相続法

2018年6月 9日 (土)

オーストラリア所在の財産について相続が適切に行なわれたことの確認方法

日本のクライアントから故人のオーストラリアの財産について適切に相続手続が行なわれたどうかについて調査したいという相談を受けたことがありました。たとえば、故人がオーストラリアの財産を全て故人の友人に遺贈してしまったと聞いているが、この遺贈が適切に行われたのか確認したいという日本の親族からの相談です(注:オーストラリアには遺留分の制度が無いため、基本的には故人は遺書で自由に財産を処分できるようになっています)。

オーストラリアの財産について適切な相続手続きが行われたのかについては、裁判所の訴訟事件登記簿を調べることである程度は調査ができます。

故人が遺書を残していない場合、オーストラリアに所在する故人の名義の財産(銀行預金や不動産)を相続人の名義に移すためには、裁判所に申請手続を行って裁判所からLetters of Administrationを取得することが必要になります。

故人が遺書を残している場合は、基本的には、遺書で指名された遺言執行者(Executor)が遺書のとおりにオーストラリアに所在する故人の名義の財産を処分することになりますが、銀行は一定金額(銀行により異なるが一般には5万豪ドル)以上の預金を引き出す場合には、遺書が裁判所によって検認(Probate)されていることを要求してきます。したがって、遺書がある場合でも、遺言執行者は裁判所に申請手続を行ってProbateを取得することが必要になる場合が多くあります。

これらの裁判所からProbateLetters of Administrationの取得の裁判手続は、裁判所の訴訟事件登記簿に記録されているため、故人の名前で訴訟事件登記簿を検索すれば、当該故人の相続手続についてProbateLetters of Administrationがきちんと取得されているかを確認することができます。訴訟事件登記簿の調査方法については、以前のブログ記事を参照ください。

2016年6月 2日 (木)

遺書が無い場合における相続人の範囲と法定相続分

オーストラリアにおいて、遺言書を残さず亡くなった被相続人の相続財産がどのように相続されるか(相続人の範囲及び法定相続分)については、州法が管轄する分野であり、州毎に異なります。以下では代表的な東部三州(New South Wales州、Victoria州及びQueensland州)の法律の定める内容について説明します。

1.NSW州の法律が適用される場合(Succession Act 2006 (NSW)

NSW州の法律が適用される場合、遺言書を残さず亡くなった被相続人の相続財産は、以下のように相続されます。

· 被相続人に配偶者(内縁関係にある者を含む - 以下同じ)が1名いて、かつ子孫がいない場合又は子孫がいるが当該子孫は全て当該配偶者の子孫である場合には、当該配偶者は被相続人の相続財産の全てを相続します。

· 被相続人に配偶者が1名がいて、子孫もいるが当該子孫は当該配偶者の子孫ではない場合には、当該配偶者は、①「被相続人の私物(personal effects)」、②「法定遺産(statutory legacy)」及び③「①と②を控除して残った遺産の2分の1」を相続します。

②の法定遺産(R)は、消費者物価指数(CPI)によって変動し、以下の式によって計算されます。

R = A × C ÷ D


"A" = $350,000.

"C" =
被相続人の死亡日の直前に発表された四半期における消費者物価指数(Consumer Price Index

"D" =2005
12月期(9月から12月の3ヶ月間)における消費者物価指数(Consumer Price Index

· 被相続人に配偶者が2名以上いて、かつ子孫がいない場合又は子孫もいるが当該子孫は全てこれらの配偶者の子孫である場合には、これらの配偶者は被相続人の相続財産の全てを相続します。これらの配偶者間の相続財産は、相続財産分配に関する合意又は命令がある場合には、当該合意又は命令に従って分配され、そのような合意又は命令がない場合には、均等に相続します。

· 被相続人に配偶者が2名以上いて、子孫もいるが当該子孫は当該配偶者の子孫ではない場合には、これらの配偶者は、①「被相続人の私物(personal effects)」、②「法定遺産(statutory legacy)(計算式は上記参照)」及び③「①と②を控除して残った相続財産の2分の1」を相続します。これらの配偶者間の相続財産は、相続財産分配に関する合意又は命令がある場合には、当該合意又は命令に従って分配され、そのような合意又は命令がない場合には、均等に相続します。

· 被相続人に配偶者がおらず、子孫がいる場合、被相続人の子供が相続財産の全てを相続します。子供が亡くなっている場合、当該子供の相続分は当該子供の子孫が相続します。

· 被相続人に配偶者がいて、子孫もいるが当該子孫は当該配偶者の子孫ではない場合には、被相続人の子供は当該配偶者の相続分を除いた相続財産を相続します。子供が複数いる場合には、子供は均等に相続します。子供が亡くなっている場合、当該子供の相続分は当該子供の子孫が相続します。

· 被相続人に配偶者も子孫もいない場合、被相続人の両親が相続財産を均等に相続します。片親しか残っていない場合、当該親が全て相続します。

· 被相続人に配偶者も子孫も親もいない場合、被相続人の兄弟姉妹が相続財産を均等に相続します。被相続人である兄弟姉妹が亡くなっている場合、当該兄弟姉妹の相続分は当該兄弟姉妹の子孫が相続します。

· 被相続人に配偶者も子孫も親も兄弟姉妹(及びその子孫)もいない場合、被相続人の祖父母が相続財産を均等に相続します。

· 被相続人に配偶者も子孫も親も兄弟姉妹(及びその子孫)も祖父母もいない場合、被相続人の親の兄弟姉妹(おじ・おば)が相続財産を均等に相続します。被相続人であるおじ・おばが亡くなっている場合、当該おじ・おばの相続分は当該おじ・おばの子供(一世代限りの代襲)が相続します。

 

2.VIC州の法律が適用される場合(Administration and Probate Act 1958 (VIC)

VIC州の法律が適用される場合、遺言書を残さず亡くなった被相続人の相続財産は、以下のように相続されます。

· 被相続人に配偶者がいて、かつ子孫がいない場合、当該配偶者が相続財産の全てを相続します。

· 被相続人に配偶者がいて、子孫がいる場合、当該配偶者は被相続人の私物(personal chattels)を相続し、さらに、①相続財産が10万ドル以下である場合には、相続財産の全てを相続し、②相続財産が10万ドル超である場合には、10万ドル及び残りの相続財産の3分の1を相続します。

· 被相続人に配偶者が2名以上いる場合、被相続人と内縁関係にある者が被相続人の死の直前にどれだけ長く被相続人の配偶者として暮らしていたかによって相続分が変わります。被相続人と内縁関係にある者が被相続人の配偶者として暮らしていた期間が4年未満である場合には当該内縁関係者は相続財産の3分の1を相続し、残りの3分の2を正式に登録された配偶者が相続します。内縁関係者が被相続人の配偶者として暮らしてきた期間が4年以上5年未満の場合には、当該内縁関係者と正式登録配偶者はそれぞれ相続財産の2分の1ずつを相続し、5年以上6年未満の場合には内縁関係者が3分の1、正式登録配偶者は3分の2を相続し、6年以上の場合には内縁関係者が相続財産の全部を相続します。

· 上記の相続分の分配の結果、残った相続財産については、原則として被相続人の子供達の間で均等に相続されます。子供が亡くなっている場合、当該子供の相続分は当該子供の子孫が相続します。

· 被相続人に配偶者も子孫もいない場合、被相続人の両親が相続財産を均等に相続します。片親しか残っていない場合、当該親が全て相続します。

· 被相続人に配偶者も子孫も親もいない場合、被相続人の直近の親族(兄弟姉妹又は祖父母)が均等に相続しますが、兄弟姉妹(又はその子供(一世代限りの代襲))がいる場合には兄弟姉妹(又はその子供(一世代限りの代襲))が祖父母に優先します。

 

3.QLD州の法律が適用される場合(Succession Act 1981 (QLD)

QLD州の法律が適用される場合、遺言書を残さず亡くなった被相続人の相続財産は、以下のように相続されます。

· 被相続人に配偶者がいて、かつ子孫がいない場合、当該配偶者が相続財産の全てを相続します。

· 被相続人に配偶者が2名以上いて、かつ子孫がいない場合、相続財産分配に関する合意又は命令があれば、当該合意又は命令に従って配偶者間で相続財産は分配されます。そのような合意又は命令がない場合には、配偶者間で相続財産は均等に分配されます。

· 被相続人に配偶者がいて、かつ子孫がいる場合、当該配偶者は相続財産のうち15万ドルと家庭用品(household chattel)を相続し、さらに、①被相続人の子供が1名の場合には、残りの相続財産の2分の1を相続し、②被相続人の子供が2名以上の場合には、残りの相続財産の3分の1を相続します。

· 被相続人に配偶者が2名以上いて、かつ子孫がいる場合、これらの配偶者は相続財産のうち15万ドルと家庭用品(household chattel)を相続し、さらに、①被相続人の子供が1名の場合には、残りの相続財産の2分の1を相続し、②被相続人の子供が2名以上の場合には、残りの相続財産の3分の1を相続します。これらの配偶者が相続する相続財産は、相続財産分配に関する合意又は命令があれば、当該合意又は命令に従ってこれらの配偶者間で分配されます。そのような合意又は命令がない場合には、これらの配偶者間で相続財産は均等に分配されます。

· 上記の分配の結果残った相続財産については、被相続人に子供がいる場合には子供が均等に相続します。子供が亡くなっている場合、当該子供の相続分は当該子供の子孫が相続します。

· 被相続人に配偶者がおらず、子供がいる場合には、子供が相続財産の全部を均等に相続します。子供が亡くなっている場合、当該子供の相続分は当該子供の子孫が相続します。

· 被相続人に配偶者がおらず、子孫もいない場合には、両親が均等に相続します。片親しか残っていない場合、当該親が全て相続します。

· 被相続人に配偶者も子孫も親もいない場合には、兄弟姉妹(又はその子供(一世代限りの代襲))、祖父母、おじ・おば(又はその子供(一世代限りの代襲))の順番で相続します。 

 

「配偶者」→「子供」→「親」→「兄弟姉妹」の順番で相続権を有している点は、基本的にオーストラリア法と日本法は同じであるといえます。オーストラリア法が日本法と大きく異なる点として、内縁の配偶者も結婚登録等されている配偶者と同じレベルで相続権を与えられている点が挙げられます。

2015年8月30日 (日)

オーストラリアの相続法-日本法との相違点

日本人の方でオーストラリアに資産を残している方が亡くなった場合の取扱いについて質問を受けることがよくあります。その際には、日本の法律とオーストラリアの法律の両方が問題となることが多くあります。以下に、日本とオーストラリアの相続に関する法律で異なる点を以下に記載します。

1.相続分割主義

オーストラリアの相続に関する国際私法では、いわゆる相続分割主義を採っており、相続財産のうち不動産(Immovables)については当該不動産が存在する土地の法律に従って相続関係を判断し、相続財産のうち動産(Movables)については被相続人の死亡時の居住地(Domicile)の法律に従って相続関係を判断するものとされています。銀行預金や投資信託は動産(Movable)であり、預金先の銀行(債務者)や受託者の所在地が財産の所在地となります。

このため、たとえば、オーストラリア在住の日本人の方が亡くなり、オーストラリアで相続手続が行われる場合、オーストラリアの国際私法に従って、相続財産のうち日本にある不動産については日本の法律が適用されて相続人の範囲及び相続分が判断され、オーストラリアにある不動産についてはオーストラリアに法律が適用されて相続人の範囲及び相続分が判断されることになります。

2.Joint Tenancyの共有財産の扱い

被相続人が有していた共有財産のうちJoint Tenancyの形態で共有している財産については、相続財産に含まれないという点にも注意が必要です(Joint Tenancyの説明については「財産法(1)-共有」を参照)。オーストラリアでは、夫婦で所有している不動産等については、Joint Tenancyの共有形態となっているものが多く、このような場合において、夫が亡くなったときは、Right of Survivorshipにより、これらのJoint Tenancyの共有形態となっている財産は死亡と同時に自動的に妻に帰属することになり、相続財産には含まれず、相続の対象とはなりません。

3.遺留分減殺請求権は存在しない

日本と異なり、オーストラリアには、法定相続人に対して相続財産の一定割合を必ず相続できる権利を与える遺留分減殺請求権という制度は存在しません。したがって、被相続人が遺言で相続財産を処分した場合、法定相続人による遺留分減殺請求権によって当該処分が覆されることはありません。

但し、オーストラリアでは、Family Provisionという制度があり、配偶者、子供といった被相続人の近親者で、その生活が被相続人に経済的に依存していた者等は、裁判所に対して相続財産の一部を自身に分配するように請求することができます(なお、相続に関する法律は州法であり、Family Provisionに関する要件も州毎に異なっています)。このFamily Provisionは、日本の遺留分減殺請求権にように法律上相続財産の一定の割合が必ず分け与えられるというものではなく、分配額は裁判所が案件の具体的な事情を考慮して裁量で定めることになります。

4.相続財産の帰属

日本では被相続人が死亡した時点において、相続財産は直接に相続人に帰属することになります。他方、オーストラリアでは、被相続人が死亡した時点では、相続財産は被相続人に帰属したままであり、「遺言執行者(Executor)」又は「遺産管財人(Administrator)」が被相続人に代わって相続財産の管理・処分・分配を行います。遺言執行者は遺書で定められますが、遺書が存在しない場合、又は遺書で遺言執行者が定められていない場合には、被相続人の近親者等が裁判所に申請して遺産管財人に任命されます。この遺言執行者又は遺産管財人が遺書又は法律に従って相続人に相続財産を分配した時点で、相続財産は相続人に帰属することになります。