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倒産法

2020年11月25日 (水)

オーストラリアの企業倒産法の改正

現在、オーストラリアでは、コロナウィルス対策として、企業の倒産を防止するための倒産臨時措置法が施行されていますが、これは20201231日に期限を迎えて終了する予定です。その後に多くの企業(特に中小企業)の倒産が発生することが予測されており、それに対する対応として企業(特に中小企業)の倒産を迅速かつ効率的に処理するための会社法(オーストラリアの会社の倒産手続は会社法に規定されています)の改正が予定されています。

この会社法の改正案(Corporations Amendment (Corporate Insolvencvy Reforms) Bill 2020は、こちらで確認することができます。また、その下位規則である会社法規則の改正案であるCorporations Amendment (Corporate Insolvency Reforms) Regulations 2020と破産実務規則(Insolvency Practice Rules (Corporations) 2016)の改正案であるInsolvency Practice Rules (Corporations) Amendment (Corporate Insolvency Reforms) Rules 2020は、こちらで確認することができます。この会社法の改正は、連邦議会での審議・承認を経た上で、来年11日から施行される予定となっています。

以前のブログ記事『オーストラリアの倒産手続(外部管理)』で紹介したとおり、オーストラリアの倒産手続には、主として、事業の再生を目指す再生型の「任意管財手続(Voluntary Administration)」と事業の清算処分を目指す破産型の「清算手続(Liquidation又はWinding Up)」の2種類があります。今回の法改正では、これらの2種類の手続について新たに簡易なヴァージョンの手続を導入するというものです。

1.簡易再生手続(Restructuring)の導入

今回の法改正では、任意管財手続の簡易なヴァージョンとして、簡易再生手続(Restructuringが導入されることが予定されています。

簡易再生手続は、債務(偶発的債務を除く)の総額が$1M未満の会社に適用されます(会社法規則の改正案5.3B.03(1))。

会社が支払不能である、又は支払不能に陥ることが合理的に予見できる場合には、会社は取締役会決議によって、Restructuring Practitioner(再生人)を任命することができ(会社法の改正案453B条)、この再生人の任命によって簡易再生手続は開始します(同453A条)。債権者その他の第三者は簡易再生手続を開始することはできません。再生人は任命後1営業日以内にASIC(会社の監督機関)及び会社の債権者に対して任命を通知する必要があります(会社法規則の改正案5.3B.45条)。

任意管財手続や清算手続と同じく、再生人に任命されることができる者は、原則として、ASICに登録された資格のある清算人(登録清算人:Registered Liquidator)のみです(会社法の改正案456B条)。この登録清算人になるためには、会計関連の学位を持ち、直近5年間においてシニアレベルで4,000時間以上の倒産関連業務に従事した経験を有するなどの要件を満たした上で、ASICに申請して登録を受ける必要があります。ただし、今回の改正では、再生人に関する限りにおいて、この登録清算人の要件を緩和されており、豪州において認められた会計士の資格(Chartered Accountants Australia and New ZealandCPA Australia又はInstitute of Public Accountantsの会計士の資格)を有し、再生人の責務を果たすだけの能力があることが立証され、その他Insolvency Practice Schedule (Corporations)に定める条件(適切な保険への加入、豪州在住であることなど)を満たすことができれば、再生人に任命されることができる登録清算人となることができます(破産実務規則の改正案20-2条)。

簡易再生手続では、会社の既存の取締役は、簡易再生手続の開始後も、会社のコントロールを維持し、会社の通常の業務の範囲内で(in the ordinary course of business)事業活動を継続することができます(他方で、通常の業務の範囲外の事業活動については再生人の承認又は裁判所の許可が必要です(会社法の改正案453L条))。簡易再生手続において会社の通常の業務の範囲内で、又は再生人の承認若しくは裁判所の許可を得て会社が債務を負った場合、会社の取締役は破産取引阻止の義務の違反責任を問われません(同588GAAB条)(取締役の破産取引阻止の義務については、以前のブログ記事『オーストラリアの倒産手続(外部管理)について留意すべき点』の4.破産取引阻止の義務を参照)。

これまでのオーストラリアの倒産手続(任意管財手続と清算手続)では、任命された管財人又は清算人が会社の事業及び財産についてコントロールし、既存の取締役はコントロールを失うことになっており、いわゆるDebtor in Possessionモデルは採用されていませんでした(以前のブログ記事『オーストラリアの倒産手続(外部管理)について留意すべき点』の2.DIP型手続を参照)。今回の改正で導入される簡易再生手続では、オーストラリアの倒産手続で初めてDebtor in Possessionのモデルが採用されることになります。

再生人の役割は、会社の既存の取締役に対して債務整理についてアドバイスし、再生計画(Restructuring Plan:債権の減免・支払延期などが規定される:詳細については会社法規則の改正案5.3B.13条及び5.3B.14条参照)の作成をサポートすることなど(会社法の改正案453E条)であり、既存の取締役をサポートし、監督するという役割になります。再生人の役割・権限等の詳細については、規則案5.3B.08に規定されています。

会社は、再生人のサポートを受けて、再生計画案を作成します。再生計画案は、簡易再生手続の開始から20営業日以内に債権者に提案される必要があります(会社法規則の改正案5.3B.02(1)(b)5.3B.15条、5.3B.19条)。また、再生人は、簡易再生手続の適用基準が満たされているか否か、及び会社は再生計画案に従って債務を弁済できる可能性が高いか否か等について意見を述べた書面を作成し、再生計画案と一緒に債権者に提出する必要があります(同5.3B.16条)。また、再生計画案についてASICへの通知も必要になります(同5.3B.47条)。

債権者は再生計画案の受領から15営業日以内に承認するか否かの判断を会社に伝えます(同5.3B.19条)。債権者が再生計画案に記載されている自己の債権金額について異議がある場合には、再生計画案の受領から5営業日以内に会社に伝える必要があります(同5.3B.20(2))。なお、担保を有している債権者は、当該担保でカバーされない債権額についてのみ再生計画案について債権者として扱われ(同5.3B.25(1)(e))、また、再生計画案に同意をしない限り、当該担保及びそれによってカバーされる債権額について、承認された再生計画について拘束されません(同5.3B.27(3))。

債権額の過半数の債権者が再生計画案に同意した場合、再生計画案は債権者に承認されたことになり(同5.3B.23条)、その後、会社は、再生人の監督の下、再生計画に従って既存の取締役が運営することになります。この債権者による再生計画案の承認について、債権者集会を開催する必要はなく、再生計画案の承認は、電子的な方法(オンラインでの投票等)で採決されることが予定されています。債権者が再生計画案を承認しない場合、取締役は別の倒産手続(任意管財手続又は清算手続)の開始を検討することになります。

簡易再生手続の期間中(再生計画が承認されるまでの期間)は、再生人の同意又は裁判所の許可がない限り、債権者による訴訟提起や担保権の執行は禁止され、また、会社の取締役等の個人保証の執行も禁止されます(会社法の改正案453Q条、453R条、453S条、453V条)。ただし、任意管財手続の場合と同様(以前のブログ記事『オーストラリアの倒産手続(外部管理)について留意すべき点』の5.モラトリアムを参照)、会社の全ての資産に対して担保権を有している担保権者は、例外的に簡易再生手続の開始から13営業日以内であれば担保権を実行することができます(同454C条)。 

2.簡易清算手続(Simplified Liquidation Process)の導入

今回の法改正では、清算手続の簡易なヴァージョンとして、簡易清算手続(Simplified Liquidation Process)が導入されることが予定されています。

簡易清算手続は、事業を再生できる見込みがない小規模な会社(偶発債務を除く債務の総額が$1M未満の会社)について適用されます(会社法規則の改正案5.5.03(1))。また、簡易清算手続は「債権者による任意清算(Creditors’ Voluntary Liquidation)」の場合にのみ利用が可能です(会社法の改正案500AA(1))。

* 以前のブログ記事『オーストラリアの倒産手続(外部管理)』で紹介したとおり、オーストラリアの清算手続には、裁判所が命令を出して清算人を選任する「強制清算」と会社が株主総会の特別決議によって自ら清算人を選任する「任意清算」があります。また、「任意清算」については、債権者の関与なしに株主主導で進めることができる「株主による任意清算(Members’ Voluntary Liquidation)」と債権者の関与が必要になる「債権者による任意清算(Creditors’ Voluntary Liquidation)」の2種類があります。前者については、会社が全ての債務を弁済することができる場合に利用することができ、債権者の利益が害されることがないため、債権者の関与が不要となっています。後者については、会社が全ての債務を弁済することができない場合に利用され、債権者の利益に影響を及ぼすため、債権者の関与が必要になっています。簡易清算手続は、この後者の「債権者による任意清算(Creditors’ Voluntary Liquidation)」の場合にのみ利用可能ということになります。

会社の取締役会は、簡易清算手続の適用基準が満たされていると信じる合理的な理由があると考える場合には、任意清算を決定して清算人を選任する株主総会の特別決議がなされた日から5営業日以内に、簡易清算手続の適用基準が満たされている旨の宣言をしなければなりません(会社法の改正案498条)。この宣言を受けて、清算人が簡易清算手続の採用を決定することができます。清算人は、簡易清算手続の適用を決定する10営業日以上前に、会社の株主及び債権者に対して簡易清算手続の適用基準が満たされている旨を通知しなければなりません(同500A(3))。会社の債務全体の25%以上の債権額を有する債権者が簡易清算手続に反対した場合、簡易清算手続を行うことはできなくなります(同500AB条)。簡易清算手続を適用することを決定した場合、清算人は5営業日以内にASICに通知をする必要があります(会社法規則の改正案5.5.06条)。

簡易清算手続が適用される場合、清算人は、会社法533条に基づく会社の調査及びASICへの報告(会社の倒産に関して取締役や従業員等に会社法の違反があったか否かの調査などを調査してASICに報告する)をする必要がなくなります(会社法の改正案500AE(2)(a))。ただし、簡易清算手続が行われている場合であっても、債権者に対して重大な不利益を与える上記のような違反があったと清算人が考えるに至った場合には、ASICへの報告をすることが必要になります(会社法規則の改正案5.5.05条))。また、清算手続において必要とされている様々な債権者集会を行う必要もなくなります(会社法の改正案500AE (2)(b)以下)。偏頗弁済(Unfair Preference)や否認取引(Voidable Transaction)に関する例外も設けられています(同500AE(3)(a)及び(b))。通常の清算手続であれば、清算手続開始から6ヶ月以内に行った偏頗弁済は無効となるのですが、簡易清算手続においては、この期間が3ヶ月に短縮され、相手方が関連会社ではなく、かつ金額が3万豪ドル以下であれば、偏頗弁済であっても無効となりません(会社法規則の改正案5.5.04条)。

今回導入される簡易再生手続と簡易清算手続の主な内容の説明は以上のとおりです。

改正法案はまだ審議段階にあるため、今後法案として成立するまでに内容が変更される可能性がある点には留意ください。

2019年11月17日 (日)

債権回収の方法

今回はオーストラリアにおいて期限に支払いを行わない取引先(会社)から債権を回収する一般的な方法について説明します。債権回収は一般的には以下のような手順で行われます。

(1)Letter of Demand(支払督促状)の送付

(2)Statutory Demand(法定請求書)の送付

(3)清算手続の開始/裁判手続の開始/担保権の実行

1.Letter of Demand(支払督促状)の送付

これは文字通り相手方に支払いを督促する通知になります。オーストラリアには日本のような内容証明の制度はないため、トラッキングができるRegistered Mailなどで相手方に送付します。支払期日を指定した上で、期日までに支払わなければ法的措置をとると伝えます。何の前触れもなくいきなり支払督促状を送付するのではなく、まずは送付前に相手方との協議があるのが通常です。協議がまとまらなければ支払督促状を出し、後日の裁判手続のために書面で証拠を残しに来ていることを示し、相手方にプレッシャーを与えます。

2.Statutory Demand(法定請求書)の送付

1.の支払督促状と異なり、Statutory Demand(法定請求書)は会社法459E条に基づいて作成されるものであり、法律上特別な効果が与えられています。

Statutory Demandは法定の書式を利用して作成し、債権者又はその代理人が署名し、支払いを求める債権とその金額を特定し、受領後21日以内に支払いを行うように要求します。また、債権者が当該債権の支払期日が到来していることを証言する宣誓供述書(Affidavit)を添付しなければなりません。また、Statutory Demandの対象となる債権は2,000豪ドル以上でなければなりません。

Statutory Demandを受領した債務会社が21日以内に支払いを行うか、又はStatutory Demandの取消しを裁判所に対して申請しない場合、Statutory Demandの不履行となり、債務会社は支払不能(insolvent)であるとみなされます。債務会社がStatutory Demandの取消しを裁判所に申請した場合、裁判所が当該債権の存在について真に争いがある、又は相殺等によって当該債権の金額が2,000豪ドル未満になったと判断すれば、Statutory Demandは取り消されます。

清算手続の開始を申し立てる場合、通常は申立てを行う債権者側で債務会社が支払不能状態にあることを立証しなければならないところ、Statutory Demandの不履行によって債務会社の支払不能が推定されるため、債権者は債務会社に対して容易に清算手続の開始を申請することができるようになります。清算手続が開始されると債務会社の事業はストップしてしまうため、Statutory Demandによって清算手続をほのめかすことにより、債務会社に対して多大なプレッシャーを与えることができます。

3.清算手続の開始/裁判手続の開始/担保権の実行

Statutory Demandが不履行となっても債務会社が支払を行わない場合、債権者として、(1)債務会社に対する清算手続の開始を申し立てる、(2)債務会社に対して支払いを求める訴訟を提起する、(3)担保権を実行する、の3つの手段が考えられます。

(1)を行ってしまうと債務会社に対して清算人が選任されて債務会社の全財産の管理を行うことになるため、債務会社の事業がストップすることになります。債権者の債権は清算手続の中で弁済されることになります。清算手続については、以前のブログ記事(オーストラリアの倒産手続(外部管理)の3.清算手続)をご参照ください。

(2)については、通常の訴訟となります。オーストラリアでの訴訟は日本の訴訟と同じく多大な時間とコストがかかります。なお、Letter of DemandStatutory Demandを出さなければ訴訟が提起できないというわけではありません。

(3)の担保権の実行については、担保契約に定める担保権実行事由(Event of Default - 支払いの遅延など)が生じていれば行えるのであり、Letter of DemandStatutory Demandを出さなければ担保権の実行が行えないということではありません。担保権の実行については以前のこちらのブログ記事もご参照ください。

2017年1月22日 (日)

倒産状態にある企業の買収方法

オーストラリアの会社が支払不能に陥り、任意管理手続が行われることになった場合、これまで事業を行ってきた会社であれば、いきなり清算手続(Winding Up)が開始されることは少なく、任意管理手続(Voluntary Administration)が開始されることになるのが通常です。会社に担保債権者がいる場合には、任意管理手続の開始と同時に担保債権者がレシーバーも選任することも多くあります。この場合、管財人とレシーバーが並存することになります。なお、任意管理手続やレシーバーシップに関する説明は、以前の2つの記事(「オーストラリアの倒産手続(外部管理)」や「オーストラリアの倒産手続(外部管理)について留意すべき点」)をご参照ください。

このような任意管理手続(及びレシーバーシップ)が開始された会社について、管財人(及びレシーバー)が会社の事業を第三者に売却し、その売却代金を会社の債権者に対する弁済に充てるといったことがよく見られます。そのような会社を買収する際の取引ストラクチャーとしては、「会社の株式の譲渡」と「会社の資産の譲渡」の2通りが考えられます。この2つのストラクチャーの特徴について、以下の一覧表にまとめました。 

                                     
 

 

 
 

会社の株式の譲渡

 
 

会社の資産の譲渡

 
 

契約や財産の移転手続

 
 

会社が締結している契約(取引契約や雇用契約を含む)の当事者としての地位や会社が保有している財産(動産、不動産、知的財産権)の所有者としての地位について変更は生じないため、契約や財産の移転に関する手続は必要ありません。但し、取引に際して支配株主の変更が生じること(Change of Control)について契約相手方の同意が必要になる場合があります。

 
 

買収者は、事業譲渡契約書の中で特定された契約や財産のみについて会社から譲渡を受けることになります。契約の当事者としての地位や財産の所有者としての地位に変更が生じるため、契約や財産の移転に関する手続が必要になります。

 

 

 
 

許認可の移転手続

 
 

会社が有している事業に関する許認可についても原則として移転手続等は必要になりません(但し、移転手続が必要になる場合もあるため、許認可の根拠法を確認する必要があります)。

 
 

会社が有している事業に関する許認可についても原則として移転手続等が必要になります。

 
 

管財手続が契約に与える影響

 
 

管財手続開始前に会社が締結していた契約について管財人(又はレシーバー)は履行するか否かを選択することができ、履行を選択した場合には管財人(又はレシーバー)は同契約の履行について個人的に責任を負うことになります。したがって、管財人(又はレシーバー)が履行を選択したにもかかわらず履行を実行しなかった場合には、契約相手方は(会社ではなく)管財人(又はレシーバー)に対して損害賠償を行なうことができます。管財人(又はレシーバー)が契約の不履行を選択する場合、契約相手方は会社に対して契約違反に基づく損害賠償請求を行なうことができますが、この損害賠償請求権は管財手続の中で一般債権として扱われることになり、以下で説明する会社再生契約(Deed of Company Arrangement)(DOCA)の債務削減の対象となります。


 

買収者は、重要な契約が管財人(又はレシーバー)が不履行を選択したことによって契約相手方に解除されていないか等について確認する必要があります。

 
 

買収者は、事業譲渡によって承継しようとしている契約のうち重要なものが管財人(又はレシーバー)が不履行を選択したことによって契約相手方に解除されていないか等について確認する必要があります。

 
 

負債の承継について

 
 

会社の全ての資産及び負債を引き継ぐことになりますが、このうち負債についてはDOCAが債権者集会で決議され、会社によって締結されれば、この会社再生契約の内容に従って負債は削減されることになります(負債についてどの程度の削減を受けられて、残額をどのような条件で弁済するのか等を確認するために会社再生契約の内容を確認する必要があります)。

 

DOCAの中には債権者のための信託(Creditors’ Trust)を設定し、会社が負っている債務(DOCAに基づく削減後のもの)及び会社が有している財産(弁済原資)をこの信託に移転してしまうことを規定しているものも多く見られます。この場合、債権者は債権の弁済を会社からではなく、この信託から受けることになります。このCreditors’ Trustのスキームを利用することにより、会社の債務及び財産を信託に移して会社のバランスシートをきれいにし、また、DOCAを早急に終了させることができます。このことにより買収者はバランスシートがきれいになった、任意管財手続が終了済の会社を購入できることになります。

 
 

買収者は、会社の負債については、特別に合意をしない限り承継しません。したがって、管財人(又はレシーバー)は事業譲渡を行なうためにDOCAを締結して債務を削減する必要はありません。管財人(又はレシーバー)は買収者から受領する事業譲渡の代金を会社の債権者に対する弁済に充てることになります。

 
 

取引にかかる税金

 
 

株式の譲渡には原則としてStamp Duty(印紙税)やGoods and Services Tax(消費税)は課されません。

 
 

不動産等の資産の譲渡には原則としてStamp Duty(印紙税)が課されます。消費税(Goods and Services Tax)は、税法上において取引が個々の資産の譲渡ではなく、事業の譲渡(Business Transfer)であるとみなされれば課されません。

 

2016年6月12日 (日)

オーストラリアの倒産手続(外部管理)について留意すべき点

前回はオーストラリアの倒産手続(外部管理)の概要について説明しましたが、今回はオーストラリアの倒産手続(外部管理)について留意すべき点を以下に記載します。

 

1.外部管理の公示

会社が外部管理に入った場合、ASICに届出がなされ、当該会社のASIC登記情報には当該会社が外部管理に入っていることが表示されます。また、当該会社は、外部管理に入った後は、その作成する文書において、外部管理に入ったことを示す記載を会社名に併せて記載しなければなりません。これらによって当該会社と取引に入ろうとする者は当該会社が外部管理に入っていることを知ることができます。

 

2.DIP型手続

日本では、民事再生手続のように支払不能となった会社の取締役(経営陣)が当該会社の管理を行なう権限を保持したままで行なわれる倒産手続(一般にdebtor in possessionDIP)型手続といわれます)がありますが、オーストラリアでは、上記のとおり、支払不能となった会社の倒産手続は外部の専門家が会社の管理権限を掌握した上で行なうことになりますので、DIP型手続をとることはできません。

 

3.外部管理者となるための資格

レシーバー、管財人又は清算人は、ASICに登録されている登録清算人(registered liquidator)でなければ就任することができません。登録清算人として登録されるためには会計の資格等が必要となるため、登録清算人の大部分は会計士となっています。このため、日本では管財人や清算人には弁護士が就任するのが通常ですが、オーストラリアでは会計士が就任するのが通常です。オーストラリアには、登録清算人を多く有し、外部管理に関する業務を専門として行っている会計事務所が多くあります。著名な会計事務所としては、PPB AdvisoryMcGrathNicolFerrier Hodgson、Korda Menthaがあります。

 

4.破産取引阻止の義務

オーストラリアでは、会社の取締役は、会社が支払不能状態である、又はこれ以上債務を負うと支払不能状態に陥る可能性がある場合には、会社が更なる債務を負う行為(破産取引(insolvent trading)と呼ばれます)を行うことを阻止する義務を負っています。このため、会社が支払不能状態に陥った、又は支払不能状態に陥る可能性がある場合には、取締役は会社がこれ以上債務を負うことがないように、会社に対して倒産手続(任意管理手続又は清算手続)を開始しなければなりません。この破産取引阻止の義務に違反した場合、取締役は裁判所から民事制裁や刑事罰を課され、また、会社の破産により損害を蒙った無担保債権者の損害額を会社に支払うように命令される可能性があり、違反した場合の責任は非常に重いものとなっています。したがって、オーストラリアでは会社が支払不能の状態になったにもかかわらず倒産手続を開始せずに外部者と取引を継続するというケースは少ないといえます。

 

5.モラトリアム

任意管理手続が開始された場合、担保権を有する債権者は、原則として、担保権の実行を行うことができなくなります。これはモラトリアムと呼ばれ、各担保権者が個別に担保物を処分することによって会社の事業全体としての価値が損なわれることを防止するために認められています。レシーバーシップや清算手続ではモラトリアムは認められません。

但し、モラトリアムの例外として、全資産担保権を有する債権者は、管財手続の開始の通知を受け取ってから13営業日以内であれば担保権を実行することができることになっています。したがって、全資産担保権を有する債権者はこの期間内に担保権の実行(レシーバーの選任等)を決断する必要があります。

任意管理手続を行う場合、清算手続と異なり、管財人が会社の事業を継続することができ、かつ上記のモラトリアムによって担保権の行使を防止することができるため、会社の事業全体をGoing Concernとして売却したい場合には、清算手続ではなく任意管理手続が利用されます。

 

6.取引の否認

オーストラリアにおいても、清算手続において、清算人が支払不能状態にある際に行なった偏頗弁済等の一定の取引について否認をすることが認められています。但し、このような否認権を有するのは、清算手続における清算人のみであり、任意管理手続における管財人には否認権を有しません。任意管理手続は迅速に会社の再建手続を行なうことを目的としており、否認権の行使を認めるとその処理に時間がかかってしまい、再建手続が迅速に行なえなくなってしまうことが理由とされています。

 

7.レシーバーシップと任意管理手続の関係

会社に対してレシーバーと管財人の両方が選任されることは可能であり、実際にそのようなことはよくあります。例えば、全資産担保権を有する債権者が会社に対して管財人とレシーバーの両方の選任を同時に行なうことによってこのような事態は生じます(この場合、管財人とレシーバーは別の者が選任されなければなりません)。法律上、レシーバーの権限は管財人の権限に優越することが定められています。したがって、レシーバーはその選任の根拠となった担保権の対象である担保物に関して、管財人に優先して権限を行使することができます。すなわち、任意管理手続が行なわれているにもかかわらず、レシーバーは当該担保物を処分して、その代金をレシーバーを選任した債権者に対する債務の弁済に充てることができます。レシーバーの選任の根拠となった担保権が全資産担保権である場合、レシーバーは会社の資産全部に対して管理を行い、会社の経営をコントロールすることができます。管財人も会社の資産及び経営をコントロールする権限を有しますが、この権限はレシーバーの権限に劣後するため、実際にはレシーバーが会社の資産及び経営をコントロールすることができます。

オーストラリアの倒産手続(外部管理)

オーストラリアでは、会社が「支払不能(insolent)」に陥った際には、外部の専門家が選任されて当該会社の管理を行なう(当該会社の取締役は当該会社を管理する権限を失う)という制度になっています。外部の専門家が会社の管理を行なうことを「外部管理(external administration)」といいます。外部管理の手続には、(1)レシーバーシップ(receivership、(2)任意管理手続(voluntary administration、及び(3)清算手続(winding up3つの種類があります。

上記の「支払不能」とは、弁済期が到来した債務を弁済することができない状態をいいます。したがって、債務超過ではない会社であっても弁済期が到来した債務を弁済するに足りるキャッシュが無ければ支払不能となります。

上記の3種類の外部管理について、以下概要を説明します。

 

1.レシーバーシップ

レシーバーシップは、通常は、担保権を有する債権者が当該担保権の実行として担保提供者(会社)に対してレシーバー(receiver)を選任することによって開始されます。レシーバーシップは、倒産手続というよりは、担保権の実行方法の一つです。選任されたレシーバーは、選任を行なった債権者のために、担保権の対象となっている担保提供者の資産を管理・処分し、当該資産から回収した金銭を当該債権者に分配することによって当該債権者に対する債務を弁済します。オーストラリアでは、会社の全ての資産に対して担保権を設定する全資産担保が利用されることが多いですが、全資産担保権を有する担保権者が選任したレシーバーは、当該会社の全資産を管理する、すなわち当該会社の経営をコントロールすることができることになります。レシーバーシップは、債権者に対する債務が全て弁済された時点で終了するのが通常です。レシーバーシップに相当する制度は日本には存在しないといえます。

 

2.任意管理手続

任意管理手続は、日本の民事再生手続及び会社更生手続に相当する再生型手続です。任意管理手続は、支払不能状態にある会社のうち再建できる可能性があるものに対して、管財人(administrator)が選任されることによって開始されます。管財人を選任することができるのは、(1)会社(会社の取締役会)、(2)会社に対して全資産担保権を有する債権者、及び(3)清算人のいずれかに限られます。選任された管財人は、債権者全体の利益のために行動し、会社の事業・財務情況を調査した上で、債権者集会において、①「会社再生契約(deed of company arrangement)を締結した上で会社を存続させること」、又は②「会社を清算すること」のいずれかを提案します。債権者集会において①が承認された場合、会社は管財人との間で会社再生契約を締結し、その後、会社は会社再生契約に従って経営されます。通常は、会社再生契約によって債権者の債権は減額、弁済期の延期等がなされます。②が承認された場合、管財人は清算人となり、会社の清算手続を進めることになります。

 

3.清算手続

清算手続は、日本の破産手続に相当する清算型手続です。清算手続では、清算人(liquidator)が選任され、清算人が会社の資産を処分し、換金した金銭を債権者に分配した上で、会社の登記抹消手続を行って会社を消滅させます。

支払不能状態にある会社の清算手続には、「強制清算(compulsory winding up)」と「任意清算(voluntary winding up)」の2種類があります。

「強制清算」は、会社(会社の取締役会)又は債権者が裁判所に対して申請を行い、これに対して裁判所が清算命令を出し、清算人を選任することによって開始します。

「任意清算」は、株主総会の特別決議によって会社の清算を決議し、清算人を選任することによって開始します。

選任された清算人は、債権者全体の利益のために行動し、会社の債権を回収し、会社の財産を現金化した上で、会社の債権者に対して債権額に比例して弁済を行ないます。任意管理手続の場合には手続開始後も管財人が会社の事業活動を継続しますが、清算手続の場合には会社の事業活動は原則として停止されます(清算人は会社の資産の売却又は清算に必要な限度でのみ会社の事業活動を行なうことができます)。

清算人は債権者への弁済を行なった後、清算結果について裁判所の命令を得るか(強制清算の場合)、又は株主総会及び債権者集会の承認を受けます(任意清算の場合)。これらの命令又は承認がなされた後で、ASICは会社の登記を抹消し、会社は消滅することになります。