不動産法

2021年2月28日 (日)

オーストラリアの不動産開発によく見られるストラクチャー

オーストラリアにおいて不動産開発を行う際に、「開発行為を行う主体(開発業者)」と「開発対象となる土地を保有する主体(土地所有者)」が別々になっていることがよく見られます。

開発業者が自分で開発する土地を保有しているのがシンプルですが、諸々の事情により開発業者と土地所有者が別々になることがあります。たとえば、以下の(1)~(3)のような事情が考えられます。

(1)土地所有者がCapital Gainの減免を受けられるようにするために開発業者と土地所有者を別々にする場合:以前のブログ記事を参照

(2)第三者である土地所有者が開発業者に対して土地の所有権は譲渡はしないものの土地の開発には同意する場合:土地所有者からすると単純に土地を開発業者に売却するよりも開発に関与することでより多くの利益を得ることが期待でき、また、開発業者としても土地所有者からの土地の譲渡による印紙税を節約することができます。

(3)開発業者が土地を取得した上で第三者から開発プロジェクトへの出資を募ることを想定している場合:当該第三者が土地所有者の主体の持分を取得すると当該第三者が土地所有者が保有している土地の譲渡を受けたのと同様であるとして印紙税(Landholder Duty)が発生する可能性がありますが、開発業者の主体の持分を取得しても印紙税は発生しません。

上記のように開発業者と土地所有者が別個となっている場合、開発業者と土地所有者の間では、「開発業者が土地所有者から土地を提供してもらい、当該土地において開発行為(マンションの建設など)を行う権利を与えてもらう代わりに、土地所有者に対して開発から得られた利益の一定割合を提供する」という合意がなされるのが通常です。このような合意が規定された契約書は、一般的にDevelopment Agreementなどと呼ばれます。

このDevelopment Agreementでは、基本的に開発に関する全ての業務を開発業者で行い、その費用を負担することになります。すなわち、開発業者の方で開発許可を申請して取得し、販売業者を雇って開発物件の販売行為を行い、銀行からローンを受けて、建築業者に建物を建築させるという開発に関する一連の業務を開発業者の責任で行い、その費用を負担することになります(オーストラリアにおける不動産の開発手続については以前のブログ記事を参照)。その代わりに、開発から上がる利益(販売収益からローンの元本・金利返済額、建築費用、販売費用等のプロジェクト費用を差し引いたもの)については、土地所有者に一定の金額(土地の価値相当額+一定の利息金額)を渡した後は、Development Fee(開発の報酬)として、残りは全て開発業者のものとなる(開発の利益は開発業者に落ちる)ようにするのが一般的です。又は、土地所有者に一定の金額を渡すのではなく、開発した物件の一部(例えば、当該金額に相当する価値のマンションの戸数)を分け与えるアレンジメントがなされることもあります。

土地所有者に開発の利益を与えないようにすることは土地の所有者が得た上記の金額(土地の価値相当額+一定の利息金額)がmere realisation of a capital assetとしてCapital Gainとみなされて、Capital Gainの減免を受けられるようにするためにも重要になります。この減免が受けられると土地所有者にとって非常に有利ですが、Capital Gainとみなせて減免が受けられるか否かについては、土地所有者の開発への関与の程度など様々な要素を総合的に考慮した上で判断されることになるため、税務専門家のアドバイスを受けることが必要です。

日本企業がオーストラリアの不動産開発プロジェクトに参画する場合、上記のような土地所有者と開発業者が別々になっており、日本企業は土地所有者に対しては出資せず、開発業者に対してのみ出資をすることが求められるケースが多いと考えます。このようなストラクチャーや出資方法に問題があるわけではありませんが、このような場合には、土地所有者と開発業者の間で締結されているはずのDevelopment Agreementをしっかりとレビューし、開発プロジェクトの利益が開発業者に落ちることになっていることを確認する必要があります。また、土地所有者がDevelopment Agreementを履行しない場合(Development Feeの不払いなど)に備えて、開発業者が土地所有者の保有する土地に抵当権を設定しているかも確認すべきポイントになります(金融機関からのローンを受ける場合には、金融機関の抵当権が1番抵当権となり、開発業者の抵当権は2番抵当権となります)。

2020年9月 4日 (金)

ウェビナー『オーストラリアにおける不動産投資と法的問題点』とストラクチャーに関する補足説明

1.ウェビナーについ

2020年9月2日(水)にクレイトン・ユッツ法律事務所が主催し、不動産証券化協会が後援するウェビナー『オーストラリアにおける不動産投資と法的問題点』で、オーストラリアの不動産法制度(外資規制を含む)を説明し、オーストラリアにおける不動産投資案件(不動産取得、不動産開発、不動産ファイナンス、不動産ファンド投資)の取引ストラクチャーについて解説しました。

ウェビナーの録画はこちらから視聴することができます。

また、ウェビナーの資料はこちらかダウンロードすることができます。

オーストラリアの不動産法制度や不動産投資案件に興味のある方はぜひご覧ください。

なお、ウェビナーの中で時間がなくて十分に説明できなかった「不動産投資のビークル(Special Purpose Vehicle - SPV)は信託と会社のどちらが有利か」という点、及び「物件毎に設立されたSPVを束ねるHolding SPVを使用することのメリット」について、以下補足の説明をします。

2.不動産の投資ビークル(SPV)は信託と会社のどちらが有利

結論を先に述べると、信託と会社のいずれでも、基本的には、オーストラリアで課される税金は利益の30%で同じです。

(1)SPVが会社の場合:

オーストラリアの会社に適用されるIncome Taxは税率30%であるため、不動産を保有している会社(物件保有SPV)は利益の30%をIncome Taxとしてオーストラリア税務当局に支払います。その後、残りの70%を親会社に配当します。親会社がオーストラリアの会社の場合、親会社は配当として受領した70%分の利益についてIncome Taxは課されません(物件保有SPVが支払った30%分のIncome Taxを親会社に課されるIncome Taxから控除できるためです - これをFranking Creditといいます)。すなわち、物件保有SPVと親会社の両方で同じ利益に二重に課税がされないようになっています。

親会社がオーストラリア国外の会社(たとえば日本の会社)である場合、国外の親会社に配当を行う際に、源泉徴収税(最大10%)が課されますが、この源泉徴収税からオーストラリア国内で既に物件保有SPVが支払っている30%分のIncome TaxをFranking Creditとして控除できるため源泉徴収税はゼロになります。したがって、国外の親会社は70%の利益を受領できることになります。結局、オーストラリア国内で支払われた税金は、物件保有SPVが支払った30%のIncome Taxのみとなります。

上記でダウンロードできるウェビナーの資料の22ページのストラクチャーでSPVに会社を使用した場合は、以下のような流れになります。不動産から上がった収益について物件保有SPV(会社)が30%のIncome Taxを支払う。物件保有SPVは残り70%の利益をHolding SPV(会社)に配当する。Holding SPVは配当として受領したこの70%の利益についてIncome Taxは課されない。Holding SPVはこの70%の利益をさらに日本の親会社(会社)に配当する。日本の親会社への配当の際に源泉徴収税は課されない。日本の親会社は70%の利益を受領する。

(2)SPVが信託の場合:

不動産を保有している信託(物件保有SPV)の利益は信託の会計年度末において、受益者に分配されることになり、受益者に適用される税率で税金が課されることになります。信託を複数重ねて利用している場合、利益はそのまま間の信託をパススルーしていき、最終的な受益者のところで当該受益者に適用される税率で税金が課されます。

最終的な受益者がオーストラリアの会社の場合、上記(1)で述べた通り、オーストラリアの会社に適用されるIncome Taxは30%であるため、利益の30%を税金として支払い、70%が手元に残ります。

最終的な受益者がオーストラリア国外の会社の場合、オーストラリアの国外の受益者に対して分配する際に源泉徴収税が課されます。受益者が会社である場合、この源泉徴収税の税率は30%となります。したがって、源泉徴収税として利益の30%が差し引かれ、残りの70%がオーストラリア国外の受益者に分配されます。

上記でダウンロードできるウェビナー資料の22ページのストラクチャーでSPVに信託を使用した場合、以下のような流れになります。不動産から上がった収益について物件保有SPV(信託)がパススルーでHolding SPV(信託)に分配される。Holding SPVも信託であるため、パススルーで日本の親会社(会社)に利益が分配される。ただし、Holding SPVから日本の親会社への分配の際に、源泉徴収税が課され、利益の30%が差し引かれることになる。日本の親会社は70%の利益を受領する。

上記(1)と(2)のとおり、SPVが会社であっても信託であってもオーストラリアで支払う税金は利益の30%となります。

しかし、これは原則であって様々な修正が必要になります。

たとえば、オーストラリアの会社に適用されるIncome Taxは、会社の年間売上が$50百万豪ドル未満であれば、30%ではなく27.5%となります。したがって、SPVに会社を使用した場合、オーストラリアで支払う税金を2.5%だけ減らすことができます。

また、オーストラリアから国外の受益者に対して支払う信託の分配に課される源泉徴収税は、受益者が会社であれば30%ですが、個人(自然人)であれば最大45%となります。したがって、国外の最終受益者が個人である場合に、SPVに信託を利用すると、オーストラリアで支払う税金が45%にもなってしまい、SPVに会社を使用する場合に比べて大幅に不利になります。

さらに、信託を利用する場合で、その信託がManaged Investment Trust(MIT)(ウェビナーの資料の25ページの解説またはこちらのページを参照)に該当すると、国外の受益者に対して支払う信託の分配に課される源泉徴収税は(受益者が個人であっても会社であっても)15%又は10%に減額されます。これはSPVに信託を利用することの大きなメリットです。オーストラリアの不動産ファンドのビークルがほぼ全て信託(Unit Trust)である理由は、このMITの制度があるためです。MITの不動産ファンドに投資する場合、国内の受益者(投資家)が30%の税金を払うのに対して、国外の受益者(投資家)は15%の税金しか払わないため、国外の投資家の方が国内の投資家よりも優遇されているとオーストラリア国内で批判されるくらい有利な優遇措置となっています。さらに、MITの配当について、国外の受益者はオーストラリアで税務申告をする必要はありません。

オフィスビルを開発する際に、海外から投資家を募ってファンド化する可能性も視野に入れて、将来MITが利用できるように、初めから信託(Unit Trust)をビークルにしておくこともあります。他方で、マンションや宅地を開発して個々の顧客に売り切ってしまう場合、将来MITを利用する可能性はないため、ビークルを会社にするということもあります。

3.物件毎に設立されたSPVを束ねるHolding SPVを使用することのメリット

Holding SPVについては、上記のウェビナー資料の22ページと23ページを参照。

メリット①:Holding SPVとその下にある複数の物件保有SPVを連結化して、物件毎の損益を通算することができるようになります。

メリット②:Holding SPVを会社にすることにより、オーストラリアの事業を統括するEntityとすることができます。このHolding SPVの下に不動産と関係ない事業を行うオーストラリアの子会社をぶら下げても良いですし、そこで上がった収益を国境を跨いで日本まで送金せずにHolding SPVの下で留めておき、さらにオーストラリア国内での再投資に回すこともできます。

2020年1月13日 (月)

オーストラリアにおける不動産開発

オーストラリアにおいては多くの日本企業が不動産(居住用不動産、商業用不動産)の開発案件に参画しています。今回はこの不動産開発の手続について説明します。

(1)不動産開発手続

不動産開発の手続の大まかな流れは、「土地の取得」⇒「開発許可の取得」⇒「販売・賃貸の開始」⇒「建築確認の取得」⇒「検査済証の取得(及び区分所有登記の完了)」⇒「決済(引渡し)・利用開始」となります。

以下、各ステップの内容について説明します。

(2)土地の取得

不動産開発を行う者は、開発用のSPV(会社又はunit trust)を設立し、当該SPVをして第三者から土地を購入して取得します。不動産開発者が外国人(foreign person)である場合には、土地の購入に際してFIRBの許可が必要になる場合があります(以前の記事を参照)。

(3)開発許可の取得

建物を建築する際には建築する建物の高さ、デザイン、戸数、容積率、総床面積、建蔽率等の具体的な条件について開発許可(development approval)を取得する必要があります。開発許可を出す政府機関は、原則としてLocal City Council(市政府)ですが、重大な開発案件であれば州政府になります。政府機関は開発許可の申請書類を都市計画規制(planning regulations)に照らしてレビューし、申請内容が規制(用途、高さ、容積率の制限など)に合致しているのであれば開発許可を出します。開発許可には様々な条件が付されるのが通常です。開発許可の申請書類を出す前に申請者は政府機関と事前に協議をするのが通常です。また、開発許可がなされる前に申請内容は一般に公表されて、一般の人が申請内容について意見を提出できます。こういった申請前の事前協議や公表・意見徴収の期間も含めると開発許可の取得手続には13年かかるのが通常です。

なお、開発に際して土地の用途を変更する(例えば工業用地を住宅用地に変更する)場合、政府機関に対して都市計画規制そのものの変更を要求しなければなりません。この用途変更の手続(都市計画規制の変更手続)を行う場合、開発許可の取得には上記よりもさらに時間がかかることになります。

(4)販売・賃貸の開始

開発許可が取得できると、どのような建物のデザイン、総面積、戸数などが確定できるため、開発業者は住居用不動産(マンションやタウンハウスなど)であれば顧客への販売を開始し(pre-sale)、商業用不動産(リテール、オフィスなど)であればテナントの募集を開始するのが通常です(pre-lease)。建物の建築の際には外部の金融機関からファイナンスを受けるのが通常ですが、金融機関は一定以上の戸数が販売又は賃貸できたことをローン実行のCP(前提条件)とするため、販売・賃貸が上手くいかないとファイナンスが受けられずに建物の建築が進められないことになります。

(5)建築確認の取得

開発許可は都市開発規制(planning regulations)の観点から開発の適法性を判断するものですが、建築確認(construction permit)は建物建築規制の観点からの建築の適法性を判断するものです。建物の構造や建材が建物建築規制(Building Code of Australia)に適合しているか否かを判断するとともに、開発許可の内容にも合致しているかも判断されます。開発業者は建築確認を得なければ、建物の建築を開始することはできません。建築確認は政府機関(市政府)又はbuilding certifierと呼ばれる民間の有資格者が与えることができます。建築確認の取得には申請から4~6週間程度かかるのが通常です。

(6)検査済証の取得

建物の建築が完了した場合、政府機関(市政府)又はbuilding certifierから検査済証(occupation certificate)を取得します。これは実際に建築された建物が建物建築規制(Building Code of Australia)や開発許可に適合していることを確認し、人が居住・利用できる状態になっていることを示すものです。検査済証が取得されていなければ建物に居住したり、利用することはできません。

(7)区分所有登記の完了

建築した建物が区分所有建物(strata scheme)である場合、区分所有図面(starata plan)を作成し、これを登記機関において登記する必要があります。この区分所有図面の登記によって不動産は区分所有物件となり、不動産にかかる区分所有権が発生します。オーストラリアの区分所有法については、以前の記事を参照ください。

(8)決済(引渡し)・利用開始

検査済証を取得し、区分所有登記が完了してはじめて建物を購入者や利用者(賃借人)に引き渡すことが可能になります。

 

以上がオーストラリアにおける不動産開発の流れになります。都市開発規制に基づく開発許可を得て、その後で建物建築規制に基づく建築確認を得て、建物建築後に検査済証を取得して区分所有登記を行うという大きな手続の流れは日本と同様であると思います。

2019年12月 3日 (火)

商業用不動産の賃貸借契約(Commercial Lease)について

オーストラリアの不動産は、大きくいって居住用不動産(Residential Property)と商業用不動産(オフィスや店舗)(Commercial Property)の2つに区分することができます。今回は後者の商業用不動産の賃貸借契約(Commercial Lease)について説明します。

(1)賃貸借契約のフォーマット

Real Estate Institute of NSWなどの業界団体が商業用不動産の賃貸借契約のフォーマットを作成していますが、一般的にはあまり使用されていません。オーストラリアでは、商業用不動産の賃貸借契約は、小規模な物件であっても弁護士が作成することが多く、各弁護士の保有している賃貸借契約のフォーマットが使用されるのが一般的です。

(2)賃貸借期間

オーストラリアでは、期限を定めた賃貸借契約が一般的であり、期限が到来すれば賃貸借は終了します(日本でいう定期借家契約と同じです)。日本の借地借家法のように居住用不動産の場合には正当の事由がなければ賃貸借期間が終了した後も賃貸借を終了させることはできないという規制は存在しません。小規模物件の賃貸借契約であれば賃貸借期間は35年、あまり頻繁な移動はしない大企業の本社として使用するオフィスやスーパーマーケットの賃貸借契約などであれば賃貸借期間は1020年として、賃借人に12回の同期間分の延長オプションが与えられていることが多いと考えます。

(3)賃料

賃料は年額で定められ、支払いは翌月分を先払いする形で行われることが通常です。賃料は1年に一度、消費者物価指数(CPI)に連動して、又は予め賃貸借契約書に定めた一定の割合(例えば3%)で増加すると定められているのが一般的です。これに加えて、何年かに一度(例えば5年に一度)、Market Reviewといってその時点でのマーケットの賃料金額(両者で合意できなければ第三者の鑑定人が算出する)に合わせる賃料改定がなされることが規定されるのが一般的です(但し、賃料を減額する方向での改定はなされないのが通常です)。

(4)敷金

敷金は、日本と同じで、賃借人の賃貸借契約違反(賃料不払い、物件の毀損など)によって賃貸人に発生した損害に充当するための担保の役割を果たします。商業用不動産の場合、敷金は賃料の3ヶ月分~12ヶ月分と様々ですが、6ヶ月分とすることが多いように思われます。賃貸人は現金で支払うこともありますが、賃貸人に銀行が発行する支払保証書(bank guarantee)を差し入れる方法で対応することが多いと考えます。また、これに加えて親会社の保証が求められることもあります。なお、オーストラリアでは、礼金に相当するものは存在しません。また、賃貸借契約を更新する際に、賃貸人が更新料を徴収する習慣もありません。

(5)各種費用(Outgoings

物件にかかる各種費用(Outgoings)、具体的にはCouncil Rates:市町村政府が提供する地域のインフラやサービス(道路、下水、ごみ収集、公園・図書館等の公共施設等)をまかなうために不動産所有者に対して課されるもの)、土地所有税(Land Tax)、建物・施設の管理・清掃費用、建物にかかる保険の掛金等については、賃貸借契約において賃貸人が賃借人にBack to Backで全額負担させることが良く見られます(このような賃貸借はTriple Net Leaseと呼ばれます)。各種費用については、毎月又は四半期毎に支払われますが、賃借人は賃貸人が対象期間に発生する各種費用の見積金額を前払いし、毎年1回実際に発生した各種費用との差額を調整します。また、当然ながら賃借人が使用した電気・水道・ガスの料金は賃借人自身が負担します。

(6)使用目的

賃貸借契約には物件の使用目的が規定されており、賃借人は、賃貸人の同意を得ることなしに、規定された使用目的以外の目的で物件を使用することは許されません。

(7)転貸又は賃借権の譲渡

物件の転貸借又は賃借権の譲渡は、賃貸人の同意なく行ってはならないと規定されているのが一般的です。また、賃借人のChange of Control(支配権の変更、すなわち親会社の変更など)についても賃貸人の同意事項とされていることが多いため、M&ADDでは賃貸借契約のChange of Control条項は重要なイシューになります。なお、物件に抵当権が設定されている場合、賃貸借契約において賃貸人の同意が必要になるとされている事項については、抵当権者の同意も必要となるとされていることが多くなっています(抵当権者は銀行であることが多いため、その場合には抵当権者の同意の取得には時間がかかる傾向にあります)。

(8)賃貸借契約の解除

一定の期間を予め定めた賃料で借りるということになるため、賃貸借契約書において特段の定めがない限り、賃貸借期間中に賃借人から通知をして解除できる権利はありません。また、日本の借地借家法に相当するものは存在しないため、賃貸借期間を超えても正当な事由がなければ賃借人がそのまま賃貸借を継続できるという権利もありません。賃借人が賃貸借期間中に解除する場合、賃貸借契約において別段の定めのない限り、賃借人は残りの賃貸借期間について、次の賃借人が見つかるまでの間の賃料を損害賠償金として支払わなければなりません。賃貸借期間中に賃借人から賃貸借を解除する場合には、賃貸人と合意の上で、賃借人が追加で数ヶ月分の賃料を支払うことで残りの賃貸借期間の賃料の支払いの免除を受けるようにするのが通常です。

(9)原状回復義務

賃貸借の終了時において、賃借人は物件を賃貸借開始時点の状態に戻して(但し、通常の使用による損耗を除く)賃貸人に返却する必要があります。賃貸借開始時点の物件の状態を確認するために、賃貸借開始時点において賃貸人と賃借人の代表者が物件の状態を確認し、写真を撮り、設備・備品のリストを作成するなどして、Condition Reportを作成し、賃貸人と賃借人の代表者がそれぞれ署名することが行われています。賃貸借の終了時点における原状回復はこのCondition Reportをベースに行われます。

(10)インセンティブ

オーストラリアでは、賃借人に入居してもらうために賃貸人がインセンティブを提供することが良く見られます。インセンティブとして一般的なものは、一定の期間の賃料免除(Free-Rent)、賃借人のFit-Out(内装)の費用の一部負担などがあります。一般的に商業物件の価値は賃料(Net Operating Incomeなど)をベースに算定されることが多いため、賃貸人は賃料を下げることは好みません。その代わりに賃料免除やFit-Out費用の一部負担などをインセンティブとして提案することが多いといえます。なお、物件を売却する場合、賃貸人が賃借人に提供している賃料免除やFit-Out費用の一部負担は売主側(現所有者)の負担とし、買主側が負担しないように取り決めるのが一般的です。

(11)賃貸借の登記

物件を占有している賃借人の賃借権は、賃貸借の期間が一定の期間(首都特別地域、ニューサウスウェールズ州、クイーンズランド州、北部準州、タスマニア州では3 年間、南オーストラリア州では1 年間、西オーストラリア州では5 年間)を超える場合、賃借権を登記しなければ、賃借権の設定後に登記された権利を有する者に対して対抗できません。例えば、一定の期間を超える賃借権設定後に物件が譲渡されて新たな所有者が所有権登記をした場合、賃借人は賃借権を新たな所有者に対抗することができなくなります。上記の賃借権の期間の計算には、オプション行使によって延長できる賃貸借期間も含まれます。なお、ヴィクトリア州では期間にかかわらず物件を占有している賃借人の賃貸借は登記されなくとも対抗できます。

(12)FIRBの承認

賃借人がForeign Acquisitions and Takeovers Act 1975 (Cth)(外資買収法)に定める「外国人(foreign person)である場合、賃貸借期間が5年(オプションによって延長される期間を含む)を超える賃借権を取得し、当該賃借権の対価が基準値を超過していれば、FIRBの承認が必要になります(以前のFIRBに関する記事の2(1)(C)と2(2)(B)を参照)。賃借権の対価は、賃貸借契約締結時に支払われるup-front initial payment(もしあれば)、賃貸借期間に支払われる賃料の合計金額、延長時に支払われる金額(もしあれば)の合計金額になります(FIRB Guidance Note 33参照)。

(13)小売店舗の保護

上記のとおり、日本の借地借家法のような賃借人を一般的に保護する法制度は存在しませんが、家主と比べて立場の弱い小規模の小売店舗テナントを保護する法律が各州で制定されています(Retail Leases Act 1994 (NSW)など)。これらの法律の定める保護の内容は州毎に異なっており、様々な保護が規定されているため(賃貸借開始までに賃貸人は賃借人に対して賃貸借契約に関する開示書類を手渡さなければならないなど)、小売店舗の賃貸借契約を締結する際にはこれらの小売店舗テナントを保護する法律に違反しないように確認することが必要です。各州の小売店舗テナント保護法制度を比較した資料がClayton Utzから出されていますので参照ください。

2019年7月22日 (月)

FIRB承認について注意すべき点

1.FIRB承認の対象となる取得行為

【この項目の最後に201981日にFIRBへの照会結果を追記しています】

外国人がオーストラリアで事業を営む会社の株式やオーストラリアの事業に関する資産を取得(Acquire)する行為は、一定の条件を満たす場合、FIRBへの通知やFIRBの承認が必要になる「通知行為(Notifiable Action)」や「重大行為(Significant Action)」に該当します。

たとえば、以前の記事の「2.(1)(A)」の箇所でも述べたとおり、①外国人がオーストラリアで事業を営む会社の株式を取得し、②当該会社の総資産の価値又は当該株式の取得対価のいずれか高い方が基準値を超過しており、かつ③当該会社について外国人が単独で20%以上の権益を有することは、「重大行為」に該当します。

気をつけなければならないのは、この「取得(Acquire)」の定義には、「当該割合の持分を保有し始めることstarts to hold an interest of that percentage in the entity)」が含まれていることです(Foreign Acquisition and Takeovers Act 1975 (Cth)20条)。

たとえば、上記の①と②の要件が満たされていたものの、外国人が単独で取得する対象会社の株式が20%未満であったため、③の要件を満たさなかった場合、「重大行為」には該当しません。その後に、他の株主が株式の償還(redemption)等を行って他の株主の持株割合が減少し、当該外国人の持株割合が上昇して20%を越えることになった場合には、新たな「取得(Acquire)」があったとみなされて「重大行為」に該当することになります(したがって、FIRBの承認を取得することが必要になります)。

また、こちらの記事の「3.例外(Exemptions)」で述べたとおり、外国人が豪州の不動産に投資する不動産ファンド(上場・未上場)に対して一定割合(上場ファンドの場合は10%、未上場ファンドの場合は5%)以下の出資を行う場合には、FIRBの承認は必要になりません。しかし、当該ファンドが投資家からの持分の償還(redemption)に応じたこと等によって、外国人の持分割合が上記の割合を超過してしまう場合、このExemptionが適用されなくなってしまうため、注意が必要です。

201981日追記:外国人による投資後に、当該外国人の行為によらずして、当該外国人の持分割合が基準割合を超えることになった場合、上記の解釈のとおり新たな「取得」があったことになるかについて、FIRBに確認をとりました。FIRBからの回答によれば、「取得(Acquire)」の通常の意味には、取得者の何らかの行為(action)を伴うことが含まれており、「通知行為(Notifiable Action)」や「重大行為(Significant Action)」という言葉からしても何らかの行為(action)がとられることを想定していると解釈できるとのことです。この解釈は、Foreign Acquisition and Takeovers Act 1975 (Cth)の第81(1)でも「A foreign person who proposes to take a notifiable action must give a notice to the Treasurer before taking the action」と規定されており、「take」という動詞が使用されていることや、第16(1)の「propose to acquire an interest…」の定義でも「'make’an offer to acquire an interest」、「'make' or 'publish' a statement that invites a holder of a relevant interest to dispose of an interest」、「'take' part in negotiations with a view to acquiring an interest」というように積極的な行為を意味する動詞が使用されていることからも裏付けられるとのことでした。このFIRBの解釈によれば、外国人の行為によらずして当該外国人の持分割合が基準割合を超えることになった場合には、「通知行為」や「重大行為」があったことにはならず、FIRBへの通知やFIRBの承認は必要にならないといえそうです。ただ、FIRBからは、FIRBの回答はリーガルアドバイスではないため依拠することはできず、FIRBへ通知するか否かは弁護士にアドバイスを仰ぐべきであり、FIRBへの通知が必要か否か不明確な場合には保守的に考えてFIRBへの通知を出すことをお薦めするというコメントも受けています。】

2.FIRB承認の必要性の判断基準時

FIRB承認の必要性は、外国人による取得(Acquire)の時点で判断されます。

たとえば、以前の記事の「2.(1)(C)」の箇所も述べたとおり、①外国人がオーストラリアの土地に対する権益を取得し、かつ②当該土地に対する権益の取得が基準値を超過している場合には、「重大行為」に該当し、FIRBの承認を取得することが必要になります。この基準値は土地の権益の種類によって異なっており、「居住用地」や「更地の商業用地」は基準値がゼロであり、これらの権益を取得する場合には、「重大行為」に該当し、FIRBの承認を取得することが必要になります。

外国人が商業ビル(開発済の商業用地)を取得し、将来的にはその商業ビルを取り壊して更地にし、その上で居住用マンションを建設しようと考えていたとします。この場合、当該土地の性質は、「開発済の商業用地」⇒「更地の商業用地」⇒「居住用地」の順で変化していくことになります。しかし、外国人が取得する時点では当該土地は「開発済の商業用地」であるため、当該土地に対する権益の価値が基準値(取得する外国人が日本人又は日本企業の場合には1,154百万豪ドル)を超過していなければ、「重大行為」に該当せず、FIRBの承認は必要ないことになります。

2019年5月24日 (金)

外国人によるオーストラリアの不動産の取得及び保有に関する上乗せ課税

オーストラリアで不動産を取得し、保有する場合には土地譲渡税と土地所有税がそれぞれかかるのですが、これらの税金において外国人には上乗せ課税が課されています。以下、上乗せ課税の内容について説明します。

 

(1)土地譲渡税(transfer duty

オーストラリアでは、土地の所有権を取得する際には、取得者に対して土地譲渡税(transfer duty)と呼ばれる印紙税(州の税金)が課されます。この土地譲渡税を支払わなければ、登記機関は登記申請書類を受け付けないため、土地の所有権移転の登記をすることができなくなっています。印紙税は、取引価格(消費税相当額を含む)又は市場価格(消費税相当額を含む)のいずれか高い方が課税基準額となり、その税率は累進課税で、どの州でも最大で5%程度となっています。

 

(2)土地所有税(land tax

土地所有税(land tax)は、州政府が管轄する州内の土地を保有している者に対して課す税金であり、当該州において保有している土地の価値(州政府が評価する価値)の合計金額を課税基準額として毎年課税されます。土地所有税の税率は、州毎に大きく異なりますが、基本的に累進課税で、最大で2%程度となっています。なお、唯一北部準州(Northern Territory)では、土地所有税は課されません。

 

(3)外国人に対する上乗せ課税

現在は豪州の住宅価格は下がってきていますが、2017年くらいまで豪州では住宅価格が高騰しており、その価格高騰の原因として外国人による住宅購入が槍玉に挙げられていました。そこで、外国人による住宅購入を抑制し、豪州人が住宅を取得しやすくするために、2015年以降、ほとんどの州において、外国人が居住用物件(residential property)を取得・保有することに対して、土地譲渡税・土地所有税の上乗せ課税が導入されています。

 

 

土地譲渡税

土地所有税

対象者・対象行為

上乗せ税率

対象者・対象行為

上乗せ税率

ニューサウスウェールズ州

外資買収法上の「外国人」が居住用不動産を取得する場合

8%

外資買収法上の「外国人」が居住用不動産を保有する場合

2%

ヴィクトリア州

外国の自然人、会社又は信託もしくはこれらに過半数を保有されている会社又は信託が居住用不動産を取得する場合

7%

外国の自然人、会社又は信託もしくはこれらに過半数を保有されている会社又は信託が不動産を保有する場合

1.5%

クィーンズランド州

外国の自然人、会社又は信託もしくはこれらに過半数を保有されている会社又は信託が居住用不動産を取得する場合

7%

豪州に居住していない自然人が不動産を保有する場合

1.5%

西オーストラリア州

外国の自然人、会社又は信託もしくはこれらに過半数を保有されている会社又は信託が居住用不動産を取得する場合

7%

なし

 

南オーストラリア州

外国の自然人、会社又は信託もしくはこれらに過半数を保有されている会社又は信託が居住用不動産を取得する場合

7%

なし

 

オーストラリア首都特別地区

なし

 

外国の自然人、会社又は信託もしくはこれらに過半数を保有されている会社又は信託が居住用不動産を取得する場合

0.75%

 

但し、外国のディベロッパーが住宅開発・供給のためにオーストラリアの不動産を取得する場合等、州の利益となる不動産取得については、例外的に、不動産を取得する外国のディベロッパーは州政府に対して申請を行うことにより、州政府の裁量によって土地譲渡税や土地保有税の上乗せ課税の免除を受けることができるようになっています。

 

(4)コメント

土地譲渡税の上乗せ課税は7%が多いですが、100万豪ドルの不動産を買った場合には、7万豪ドルも余計に土地譲渡税を支払うことになり、大きなコストとなります。

これらの土地譲渡税の上乗せ課税は居住用不動産の取得に適用されるため、外国人がオーストラリアの不動産を購入するのであれば、居住用不動産(一戸建、マンションなど)ではなく、商業用不動産(オフィス、店舗、ホテルなど)を取得する方が土地譲渡税の上乗せ課税を課されないため有利です。

外国人でオーストラリアの居住用不動産を購入したいのであれば、不動産譲渡税の上乗せ課税がまだ導入されていないオーストラリア首都特別地区(キャンベラ)がよいかもしれません。

なお、外国人が居住用不動産を取得する場合には、FIRBの規制により、原則として新築しか購入できなくなっています(以前の記事をご参照)。

外国人が商業用不動産(更地は除く)を取得する場合、かなり大きな金額のものでなければ、FIRBの承認は必要にならず、新築と中古のいずれでも購入できるため、FIRBの規制の観点からみても商業用不動産を取得することは居住用不動産を購入する場合に比べて有利になっています。

商業用不動産を購入すると高額ではないかと思われるかもしれませんが、商業用不動産の中にはCBDのオフィスビルの一区画(区分所有)や少し郊外にある一棟ものの店舗など居住用不動産とあまり価格が変わらないような物件もあります。

オーストラリアの商業用不動産で売りに出ている物件、価格等は、インターネット上(たとえば、www.realcommercial.com.au)でも見ることができます。 

2019年5月23日 (木)

外資規制:不動産を保有する会社の株式又はユニット・トラストのユニットを取得する場合

以前の記事(「オーストラリアの外資規制」)で外国人がオーストラリアの土地に対する権益を取得する際に適用される外資規制について説明をしました。ただ、この説明は簡略化しており、オーストラリアの土地を保有する会社の株式又はユニット・トラストのユニットを取得する場合については明確には説明していません。

そこで、今回はオーストラリアの土地を保有する会社の株式又はユニット・トラストのユニットを取得する際に適用される外資規制について詳細に説明します。

 

1.土地保有主体(land entities

まずは外資規制の対象となる土地保有主体の種類について説明します。

農業用地会社(agricultural land corporation豪州の農業用地に関する権利の価値が全資産価値の50%超を占める会社

農業用地信託(agricultural land trust豪州の農業用地に関する権利の価値が信託財産の価値の50%超を占めるユニット・トラスト

豪州土地会社(Australian land corporation豪州の土地に関する権利の価値が全資産価値の50%超を占める会社

豪州土地信託(Australian land trust豪州の土地に関する権利の価値が信託財産の価値の50%超を占めるユニット・トラスト

 

2.基準値(threshold

(詳細はForeign Acquisitions and Takeovers Act 1975 (Cth)(外資買収法)第52条及びForeign Acquisitions and Takeovers Regulations 2015 (Cth)(外資買収規制)第52条を参照)

 

(1)「農業用地会社」又は「農業用地信託」

「外国人」が「農業用地会社」の株式又は「農業用地信託」のユニットを取得し、当該株式又は当該ユニットの取得対価と当該外国人が取得済の農業用地に関する既存の権益の価値の合計金額が15百万豪ドルを超過する場合には、外資買収法における「重大行為」及び「通知行為」に該当します。外国人、重大行為と通知行為の意味については以前の記事をご参照ください。

例えば、農業用地会社又は農業用地信託が保有する全資産の価値が50百万豪ドルであり、外国人が当該農業用地会社の株式又は農業用地信託のユニットの20%を取得する場合、その取得対価は10百万豪ドルとなり、当該外国人がその他に農業用地に関する権益を有していないのであれば、15百万豪ドルの基準値を下回るため、FIRBの承認は必要になりません。

 

(2)基準値ゼロの場合

外国人が豪州土地会社(農業用地会社を除く)の株式又は豪州土地信託(農業用地信託を除く)のユニットを取得する場合において、当該豪州土地会社又は当該豪州土地信託が保有する「居住用地」及び「更地の商業用地」の合計価値が当該豪州土地会社又は豪州土地信託が保有する全資産の10%以上であるときは、適用される基準値はゼロであり、外資買収法における「重大行為」及び「通知行為」に該当します。

 

(3)その他の場合

A. 外国人が「agreement country investor」である場合

外国人が「agreement country investor」であり、当該外国人が豪州土地会社の株式又は豪州土地信託のユニットを取得し、かつ上記(1)又は(2)のいずれにも該当しない場合には、基準値は1,094百万豪ドルであり、当該株式又はユニットの取得対価が同金額を超過する場合には、外資買収法における「重大行為」及び「通知行為」に該当します。

※ agreement country investorとは、アメリカ、ニュージーランド、チリ、日本、韓国、中国、シンガポール等の会社又は個人をいいます(但し、「外国政府投資家」は除外されます - 外国政府投資家の意味については、以前の記事をご参照ください)(外資買収規制第5条)。なお、オーストラリアで設立された会社はagreement country investorとならないため、日本の会社の100%子会社であるオーストラリア子会社を通じてオーストラリアの権益を取得する場合には、当該子会社はagreemnt country investorには該当せず、より高い基準値が適用されることになるため、注意が必要です。日本の会社のオーストラリア子会社は外資買収法上の「外国人」に該当します。

 

B. 外国人が「agreement country investor」ではなく、対象土地が「sensitive land」である場合

外国人がagreement country investorではなく(たとえば、日本の会社のオーストラリア子会社であるなど)、当該外国人が豪州土地会社の株式又は豪州土地信託のユニットを取得し、上記(1)又は(2)のいずれにも該当せず、かつ当該豪州土地会社又は豪州土地信託が保有する土地が「sensitive land」に該当する場合には、基準値は55百万豪ドルであり、当該株式又はユニットの取得対価が同金額を超過する場合には、外資買収法における「重大行為」及び「通知行為」に該当します。

※ sensitive landとは、更地ではない「商業用地」であり、かつ豪州の政府機関に賃貸されていたり、sensitive business(メディア、通信、運輸等)や大量データの保存のために使用されていたり、公共のインフラ(地下鉄の駅など)が含まれているものをいいいます(外資買収規制第52(6))。

 

C. その他の場合

外国人が豪州土地会社の株式又は豪州土地信託のユニットを取得し、上記の(1)、(2)又は(3)AもしくはBのいずれにも該当しない場合、基準値は252百万豪ドルであり、当該株式又はユニットの取得対価が同金額を超過する場合には、外資買収法における「重大行為」及び「通知行為」に該当します。

 

なお、上記の基準値は毎年11日に更新されることになっており、20195月現在における金額は上記で記載したものよりも若干高くなっています。最新の基準値について、こちらのFIRBのウェブサイトをご確認ください。

 

3.例外(Exemptions

外資買収法及び外資買収規制には様々な例外が定められており、上記1.及び2.においてFIRBの承認が必要になる「重大行為」及び「通知行為」に該当することになった場合であっても、それらの例外に該当する場合には、FIRBの承認は必要になりません。その例外の一つとして、不動産ファンドに対して一定割合以下の出資を行う場合があります。

不動産ファンドは、通常は「豪州土地会社」や「豪州土地信託」に該当するといえますが、以下の場合には外国人が不動産ファンドの持分を取得してもFIRBの承認は必要になりません(外資買収規制37条)。

 

(1)上場している不動産ファンド

以下の3つの条件を満たしている場合には、FIRBの承認は必要になりません。

A. 不動産ファンドが上場しているファンドであること(豪州国内で上場しているか否かを問わない)

B. 取得する当該ファンドの持分が10%未満であること

C. 当該取得する外国人が当該ファンドの経営や支配に影響を与えたり、参加したりする立場には無く、かつ当該ファンドの方針に影響、参加又は決定する立場にも無いこと

 

(2)非上場の不動産ファンド

以下の4つの条件を満たしている場合には、FIRBの承認は必要になりません。

A. 不動産ファンドが上場していないこと(豪州国内の上場か否かを問わない)

B. 取得する当該ファンドの持分が5%未満であること

C.  当該取得する外国人が当該ファンドの経営や支配に影響を与えたり、参加したりする立場には無く、かつ当該ファンドの方針に影響、参加又は決定する立場にも無いこと

D. 当該ファンドが既存の住居(established dwellings)に直接又は間接に投資する事業を行っていないこと(※ 商業物件に投資するファンドであればこの要件は満たされます)

 

上記の例外は外国投資家がオーストラリアの不動産ファンドに投資する際に非常に重要な例外となっています。

2017年10月 4日 (水)

論文:『豪州の不動産法制度と日本からの投資』(不動産証券化ジャーナル第39号)

ブログの更新をしばらくご無沙汰していましたが、不動産証券化協会が発行している「不動産証券化ジャーナル」の第39号(2017年10月1日発行)に『豪州の不動産法制度と日本からの投資』という論文を掲載させていただきました。

この論文はオーストラリアの不動産の法制度を全体的に詳しく説明する内容となっています。
以下のウェブサイトで無料で見ることができますので、是非ご覧ください。
https://www.ares.or.jp/publication/pdf/ARES39Webp16-31.pdf 

2017年1月23日 (月)

オーストラリアの不動産の購入時の調査

オーストラリアにおいて不動産を購入する際に弁護士に依頼して行なうことができる調査の項目について、以下にまとめました。以下はクイーンズランド州の20151月時点のものになりますが、他の州もこれと似たようなものと考えていただいて構いません。なお、時間・費用については必ずしも正確な数字ではない可能性があり、大体の目安として理解いただければと思います。また、以下の調査項目は主要なものはカバーしていますが、必ずしも全ての調査項目をカバーしているわけではありません。                                                                    

 

調査項目

 
 

内容

 
 

時間・費用

 
 

Title Search(登記権利の調査)

 
 

日本の不動産登記簿の調査に該当します。売主が所有権者として登記されているか、抵当権等の担保権が登記されていないか等を確認します。

 
 

時間:即時(オンライン取得)

費用:21.95豪ドル

 
 

Registered Plan(登記図面の調査)

 
 

土地の形状及び位置関係を表す図面です。日本の公図に相当します。

 
 

時間:即時(オンライン取得)

費用:21.95豪ドル
 
 

Mining Tenure Research(鉱業権に関する調査)

 
 

土地にMining Tenure(鉱業権)が設定されていないかを確認します。農村部の農場等を購入する際には重要になります。

 
 

時間:

費用:106.50豪ドル

 
 

Environmental Management RegisterContaminated Land Register(環境管理登記簿/汚染土地登記簿の調査)

 
 

不動産が汚染された土地、環境上のリスクのある土地として登記されていないかを確認します。

 
 

時間:10営業日程度

費用:55.50豪ドル

 
 

Land Tax Search(土地税の調査)

 
 

Land Tax(土地税:不動産を保有していることに対して課される税金)を売主が支払っているかどうかを確認します。

 
 

時間:23営業日

費用:43.60豪ドル

 
 

Rates Search(土地料金の調査)

 
 

Rates(土地に対する政府の公共サービス等の費用として課される料金)を売主が支払っているかどうかを確認します。

 
 

時間:12営業日

費用:167豪ドル

 
 

Transport and Main Roads Property Search(交通インフラのための収用計画の調査)

 
 

不動産が交通インフラ(道路、鉄道、空港等)のプロジェクトにおける収用対象となっていないかを確認します。

 
 

時間:2営業日程度

費用:35.20豪ドル

 
 

Town Planning Search(都市計画の調査)

 
 

土地の用途やその土地に適用される都市計画等を調査することができます。どのような種類の建物(商業施設、工業施設、低層住宅、高層集合住宅等)を建築できるかを規定するものであり、開発目的で不動産を購入するを行なう際には非常に重要になります。

 
 

時間:10営業日程度

費用:124豪ドル

※ 上記は限定された範囲の調査であり、より広範で詳細な調査をする場合には、より多くの時間と費用がかかります。

 
 

Sewerage and Drainage Plans(下水・排水配置図の調査)

 
 

下水管・排水管の配置図を確認することができます。下水管・排水管が配置されている箇所には建築等が行なえない可能性があります。

 
 

時間:10営業日程度

取得:40豪ドル

 
 

Energex/Ergon Search(電力供給に関する調査)

 
 

EnergexErgonといった電力会社に対して土地に電気が供給されているか、土地の地下に電力会社の設備等が存在するか等について確認します。

 
 

Energex -

時間:10営業日

費用:56.50豪ドル

Ergon -

時間:14営業日

費用:36.50豪ドル

 
 

Telco Search(ネットワークケーブルに関する調査)

 
 

土地にネットワークケーブル(電話線、光ファイバー等)が引かれているか、その他ネットワークケーブルに関する情報を確認することができます

 
 

時間:37営業日

費用:98.50豪ドル

 
 

Powerlink Search(パワーリンクに関する調査)

 
 

送電施設等の有無、設置予定等について確認することができます。

 
 

時間:23営業日

費用:42.50豪ドル

 
 

Property Notices Search(建物に関する通知の調査)

 
 

建物の違法建築等の問題点に関して政府機関が発行した通知等を確認することができます。

 
 

時間:10営業日程度

費用:74豪ドル

 
 

QCAT Neighbourhood Disputes Registry SearchQCAT近隣関係紛争登記簿の調査)

 
 

Queensland Civil and Administrative Tribunal (QCAT)(クイーンズランド民事・行政審判所)において、フェンスや植木等に関して近隣と発生している小規模な紛争の有無について確認することができます。

 
 

時間:即時(オンライン取得)

費用:無料

 
 

Court Registers Search - Supreme, District and Federal Courts(裁判所登記簿の調査)

 
 

クイーンズランド州の最高裁判所及び地方裁判所並びに連邦裁判所において売主を当事者とする訴訟手続が係属しているかどうか、及び過去に係属していたかについて確認することができます。

 
 

時間:即時(オンライン取得)

費用:無料

 
 

Bankruptcy Register Search (破産者登記簿の調査)

 
 

売主が個人である場合には、破産者登記簿を調査することによって現在破産している、又は過去に破産したことがあるかを確認することができます。

 
 

時間:即時(オンライン取得)

費用:25.85豪ドル

 
 

Company Search(会社登記簿の調査)

 
 

売主が会社である場合には、会社登記簿を調査することによって、有効に設立・存続している会社であるか否か、破産手続が開始されているか否か等を確認することができます。

 
 

時間:即時(オンライン取得)

費用:27.50豪ドル

 
 

PPSR Search(動産担保登記簿の調査)

 
 

Personal Property Securities RegisterPPSR)(動産担保登記簿)を調査することによって、売主が不動産以外の財産(動産)に担保を設定しているか否かを確認することができます。家具付の不動産を購入するなど、不動産と一緒に動産も購入する際には重要な調査となります。

 
 

時間:即時(オンライン取得)

費用:11.00豪ドル

 
 

Pool Safety Register(プールに関する調査)

 
 

豪州にはプールが設置されている物件が多くありますが、この調査ではプールの有無等について確認をすることができます。

 
 

時間:即時(オンライン取得)

費用:無料

 
 

Transport Noise Corridor Search(交通施設の騒音に関する調査)

 
 

鉄道、高速道路といった交通施設に近接した不動産については特別な防音措置等を採ることが要求されます。この調査ではそのような防音措置等を採る必要のある物件か否かを確認できます。

 
 

時間:即時(オンライン取得)

費用:無料

 
 

Building Records Research(建築記録に関する調査)

 
 

土地の上に建っている建物について出された建築許可等の建築記録の内容を確認することができます。

 
 

時間:10営業日程度

費用:74豪ドル

 
 

QLD Heritage Register SearchQLD州の遺産登記簿に関する調査)

 
 

不動産がクイーンズランド州の遺産登記簿に登録されているか否かを確認することができます。遺産登記簿に登録されている場合には、建物の使用や処分に対して制限が課されます。

 
 

時間:23営業日

費用:37.30豪ドル

 
 

Flood Search(洪水に関する調査)

 
 

不動産が洪水の影響を受けやすい地域にあるか否かを確認することができます。洪水のリスクが高いブリスベンでは特に重要な調査となります。

 
 

時間:即時(オンライン取得)

費用:無料

 

 

対象となる不動産がCommunity Titles Schemes(アパートやタウンハウス等の区分所有物件等)の場合には、さらに以下の調査項目が追加されます。            

 

調査項目

 
 

内容

 
 

時間・費用

 
 

Community Management Statement(CMS)(区分所有関係に関する調査)

 
 

Community Management Schemeの内容について説明する書面です。CMSの名前、対象となる不動産(共有部分・専有部分)、区分所有図面、各専有部分の持分割合、管理法人、管理規約等の情報が記載されています。

 
 

時間:即時(オンライン取得)

費用:64.90豪ドル

 
 

Body Corporate Records Search(管理法人の記録の調査)

 
 

管理法人が保管している記録を確認することができます。管理法人の議事録、財務書類(管理費用の支払・残高を含む)、付保状況、物件の修繕記録等について確認することができます。

 
 

時間:10営業日程度

費用:150400豪ドル(管理法人により異なります)

 
 

Body Corporate Orders(管理法人に対する命令の調査)

 
 

CMSの区分所有者間の紛争について、裁定機関であるBody Corporate and Community ManagementBCCM)が出した裁定命令を確認することができます。

 
 

時間:5営業日程度

費用:18.65豪ドル

 
 

Certificate of Classification(用途証明書に関する調査)

 
 

商業施設又は区分所有居住物件の場合には、Certificate of Classification(用途証明書)という物件がどのように使用されるべきかについて規定した書面が発行されます。

 
 

時間:10営業日程度

費用:74豪ドル

 

 

上記の調査は弁護士に依頼して行なってもらうものですが、不動産を購入する際には、買主は、これらの弁護士が行なう調査に加えて、建築関係の専門家によるBuilding Inspection(建物の構造等に問題がないかを現地調査してもらう)と害虫駆除業者によるPest Inspection(物件にシロアリ等の問題がないかを現地調査してもらう)を手配して行なうのが通常です。さらに、土地の境界等に疑義がある場合には、測量士を手配して、土地の測量をして境界を確定させることも行ないます。


2016年9月19日 (月)

不動産に関する瑕疵担保責任

今回は、豪州において販売された不動産に瑕疵(土地の土壌汚染、建物の構造上の欠陥等)があった場合に、当該不動産を販売した売主(ディベロッパー等)又は当該不動産を建築した建設会社は買主に対してどのような責任を負うことになるのかについて説明します。

1.不動産の売買における瑕疵担保責任

売買された不動産に瑕疵があった場合に売主が買主に対してどのような責任を負うことになるかは、原則として、売買契約の規定に従うことになります。但し、豪州で使用されている業界の標準的な売買契約では、売主の瑕疵担保責任はほとんど定められておらず、標準的な売買契約(州毎に異なる)を使用した場合には、売買契約に基づく瑕疵担保責任はあまりあてにはなりません。このように豪州の不動産の売買では、不動産の瑕疵の有無については基本的に買主側で責任を持つのが原則であり、この原則はcaveat emptorlet the buyer beware)と呼ばれます)。

ただし、売買契約に瑕疵担保責任の規定がなくても、売主が不動産の瑕疵について虚偽の、又は誤解を招く表示行為を行ったり、意図的に瑕疵に関する情報を隠して買主に売買契約を締結させる等、積極的に詐欺的な行為を行なった場合には、買主は売主に対して損賠賠償請求等を行うことができます。

2.新築居住用建物に関する瑕疵担保責任

新築居住用建物については法令上の瑕疵担保責任が存在します。全ての州の法律を網羅的に確認することは困難であるため、以下では主要な東部3州(NSW州、VIC州及びQLD州)についてのみ説明します。

(1)建設会社の瑕疵担保責任

居住用建物が新築された場合、建設会社は当該建物が適切に建設されており、居住用に適していることを担保する責任を法令上負っています。当該建物の所有者(建設会社に対して直接に建設を依頼した者であるか、当該者から当該建物を購入した者であるかを問わない)は、当該建物に瑕疵があった場合、この法令上の瑕疵担保責任に基づいて、建設会社に対して損害賠償等を請求することができます。瑕疵担保責任の期間は、構造上の瑕疵については建設完了から6年(NSW州・QLD州)又は10年(VIC州)、その他の瑕疵については建設完了から1年(QLD州)又は2年(NSW州・VIC州)となっています(Home Building Act 1989 (NSW)、Domestic Building Contracts Act (VIC)、Queensland Building and Construction Commission Act 1995 (QLD))。

(2)法令上の保険制度

建設会社は、建物の所有者を保護するために、瑕疵担保責任に関する保険に加入する義務が法令上あります。この保険により、建物に瑕疵があったものの建設会社が当該瑕疵に関する瑕疵担保責任を履行できない場合、建物の所有者はこの保険からの補償金の支払いを受けることができます。

3.日本法との比較

以上を日本法との比較でまとめますと、豪州法では、日本の民法第570条に定めるような不動産の売買契約一般に適用される瑕疵担保責任の制度は存在しませんが、新築居住用建物に関しては日本の品確法(住宅の品質確保の促進等に関する法律)第94条及び第95条に定める長期(構造耐力上主要な部分等に関して10年)の瑕疵担保責任や日本の住宅瑕疵担保履行法(特定住宅瑕疵担保責任の履行の確保等に関する法律)に定める保険制度と同じような制度が存在しているといえます。