5日 (日)

豪州における非正規雇用の問題(幻冬舎ゴールドオンライン内の記事)

幻冬舎ゴールドオンラインでの連載記事『豪州にもある非正規雇用の問題(前編・後編)』が掲載されました。

前編:豪州にもある非正規雇用の問題…司法は「非正規」をどこまで守るのか? | 富裕層向け資産防衛メディア | 幻冬舎ゴールドオンライン (gentosha-go.com)

後編:豪州「非正規雇用者」保護の問題…司法による最終的な判断は? | 富裕層向け資産防衛メディア | 幻冬舎ゴールドオンライン (gentosha-go.com)

豪州で長年議論されてきた問題であったのですが、ある従業員がCasual(臨時雇用)かPermanent(正社員)かは、「雇用開始時点においてCasualとして雇用する合意があったか否かによって判断される(雇用開始後にどのような形態で勤務をしたかは関係ない)」という結論になりました(最高裁もそのように判断し、立法でもそのように規定されました)。

形式的な判断であり、法律関係の明確化には良いのかもしれませんが、雇用契約に「Casual」と明確に書いておけば、その後正社員と同じように働いたとしてもCasualのままということになりそうです。

これまで裁判所はどちらかと言えば法律や契約の形式的な適用によって不正義が生じる場合に、実態を考慮して正義が実現できるような判断を出してきたのですが、今回は色々事情があって上記のような形式的な判断をしたものと思います(Casualと認めると莫大な金額のBackPayの問題が生じて経済界が混乱する、Casualの保護のためには今回の立法で与えた正社員への転換請求権で十分など)。

現在未解決である請負(Independent Contractor)の保護の問題についても、上記の判断基準が適用されるとしたら、業務開始時点で契約書に明確に請負形態と規定しておけば、その後どのような形態で業務をしたとしても請負のままである(従業員にはならない)という結論になりそうです。ただ、この結論は、これまでの最高裁判例(Hollis v Vabu Pty Ltd (2001) 207 CLR 21:クーリエ便の配達員が請負か従業員かについて実際の勤務形態等の様々な要素を考慮して請負と判断した)と抵触することになるため、判例変更が必要になりそうです。

2021年4月 7日 (水)

Casual Employee(臨時従業員)に関する法律改正

今回の記事は、202088日に掲載した2つの記事(Casual Employee(臨時従業員)に関する問題(1)(2))の続編の記事になります。

上記の2つの記事で問題になっていたCasual Employee(臨時従業員)に関する問題について、法律改正により解決がなされました。

<参考>今回の法改正に関するオーストラリア政府の説明

Casual Employeeの該当性について争われている裁判(WorkPac Pty Ltd v Rossato)は、は現在オーストラリアの最高裁(High Court)に係属中ですが、今回の法改正は、この最高裁の判断を待たずに、立法的に問題の解決を図ったものといえます。

2021322日にオーストラリア連邦議会で可決されたFair Work Amendment Supporting Australia's Job and Economic RecoveryAct 2021Cthにより、オーストラリアの労働基本法であるFair Work Act 2009Cth)(FWA)が2021327日(改正日)より改正され、以下のような変更がなされました。

1.Casual Employee(臨時従業員)の定義の制定

改正後のFWAでは、Casual Employee(臨時従業員)の定義が規定されることになりました。Casual Employee(臨時従業員)は「仕事が継続して無期限にあるとは限らないという前提で雇用されることになった従業員」をいうと定義されました(改正FWA15A条)。

Casual Loadingが支払われているどうかではなく、また、雇用された後にどのような形態で勤務したか否か(規則的なパターンで勤務を続けたか否かなど)は関係なく、上記のような前提で雇われることになったかどうか、という点がCasual Employeeの該当性の判断基準となります。これは「安定して(Stable)規則的(Regular)かつ予測可能な(Predictable)シフトで勤務しているCasual Employeeは正社員とみなす」というCasual Employeeの判断に関する裁判所の基準を否定して覆すものといえます。

2.正社員(Permanent Employee)への変更権

Casual Employeeの定義は雇用者側にとって有利ですが、これのバランスを取るものとして、改正後のFWAでは、雇用者は、「12ヶ月以上雇用されており、かつ、直近6ヶ月以上において規則的なパターンで継続的に勤務したCasual Employee」に対して、正社員(Permanent Employee)への変更のオファーをださなければならないことになりました(改正FWA66B条)。但し、オファーを出さないことに合理的な理由がある場合(今後12ヶ月以内に当該Casual Employeeが担当している職務が無くなる場合や職務の分量が大幅に減少する場合、当該Casual Employeeが勤務日数や勤務回数について同様に勤務できず大きな調整が必要になる場合など)にはオファーを出さなくてよいとされています。

正社員への変更のオファーは、12ヶ月間の雇用期間が経過した後21日以内になされなければなりません。また、要件を満たさない又は例外事由に該当するなどにより、正社員への変更のオファーを出さない場合でもその旨を従業員に通知する必要があります。

また、雇用者側から上記のオファーを出さない場合であっても、「12ヶ月以上雇用されており、かつ、直近6ヶ月以上において規則的なパターンで継続的に勤務し、かつ、今後も大きな調整が必要なく同様に勤務できるCasual Employee」は雇用者に対して正社員への変更を要求することができます(改正FWA66F条)。

正社員への変更の要求は、12ヶ月間の雇用期間から更に21日経過した後(すなわち雇用者がオファーを出さなければならない期間が経過した後)に出すことができます。

改正日においてCasual Employeeであった従業員については、雇用者は改正日から6ヶ月以内に正社員への変更権を付与するための要件を満たすか否かを判断し、要件を満たす従業員に対しては正社員への変更のオファーを出す必要があります。

但し、雇用者がSmall Business Employer(雇用している「正社員」と「規則的なパターンで継続的に勤務するCasual Employee」の数が15名未満の雇用者)である場合には例外的な取り扱いが定められており、雇用者からCasual Employeeに対して正社員への変更のオファーを出す必要がありませんが、Casual Employeeから雇用者に対して正社員への変更の要求をすることはできます。また、この正社員への変更の要求は12ヶ月の雇用期間後であればいつでも出すことができます(改正日からでも出すことができます)。

3.Casual Employment Information Statement

雇用者はCasual Employeeを雇用する際には、Casual Employeeの意味、12ヶ月間の勤務後の正社員への変更権等を記載したCasual Employment Information StatementCasual Employeeに対して交付しなければならないことになりました(改正FWA125B条)。

改正日の時点で雇用されているCasual Employeeに対しては、雇用者は改正日から6ヶ月経過後実務上可能な限り早急にCasual Employment Information Statementを交付する必要があります。

4.Casual Loadingとの相殺

Casual Employeeとして雇われた者がCasual Employeeではない(正社員である)と主張し、裁判所が当該主張を認めて、雇用者に対して当該従業員が正社員であることに基づく有給休暇などの補償の支払いを命ずる場合、裁判所は、雇用者が当該従業員に対して支払ったCasual Loadingを補償金額から差し引かなければならないとされました(改正FWA545A条)。これはCasual EmployeeによるDouble Dipping(「Casual Loading」と「年次有給休暇等」の二重取り)を防止するための規定になります。

この規定は改正日前に発生した有給休暇などの権利や改正日前に支払われたCasual Loadingにも適用されます。

5.まとめ

この法改正によって、Casual Employeeをめぐる論争は終結することになりました。今後は正社員になることを希望するCasual Employeeは正社員への変更権を行使して正社員となることができるようになり、労働者の生活が安定することになると考えます。他方で、雇用者側としては正社員化が進むことにより雇用の調整(人員削減)がより難しくなると考えます。

今後作成するCasual Employeeの雇用契約書については、Casual Employeeの定義に沿った調整を行い、正社員への変更権を規定するなどの修正を行う必要があると考えます。

また、Casual Employeeを雇用している場合には、改正日(2021327日)から6ヶ月以内に正社員への変更のオファーを出すか否かの判断をしたり、Casual Employment Information Statementを交付するなどの対応が必要になります。

2020年8月 8日 (土)

Casual Employee(臨時従業員)に関する問題(2)

前回の記事からの続きです。

3.Regular Casual Employeeを正社員とみなす判決

臨時従業員の制度と実態が乖離していたところに、最近になって裁判所が「安定して(Stable)規則的(Regular)かつ予測可能な(Predictable)シフトで勤務している臨時従業員(いわゆるRegular Casual Employeeは正社員とみなす」という判決(WorkPac Pty Ltd v Skene [2018] FCAFC 131)を出したため、オーストラリアで大きな問題となっています。臨時従業員が正社員とみなされると、雇用者からすると、正社員として継続的に雇用しなければならず、有給休暇や病気休暇などを与えなければならなくなります。Australia Industry Groupによれば、135万人もいる臨時従業員が正社員とみなされた場合、雇用主はこれらの従業員のために過去6年分(時効期間が6年のため)の103億豪ドルの有給休暇分、23億豪ドルの病気休暇分、16億豪ドルの整理解雇手当のための引当金を積み立てなければならなくなるとのことです。しかも上記の判決では臨時従業員が正社員とみなされても臨時従業員に対して支払ったCasual Loading分は有給休暇等から差し引くことはできないとされました(雇用者からするとCasual Loadingを支払った上で、さらに追加で年次有給休暇等の負債を負うことになります)。臨時従業員からすると、継続的な雇用が保証されるとともに有給休暇等の支払いを受けることができるようになり(しかもCasual Loadingを返す必要もない)非常に有利ですが、雇用者は財務・経営上大きな影響を受けることになります。特にコロナで経済時の状況が不透明な中で、オーストラリア経済にも大きな影響を及ぼすことになると考えられます。特に、Regular Casual Employeeは、オーストラリアの主要産業である観光・ホスピタリティの業界や資源業界で多く利用されているため、これらの業界に及ぼす影響(コスト増など)は大きいと考えます。

4.その後の動向

上記の判決を受けて、201812月に連邦政府(自由・保守連合)が規則(Fair Work Regulation)を改正し、Double Dipping(「Casual Loading」と「年次有給休暇等」の二重取り)を防止するための措置を導入しました(Fair Work Amendment (Casual Loading Offset) Regulations 2018)。

具体的には、Casual Loading部分が明確に区別できる形で支払われていれば、臨時従業員が正社員であると判断された場合、当該臨時従業員に支払われたCasual Loadingの金額は当該臨時従業員が受領できる年次有給休暇等の金額から控除できることになりました。しかもこの改正規則は過去に遡って適用されることが定められました。

その後、20199月に野党である労働党が連邦議会上院(Senate)において上記の改正規則を廃止する提案を出しましたが、上院の過半数を占める自由・保守連合によってこの提案は否決されました。

しかし、20205月に出された連邦裁判所控訴審での判決では、第一審における「いわゆるRegular Casual Employeeは正社員である」という判断を承認した上で、雇用者が支払ったと主張していたCasual Loading他の給料部分と明確に区別されていなかったため、上記の改正規則によっても年次有給休暇等の金額から控除できない、とされました(WorkPac Pty Ltd v Rossato [2020] FCAFC 84)。

敗訴したWorkPac Pty Ltdは、現在、最高裁判所(High Court)に上訴中ですが、最高裁判所が控訴審の判決を覆す可能性は低いと考えられています。

また、控訴審の判決を受けて、オーストラリアの会社の所轄官庁であるASICは、いわゆるRegular Casual Employeeについて年次有給休暇等の引当金を積むように各会社に対して求めるコメントを出しました(参照先リンク)。これを受けてオーストラリアの会計事務所はRegular Casual Employeeを利用している会社に対して引当金を積むように求めてきています。

このRegular Casual Employeeの問題は、オーストラリア経済に与える影響が非常に大きいため、連邦政府がこの問題を抜本的に解決するための立法措置を採る予定である、と述べています。しかし、これは現在のところ連邦政府(与党)が雇用者・経済界寄りの自由・保守連合であるからであり、連邦選挙で労働党(野党)が政権をとった場合、そのような立法措置は覆される可能性があります。

最高裁判所が今後どのような判決を出すことになるのか、連邦政府は立法措置により介入するのか、労働党も納得できるような解決がされるのか、など今後の動向を注視していく必要があります。

Casual Employee(臨時従業員)に関する問題(1)

1.労働者の分類とCasual Employee(臨時従業員)

オーストラリアの労働法上、労働者のタイプは大雑把にいって以下のように分類することができます。


独立事業者(Independent Contractor


従業員(Employee

 


正社員(Permanent Employee

Full Time

Part Time


臨時従業員(Casual Employee

独立事業者」は、自らが独立した事業者として他者に対してサービスを提供する者であり、サービスの提供を受ける他社との間に雇用関係(Employment Relationship)は成立しません。したがって、基本的には従業員(Employee)であれば受けることができる労働法上の保護を受けることができません。

従業員」は、雇用者との雇用関係が成立しており、雇用者の指示に従って業務を行います。労働法上の保護を受けることができます。

「従業員」のうち業務や勤務時間が保証されており、一時的ではなく継続的に勤務することが想定されている従業員は「正社員(Permanent Employee)」と呼ばれます。

正社員」のうち1週間の法定労働時間の上限である週38時間勤務する従業員をFull-Timeの従業員といい、それ以下の時間勤務する従業員(例:5時間/日で週4日勤務する従業員)をPart-Timeの従業員といいます。

他方、「従業員」ではあるものの、臨時に雇用されたものであり、雇用期間や業務や勤務時間が保証されていない従業員を「臨時従業員(Casual Employee)」といいます(給料は働いた時間や日数に応じて時給・日給計算で支払われます)。臨時従業員は、雇用者が原則としていつでも雇用を終了させることができるため、雇用が不安定であるといえます。また、労働法上、年次有給休暇(Annual Leave)や病気休暇(Sick Leave)や整理解雇手当(Redundancy Pay)を受ける権利もありません(病気で仕事を休んだ場合、病気休暇が使えないため、その日の給料はもらえません)。これらの不利益の代償として、臨時従業員は「正社員(Permanent Employee)」の給料の25%増の給与を受けることができます(この25%の割増分はCasual Loadingと呼ばれます)。

2.臨時従業員(Casual Employee)の制度と利用実態の乖離

臨時従業員は、もともとは一時的な人手不足に対応するために利用されること(たとえば、収穫期の農作業、大規模イベントの手伝いなど)が予定されていたのですが、実際には継続的な業務のために長期間にわたって利用されることが一般化しています。雇用の実態からすれば、本来であれば正社員として雇用すべきところを、雇用が調整しやすいように(解雇がしやすいように)臨時従業員として雇用する、という事態が生じていました。オーストラリアには約250万人が臨時従業員として雇用されていますが、そのうち135万人が規則的なシフトで1年以上同じ雇用者の下で勤務をしている(正社員的な働き方をしている)というデータがあります。

日本でもサービス残業(法律上は残業代を請求できるはずだが実際には支払われることはない)など制度と実態が乖離しているケースは見られますが、オーストラリアにもこの臨時従業員のように制度と実態が乖離しているケースがあるといえます。

この臨時従業員の利用について、最近になってオーストラリアの裁判所が実態を制度に合わせるように求める判決を出したため、大きな問題が生じています(次の記事に続きます)。

2019年7月 8日 (月)

就業規則等の社内規則について

オーストラリアの会社においても、就業規則をはじめとする従業員に適用される様々な規則が定められているのが通常です。

日本では、労働基準法において、常時10人以上の従業員を使用する雇用主は、就業規則を作成し労働基準監督署に届け出る義務があります。他方、オーストラリアでは、就業規則の作成は任意であり、当局に届け出る必要もありません。

1.一般的な就業規則の内容

オーストラリアでは、就業規則は、Employment HandbookEmployment Policyなどと呼ばれます。就業規則には、以下の(1)~(11)のような内容が盛り込まれることが一般的です。以下の全ての内容を一つの就業規則に盛り込む必要はなく、複数の規則(Policy)に分けて規定しても構いません。特に(8)のプライバシーに関する事項(Privacy Policy)などは、会社のウェブサイト等で一般公開されるものであるため、別個の規則として作成するのが通常です。

(1) 労働安全衛生に関する事項(Work Health and Safety Policy

⇒ 雇用主及び経営陣は従業員の労働安全衛生を確保する法的義務を負っており、この義務を果たすためにも労働安全衛生に関する事項を規則として定めておく必要があります。

(2) いじめ、ハラスメント及び差別に関する事項(Bullying, Harassment and Discrimination Policy

⇒ 労働法上、雇用主及び経営陣は職場におけるいじめ、ハラスメント及び差別を防止するために合理的な措置を採る義務を負っており、この義務を果たすためにも禁止されるいじめ、ハラスメント及び差別を規則で明確にし、また、そのような行為があった時にとられる手続についても規定しておきます。

(3) 行為規範(Code of Conduct

⇒ 従業員として期待される行為(服装の定めなども含む)を規定します。

(4) 薬物及びアルコールに関する事項(Drug and Alchohol Policy

⇒ 職場における薬物・アルコール類の禁止・制限について規定します。

(5) 休暇に関する事項(Leave Policy

⇒ 年休や病欠の取り方等について規定します。

(6) 紛争解決・苦情申立に関する手続(Dispute Resolution and Grievance Policy

⇒ 従業員が雇用主や他の従業員に対して苦情を申し立てたり、紛争を解決するための手続を定めます。

(7) パフォーマンス管理・懲戒に関する手続(Performance Management and Discipline Policy

⇒ 従業員のパフォーマンスの評価・管理の基準・手続、従業員による不適切な行為や懲戒処分の種類・内容並びに懲戒手続を定めます。

(8) インターネット・Eメール・ソーシャルメディアの利用に関する事項(Internet, Email and Social Media Policy

(9) プライバシーに関する事項(Privacy Policy

⇒ Privacy Act 1988 (Cth)に基づき従業員や顧客等の個人情報の管理に関する規則を定めます。その内容についてはAustralian Privacy Principlesに従って定められます(以前の記事を参照)。

(10) 給与・福利厚生に関する事項(Pay, Conditions and Benefits

(11) 内部通報制度に関する事項(Whistleblowing Policy

⇒ 201971日以降は、公開会社(Public Company)及び大規模非公開会社(Large Proprietary Company - ①連結の年間収入が$25百万豪ドル以上、②連結の総資産が25百万豪ドル以上、③従業員が100名以上の3つのうち2つ以上を満たすProprietary Company)は、Corporations Act 2001 (Cth)において内部通報制度に関する制度を定めることが求められます。

(12) 経費に関する事項(Expense Policy

⇒ どのような経費が会社の経費として落とせるか、経費申請の手続などを定めます。

2.就業規則の法的性質

就業規則は雇用主と従業員の間の合意(雇用契約における明示の規定又は雇用主と従業員の間に黙示の合意)によって雇用契約の内容に組み込むこともできます。この場合、就業規則の内容は雇用契約の一部となるため、雇用主と従業員の双方は就業規則の内容を遵守することが義務付けられ、就業規則に違反をした場合には雇用契約の違反とみなされます。また、雇用主が就業規則を変更する場合には、雇用契約の変更と同様に従業員の同意が必要になります。オーストラリアでは、このように就業規則を雇用契約の一部として組み込む扱いは一般的ではありません。むしろ、就業規則が雇用契約の一部とならないように、雇用契約や就業規則において明示的に就業規則は雇用契約の一部ではないことを定めるのが通常です。

就業規則が雇用契約の一部ではない場合、就業規則は雇用主による業務にかかる指図と解されるのが一般的です。雇用主は、雇用契約上、従業員に対して業務上の指図を出すことができますが、この業務上の指図を文書化して定めたものが就業規則ということになります。この場合、雇用主は就業規則の内容を遵守する法的な義務は負わず、また、就業規則の内容の変更について従業員の同意は必要ないことになります。ただし、業務上の指図は合理的なものでなければならないため、就業規則の内容も合理的なものでなければ従業員は従う義務はないことになります。従業員の立場からすれば、雇用主に対して法的義務を負わせたい事項があれば、これが就業規則に定めてあれば満足するのではなく、雇用契約の中に規定するように要求すべきといえます。

2019年7月 7日 (日)

従業員の解雇について

(1)期間の定めのある雇用契約

豪州法上、固定期間の雇用契約(予め定めた一定の時期に雇用が終了するタイプの契約)であれば、固定期間の満了により雇用契約は終了します。この期間の定めのある従業員は、期間満了に伴い、解雇予告(Notice of Termination)や整理解雇手当(Redundancy Pay)を受ける権利はありません。ただし、期間の定めのある契約が複数回更新されることにより、期間の定めのない契約として扱われる可能性がありますので、この点は留意する必要があります。

(2)期間の定めのない雇用契約

期間の定めのない雇用契約を従業員の同意なしに雇用主が終了させる場合、①雇用契約違反に基づく解雇、及び②整理解雇(Redundancy)の2つがあります。

① 雇用契約違反に基づく解雇

雇用契約違反に基づく解雇の例として、従業員が不正行為(Misconduct)を行ったため懲戒解雇されるケースとやパフォーマンス(Poor Performance)により解雇されるケースがあります。いずれについても解雇に到るまでの手続が就業規則等において定められているのが通常ですが、一般には以下のような手順を経ることが見られます。

1.従業員に対してShow Cause Letterを出し、雇用主が従業員の不正行為・低パフォーマンスについて懸念を有していること、また、当該従業員の弁明や改善が不十分であれば、雇用主が所定の手続をとった上で当該従業員の雇用を終了させることを伝えます。

なお、上記のShow Cause Letterと並行して、雇用主は従業員に対して合意に基づいて退職をする機会を与えることも行われます。当該従業員が合意すれば以下の2以降の手続を経ずに当該従業員の雇用を終了させることができます。

2.雇用主は、当為従業員に対して不正行為・低パフォーマンスについての合理的な証拠を示し、当該従業員に弁明の機会や改善の機会を与えます。弁明や改善が不十分である場合には、雇用主は解雇(又はその他の懲戒処分)の決定を行うことになります。この手続は複数回にわたって行われることも多くあります(3ヶ月ごとに当該従業員の行為・態度・パフォーマンスをチェックし、当該従業員と改善策を協議し、それでも改善が見られない場合に解雇の決定を行うなど)。

3.雇用主は解雇の決定を行った上で、当該従業員に対して解雇の通知を行います。解雇の通知に関して、法令上、重大な不正行為(Serious Misconduct)による懲戒解雇の場合を除き(Fair Work Act 2009Cth)第123(1)(b)Fair Work Regulations 2009 (Cth)1.07条)、一定期間の事前通知(解雇予告:Notice of Termination)が要求されています(Fair Work Act 2009Cth)第117条)。この法令で定める通知期間は最低限の通知期間であり、雇用契約や労使裁定(Modern Award)、労使協約(Enterprise Agreement)においてこれよりも長い通知期間が定めてある場合には、その長い方の通知期間が適用されます。雇用契約において通知期間を定めていない場合、判例法上、従業員は雇用主からの解雇に際して「合理的な通知(Reasonable Notice)」を受ける権利があり、合理的な通知(Reasonable Notice)の期間が法令上の通知期間又は労使裁定や労使協約に定める通知期間よりも長い場合には、合理的な通知の期間に従うことになります。「合理的な通知」とは、従業員の年功、勤続年数、年齢、給与、転職の容易性等を考慮して決められます。一般に、年次の高い長期雇用された従業員の場合は、「合理的な通知」も相当長期のものが必要になる可能性があり、場合によっては6ヶ月又は12ヶ月となる可能性もあります。

雇用主は通知期間分の給料を支払うことにより(Payment in Lieu of Notice)、通知期間の終了を待たずに従業員の雇用を終了させることもできます。

② 整理解雇

整理解雇(Redundancy)は従業員が担当していた職務が雇用主にとって必要とされなくなる場合に発生します(Fair Work Act 2009Cth)第119条)。二名の従業員が担当していた職務が一名の従業員でも担当できるようになった、又は他の従業員が兼務できるようになったといった場合でも整理解雇は発生します。

整理解雇を行う場合、雇用主は当該従業員に対して整理解雇手当(Redundancy Payment)を支払う義務があります(Fair Work Act 2009Cth)第119条)。

整理解雇は雇用契約や就業規則、労使裁定(Modern Award)や労働協約(Enterprise Agreement)に定める手続にしたがって行われなければなりませんが、典型的には以下のような手順で行われます。

1.雇用主は、当該従業員の職務が不要になったことを明確に証明する論拠(ビジネスケース)を固めます。

2.整理解雇の通知を出す前に(23週間前に)、雇用主は当該従業員と協議を開始します。この協議では整理解雇の可能性について触れた上で、その他の選択肢がないかについても誠実に議論します。

3.整理解雇の通知を出す少なくとも1週間前までに、雇用主は当該従業員と最終の協議を行い、当該従業員のフィードバックを聞いた上で、他に選択肢が無ければ、当該従業員の職務がRedundantになることを知らせます。

4.雇用主が当該従業員に対して追加の補償金等を支払う場合には、雇用主は当該従業員との間でDeed of Settlementを締結して雇用終了の条件を明確に規定します。

5.当該従業員に整理解雇の通知を出して雇用終了日と当該従業員に支払われる補償金等の確認を行います。

 

【20201110日追記:雇用契約書には、「雇用者は従業員に対して、●ヶ月の事前通知を出すことによって雇用契約を終了することができる」旨が規定されているのがよく見られます。しかし、この規定は雇用を終了させる場合に必要となる事前通知の期間を定めているにすぎず、●ヶ月前の事前通知を出せば如何なる理由によっても解雇できることを定めたものではありません。雇用者が合理的な理由なしに従業員の雇用を終了させる行為は、Unfair Dismissal(不当な解雇)に該当し、豪州労働法において禁止されています(Fair Work Act 2009 (Cth)379条以下)。不当な解雇に該当しないためには、上記(2)で述べたとおり、①雇用契約違反に基づく解雇、又は②整理解雇(Redundancy)である必要があります。また、上記で述べたとおり、適切な手続を経て解雇が行われる必要があります。Unfair Dismissalの保護を受けることができる従業員は、雇用者の下で6か月以上(雇用者が小規模事業者の場合は12ヶ月以上)勤続した従業員であって、かつ、労使裁定又は労使協約が適用されず、給与金額がHigh Income Threshold20201110日時点において年間153,600豪ドル)未満である従業員になります(第382条)。しかし、豪州労働法においてUnfair Dismissalの保護を受けない従業員についても、上記のような適切な理由に基づき、適切な手続を経なければ、解雇は行わないのが通常です。理由を明確にせずに従業員を解雇した場合、豪州労働法において違法とされている理由に基づいて解雇した(たとえば、性別などによる差別や労働組合の組合員であることを理由とした解雇など)という主張が従業員からなされたり、裁判所等からそのような認定がされるリスクがあるためです(裁判実務において、従業員の解雇が違法な理由に基づくものでなかったことを立証する責任は雇用者側に課されており、雇用者が立証に失敗すると解雇が違法な理由に基づくものであったことが推定されます)。Unfair Dismissalに該当せずとも、違法な差別や労働法上の権利を行使したことを理由とする解雇その他の不利益行為は、豪州労働法において違法行為となり、禁止されています。】

雇用契約におけるJob Description(職務範囲)について

豪州の雇用契約では従業員のJob Description(当該従業員が行うべき業務)(Position Descriptionとも呼ばれます)について比較的詳細に定めてあるのが通常です。従業員の評価はこのJob Descriptionに照らして判断されます。Job Descriptionに記載されている業務を適切に実行していれば従業員は雇用契約上で求められる職務遂行義務を果たしていることになりますし、そうでなければ職務遂行義務を果たしていないとして懲戒処分の対象となりえます(最悪の場合には解雇処分を受けます)。

Job Descriptionを変更する際には、従業員の同意を得るか、又は変更が合理的かつ業務の内容を根本的に変えないものである必要があります。従業員の同意を得ずに、業務の内容を根本的に変えることになるJob Descriptionの変更を雇用主が行った場合、当該従業員を整理解雇(Redundancy)又は違法な解雇を行ったものとみなされる可能性があります。

たとえば、Job Descriptionに受付業務を担当すると記載されている従業員に対して、会計帳簿の管理業務を行わせることは業務の内容を根本的に変えるものとして認められません(整理解雇又は違法な解雇とみなされます)。他方、同じ従業員に対して、受付業務で必要になる会議室予約システムの使い方の習得を命じることはJob Descriptionに記載されている受付業務の範囲内として認められると考えられます。

日本では、従業員の業務範囲を雇用契約等で詳細に定めることは少なく、従業員は会社が命じた業務であれば何でも柔軟に対応するのが一般的となっています(たとえば、営業を担当していた者を法務に配置換えする等)。この日本の感覚で豪州で従業員に対して担当業務の変更を命じることは認められませんので注意が必要です。

雇用契約において、雇用主はビジネスの状況に応じて従業員のJob Descriptionを変更できる旨の規定が入れておくことにより、Job Descriptionの変更について従業員の事前の同意があったという主張を行うことは可能です。ただし、このような場合であっても、このような主張が認められるかについては不確実性が残るため、雇用主が従業員のJob Descriptionを一方的に変更することは極力避けるべきであり、従業員と事前に協議を行い、可能な限り従業員の同意を得るようにするべきです。

2019年7月 5日 (金)

事業譲渡時の雇用の承継

オーストラリアでは、企業買収を行う場合の主要な方法として、①株式譲渡(Transfer of Shares)と②事業譲渡(Transfer of Business)の2つがあります(日本法の合併、会社分割のような組織再編行為は存在しません)。

株式譲渡による企業買収の場合、買収対象会社の株式が売主(買収対象会社の株主)から買主に移転するだけですので、買収対象会社の従業員の雇用契約その他の権利・義務は、そのまま買収対象会社において存続することになります。

他方、事業譲渡による企業買収の場合、買収対象会社(売主)はその事業にかかる資産を買主に譲渡することになるため、買収対象会社の従業員の雇用契約その他の権利・義務についても買収対象会社から買主に譲渡させることが必要になります。

事業譲渡にあたり、買収対象会社の従業員の雇用契約その他の権利・義務を買収対象会社から買主に移転させるためには、当該従業員の同意が必要になります。買主が買収対象会社の従業員に対して、現在の雇用契約と実質的に同等の条件で、かつ全体的に見て現在の雇用契約よりも当該従業員に不利ではない条件で新しい雇用契約のオファーを行わなかった場合(where offer of employment is not made on the terms and conditions that are substantially similar to and on an overall basis no less favourable than the employee's terms and conditions of employment with his/her previous employer)、売主は当該従業員に対して整理解雇(Redundancy)を行ったとみなされます(Fair Work Act 2009 Cth)第122(3))。売主が整理解雇を行ったとみなされる場合、売主は当該従業員に対して整理解雇手当を支払う必要があります。

整理解雇手当の支払うことになるリスクを避けるために、事業譲渡契約の中において、買主が承継する予定の従業員に対して、現在の雇用契約と実質的に同等の条件で、かつ全体的に見て現在の雇用契約よりも当該従業員に不利ではない条件で新しい雇用契約のオファーを行うことを買主に義務づけることが良く見られます。また、承継しない予定の従業員については、上記のようなオファーを出さないため、整理解雇が行われたとみなされますが、この整理解雇手当の支払による負担も事業譲渡の売買価格に反映させるか否かも事業譲渡契約の中で規定されます。

また、売主(現在の雇用主)の下で発生・累積した年次有給休暇(Annual Leave - 年間20日)、病気休暇(Personal Leave - 年間10日)及び永年勤続休暇(Long Service Leave - 同一雇用主の下で10年間勤続した場合に2ヶ月間の有給が与えられるという豪州特有の休暇制度)にかかる従業員の権利や整理解雇手当(Redundancy Payment)や永年勤続休暇(Long Service Leave)の付与の計算のベースとなる従業員の勤続年数は、買主(新しい雇用主)においてそのまま引き継がれるのが原則です(Fair Work Act 2009 (Cth)22(5))。ただし、例外的に、発生・累積済の年次有給休暇、整理解雇又は不当解雇(Unfair Dismissal)にかかる従業員の権利の付与のベースとなる勤続年数については買主に引き継がれないようにすることも可能です(Fair Work Act 2009 (Cth)91条、第122(1)、第384(2)(b))。

2015年10月18日 (日)

オーストラリアの労働法

オーストラリアにおける雇用者(企業)と従業員の雇用関係が問題となった場合、雇用者(企業)と従業員の間の権利・義務を確認するためには、主として、以下の文書を確認する必要があります。

1.雇用契約(Employment Contract

2.就業規則

3.労働法令

4.労使裁定(Modern Award

5.労働協約(Enterprise Agreement

 

以下、これらの文書について、順に解説します。

1.雇用契約(Employment Contract

雇用者と従業員の間で個別に締結される雇用契約です。雇用契約の形態としては、きちんとした雇用契約書という形式になっているものもあれば、雇用者からのオファー・レターに従業員がサインするという形式のものもあります。雇用契約では雇用条件についての規定が定められますが、以下に説明する労働法令や労使裁定・労働協約等で定める最低条件に違反する条項は効力を有しません。

2.就業規則

オーストラリアでは、就業規則はPolicyと呼ばれることが多いです。就業規則は、雇用契約に組み込まれて雇用契約の内容となる場合(雇用契約書等において就業規則が雇用契約の一部となることが規定されている場合等)には、雇用者及び従業員に対して雇用契約として拘束力を有することになります。

3.労働法令

雇用関係を規律する主たる法律は、連邦法であるFair Work Act 2009 (Cth)(フェア・ワーク法)であり、オーストラリアの全州・準州で統一的に適用されています。この法律では、最低限満たさなければならない雇用条件であるNational Employment Standards (NES)が定められています。NESの内容としては、労働時間(38時間/週)、有給休暇(20/年)、従業員が柔軟な勤務形態を請求できる権利、解雇手続等があります。

また、上記のフェア・ワーク法に基づいて、政府機関であるFair Work Commissionが毎年National Minimum Wage Order(全国最低賃金命令)を出し、オーストラリア全国一律に適用される最低賃金(2015年現在の最低賃金は、17.29豪ドル/時間)を定めています。

なお、雇用関係の大部分は連邦法であるフェア・ワーク法によって規律されていますが、差別禁止、労働安全衛生等の一部の分野は州法が規律する分野であり、各州が個別に法律を定めており、州毎に内容が異なります。

4.労使裁定(Modern Award

労使裁定は、Fair Work Commissionが業界・職種毎に定める法律文書であり、フェア・ワーク法が定める最低条件(NES)に上乗せ又は追加する形で、業界・職種別の最低基準(最低賃金等)を定めています。例えば、飲食業界であればRestaurant Industry Awardが適用され、事務職であればClerks - Private Sector Awardが適用されるといった具合になます。この労使裁定は、他の国には見られないオーストラリアに特徴的なものとなっています。労使裁定のリスト及び内容は、こちらで見ることができます。

 

5.労働協約(Enterprise Agreement

労働協約は、従業員の集団(労働組合等)と雇用者(企業)の間で協議を経た上で合意によって締結されるものであり、当該雇用者(企業)に適用される最低基準を定めています。労働協約が適用される場合には、4.の労使裁定は労働協約によって置き換えられることになり、労使裁定は適用されません(労使裁定と労働協約は択一的な適用関係となります)。労働協約の内容は公表されており、こちらで検索することができます。

 

上記のとおり、オーストラリアでは、上記の1.~5.の文書を確認しなければ、雇用者(企業)と従業員の権利・義務を確認することができないことになっています。雇用契約と労働法令は確認したものの、労使裁定の確認をしておらず、権利・義務関係について誤った判断をしてしまったという事例もありますので注意が必要です。