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外資規制

2020年11月 7日 (土)

オーストラリアの外資規制の変更(National Security Testの導入)

現在オーストラリアでは、国家安全保障を強化する観点から、外資規制(Foreign Acquisitions and Takeovers Act 1975 (Cth))を改正することが予定されています。

改正法案(Exposure Draft)は、こちらのウェブサイトでみることができます。

以前のブログ記事で説明したとおり、現行の外資規制では、「外国人」が「オーストラリアの会社、事業、土地等に対する権益を取得する行為」をする場合に、連邦財務大臣(FIRB)に届出を行い、その承認を得ることが必要になります。FIRBが承認をするか否かの判断の際には、対象行為が「オーストラリアの国益(National Interest)に反するか否か」という基準に基づいて判断を下します。このオーストラリアの国益が何であるかについては法令上定義されておらず、国益に反するか否かの判断には連邦財務大臣に広範な裁量が与えられています。国益に反するか否かの考慮要素としては、国家安全、競争、オーストラリア政府の政策、経済・コミュニティへの影響、投資家の属性等が挙げられています。これはNational Interest Testと呼ばれています。

今回の法改正では、この既存のNational Interest Testを残しつつ、National Security Testという国家安全のみを考慮要素とした新しい規制が導入されます。この法改正は本年中に立法化され、来年(2021年)11日から施行される予定です。その際には、今年(2020年)329日に導入された一時的な外資規制強化(FIRBの承認が必要になる金額基準(monetary threshold)がゼロになり、FIRBの審査期間が最長6ヶ月に延長された - 詳細については以前のブログ記事をご参照)は撤廃される予定です。すなわち、来年11日からは、National Interest Testの金額基準と審査期間が元に戻り、その上で、追加で新しいNational Security Testが導入される、ということになります。

今回導入されるNational Security Testの主な内容は、以下の1~3のとおりです。

1.Notifiable National Security Action

「外国人」(その定義は以前のブログ記事を参照)が以下の(A)又は(B)の「国家安全に関わる通知行為(Notifiable National Security Action)」を行う場合には、連邦財務大臣(FIRB)に通知を行い、その承認を得ることが必要になります。

(A)「National Security Business」に対して「Direct Interest(直接的権益)」を取得する行為、又は「National Security Business」を新たに開始する行為

「National Security Business」とは、以下の事業を指します(Foreign Acquisitions and Takeovers Regulations 2015 (Cth)の改正法案の10A 条)。

  • Security of Critical Infrastructure Act 2018 (Cth)又はTelecommunications Act 1997 (Cth)によって規制されている事業(電気・ガス・水道、港湾、電気通信など)
  • 重大な軍事・諜報用の製品・技術・サービスの開発・製造・供給を行う事業
  • 豪州政府に機密扱いを受けている情報を取り扱う事業
  • 豪州の軍隊・国防省・国家諜報機関が収集した軍事・諜報要員の個人情報(アクセスを許せば豪州の国家安全に影響を及ぼすもの)を取り扱う事業
  • 豪州の軍隊・国防省・国家諜報機関の委託を受けて軍事・諜報要員の個人情報(アクセスを許せば豪州の国家安全に影響を及ぼすもの)を収集し、又は取り扱う事業

「Direct Interest」とは、①事業/会社/信託の10%以上の権益を取得すること、②事業/会社/信託の5%以上の権益を取得し、取得者及び当該事業/会社/信託に関する法的なアレンジメントがとられること、又は③事業/会社/信託の経営及び支配若しくは方針決定に影響を及ぼし、又は参画できるようになること(取得する権益の割合にかかわらない)、を意味します(現行のForeign Acquisitions and Takeovers Regulations 2015 (Cth)16条)。

(B)①国防に使用するために連邦政府が所有又は占有しているオーストラリアの不動産、②国家諜報機関が権益を有しているオーストラリアの不動産(当該外国人が国家諜報機関の当該権益を認識していることが合理的に期待される場合に限る)、③連邦財務大臣が別途法令で指定する地域に含まれるオーストラリアの不動産、に対する権益を取得する行為

既存のNational Interest Testにおける「重大行為(Significant Action)」又は「通知行為(Notifiable Action)」と異なり、Notifiable National Security Actionには金額基準はないため、対象行為の金額的な大きさにかかわらず通知が必要になります。

2.Reviewable National Security Action:Call-in Power

「外国人」が以下に定義される「審査可能行為(Reviewable National Security Action)」を行う場合において、連邦財務大臣(FIRB)が当該行為が国家安全上の懸念を生じさせると考えるときは、当該行為について国家安全の観点から審査を行うことができるようになります(Foreign Acquisitions and Takeovers Act 1975 (Cth)の改正法案の37C条)。この連邦財務大臣(FIRB)の審査を行う権利は、Call-in Powerと呼ばれます。

「審査可能行為(Reviewable National Security Action)」とは、既存のNational Interest Test又は新しく導入されるNational Security Testに基づいて連邦財務大臣(FIRB)に対する通知・承認が必要とならない行為(すなわち、既存のNational Interest Testにおける「重大行為(Significant Action)」又は「通知行為(Notifiable Action)」に該当せず、かつ、新しく導入されるNational Security Testにおける「国家安全に関わる通知行為(Notifiable National Security Action)」にも該当しない行為)であって、以下のいずれかに該当するものをいいます(Foreign Acquisitions and Takeovers Act 1975 (Cth)の改正法案の37B条)。

  • オーストラリアの事業又はオーストラリアの事業を行っている会社/信託に対してDirect Interestを取得する行為
  • オーストラリアの不動産に対する権益を取得する行為
  • オーストラリアの事業を行っている会社/信託から証券の発行を受ける行為
  • オーストラリアの事業との間で重大な契約を締結又は終了する行為
  • オーストラリアの会社・信託の運営・役員に影響を及ぼせるような契約を締結する行為
  • オーストラリアの会社・信託の役員に影響を及ぼせるように定款・信託契約を変更する行為
  • オーストラリアの事業を開始する行為

ただし、連邦財務大臣(FIRB)は、Reviewable National Security Actionが行われてから10年経過した場合には、審査を行うことはできなくなります(同37C (2))。

また、Reviewable National Security Actionに該当する行為を行う者が、当該行為について任意で事前に連邦財務大臣(FIRB)に対して通知を行ったり、連邦財務大臣(FIRB)から承認を受けていた場合、若しくは、一定の期間内の一定の範囲内の行為について事前に連邦財務大臣(FIRB)から包括的な承認(Exemption Certificate)を得ていた場合には、連邦財務大臣(FIRB)は、Reviewable National Security Actionの審査を行うことはできません(同37C(4))。

3.Last Resort Power

 連邦財務大臣(FIRB)は一度審査を行い、承認をした行為について、以下のいずれかの事情がある場合には、再度、国家安全の観点から当該行為を審査することができるようになります(Foreign Acquisitions and Takeovers Act 1975 (Cth)の改正法案の73A条)。

  • 承認を得る際に、申請者が重大な点において虚偽又は誤解を招く情報を提供し、又は提供されなければ重大な点において虚偽又は重大な誤解を招くであろう情報を提供していなかった場合
  • 承認が出された後、申請者の事業、ストラクチャー若しくは組織又は申請者の活動内容について重大な変更があった場合
  • 承認が出された後、状況やマーケットに重大な変更があった場合

この連邦財務大臣(FIRB)の再審査を行う権利は、Last Resort Powerと呼ばれます。

連邦財務大臣(FIRB)は、再度の審査の結果、国家安全の観点から必要があると判断し、かつ、当該行為を行った者と国家安全上の懸念を助教するために誠実に協議を行い、かつ、その他の規制制度では国家安全上の懸念を除去できない場合には、当該行為について新たな条件を課したり、既存の条件を変更したり、又は当該行為の承認を取り消して当該行為が行われる前の状態に戻すように命令することができます。

 

今回導入されるNational Security Testの主な内容の説明は以上のとおりです。

改正法案はまだ審議段階にあるため、今後法案として成立するまでにNational Security Testの内容が変更される可能性がある点には留意ください。

2020年3月30日 (月)

COVID-19の影響によるオーストラリア外資規制の強化

【2021年1月10日追記:本記事に記載されているオーストラリアの外資規制の強化措置は、COVID-19に対応するための一時的な措置であり、2021年1月1日に終了しました。したがって、本記事に記載されている外資規制の強化措置は、2021年1月1日以降は適用されなくなっています。ただし、2021年1月1日からは、オーストラリアの外資規制に新しいNational Security Testが導入されています。National Security Testについては、こちらの記事をご参照ください。】

昨日2020年3月29日に、日本企業の対豪投資に大きな影響を与える法制度の変更が豪州連邦政府から発表されました。日本を含む外国企業の対豪投資について、外資規制当局(Foreign Investment Review Board:FIRB)の許可が必要になる金額基準(monetary threshold)がゼロになり、FIRBの許可判断期間が30日から6ヶ月に伸びることになりました。

この新しい規制は、2020年3月29日午後10時30分に効力が発生しましたので、この時点以降に締結される契約に適用されます。

豪州政府のウェブサイト:https://ministers.treasury.gov.au/ministers/josh-frydenberg-2018/media-releases/changes-foreign-investment-framework

これにより日本企業による豪州のM&A及び不動産投資は、元々は金額基準を満たさず許可が免除されていた小さな案件であっても、FIRBへの許可申請が必要になり、許可取得に最長で6ヶ月かかることになります。現在、豪州企業のM&Aや豪州の不動産投資案件を進めている、又は検討されている方々はご注意ください。

例えば、日本企業が小さな豪州の企業の100%買収をする場合、又は、日本企業が豪州のオフィス不動産を取得しようとする場合、これまでであれば買収金額が金額基準を満たさずFIRBの許可が必要なかったところ、今回の変更によりFIRBの許可の取得手続が必要になり、申請料と弁護士費用を合わせて数万豪ドルがかかり、買収のスケジュールも大きく遅れることになります。

Australian Financial Reviewの記事によると、COVID-19により困窮した(distressed)豪州の会社や資産が外資に安値で叩き売り(fire sale takeovers)されるのを防ぐための措置だそうです。

ただ、他方で、FIRBは、オーストラリアの企業や雇用を直接的に保護し、サポートするための投資であれば、FIRBの申請が優先的に審査されて素早く承認を出すと述べているので(こちらをご参照)、FIRBの申請の際に上記のように主張できれば、FIRBの承認を比較的早急に得ることができる可能性があります。

今回の変更では金額基準の要件は変更されていますが、その他のFIRBの要件は変更されていません(金額基準以外のFIRBの要件については、以前の記事を参照)。したがって、外国企業(外国政府投資家を除く)が単独で豪州企業の株式を20%未満取得する取引はFIRBの許可は必要になりません。また、外資買収法に定められているFIRBの例外(exemptions)もこれまで通り適用されると考えられます(以前の記事で紹介した不動産ファンドの持分取得にかかるexemptionなど)。

FIRBの規制の対象となる豪州の不動産取得には、豪州の不動産の期間5年(オプションによる延長期間を含む)を超える賃借権を取得することも含まれますので(以前の記事の「(12)FIRBの承認」の箇所を参照)、新たに期間が5年を超えるオフィスの賃貸借契約を締結しようとしている日本企業(又は日本の資本が20%以上入っている豪州企業)はFIRBの許可の取得手続が必要ということになります。特にすでにオーストラリアに進出していて、オフィスリース契約を更新しなければならない企業にとって、リース契約更新のためのFIRBの許可取得に6ヶ月もかかるというのは現実的ではありません。この点は、更新する期間を5年以下にするなどの対応が考えられます。

【2020年11月9日追記:その後に更なる法改正がなされて、2020年9月4日からは、既存の商業物件(オフィスや店舗)の賃貸借契約の更新については、基準金額が元に戻されることになり、金額基準を満たしていなければ、期間が5年超であっても、FIRBの承認は必要ないことになりました。既存の商業物件の賃貸借契約の更新についてのみ例外的に金額基準が元に戻されたのであり、その他の行為については金額基準はゼロのままです。】

2019年7月22日 (月)

FIRB承認について注意すべき点

1.FIRB承認の対象となる取得行為

【この項目の最後に201981日にFIRBへの照会結果を追記しています】

外国人がオーストラリアで事業を営む会社の株式やオーストラリアの事業に関する資産を取得(Acquire)する行為は、一定の条件を満たす場合、FIRBへの通知やFIRBの承認が必要になる「通知行為(Notifiable Action)」や「重大行為(Significant Action)」に該当します。

たとえば、以前の記事の「2.(1)(A)」の箇所でも述べたとおり、①外国人がオーストラリアで事業を営む会社の株式を取得し、②当該会社の総資産の価値又は当該株式の取得対価のいずれか高い方が基準値を超過しており、かつ③当該会社について外国人が単独で20%以上の権益を有することは、「重大行為」に該当します。

気をつけなければならないのは、この「取得(Acquire)」の定義には、「当該割合の持分を保有し始めることstarts to hold an interest of that percentage in the entity)」が含まれていることです(Foreign Acquisition and Takeovers Act 1975 (Cth)20条)。

たとえば、上記の①と②の要件が満たされていたものの、外国人が単独で取得する対象会社の株式が20%未満であったため、③の要件を満たさなかった場合、「重大行為」には該当しません。その後に、他の株主が株式の償還(redemption)等を行って他の株主の持株割合が減少し、当該外国人の持株割合が上昇して20%を越えることになった場合には、新たな「取得(Acquire)」があったとみなされて「重大行為」に該当することになります(したがって、FIRBの承認を取得することが必要になります)。

また、こちらの記事の「3.例外(Exemptions)」で述べたとおり、外国人が豪州の不動産に投資する不動産ファンド(上場・未上場)に対して一定割合(上場ファンドの場合は10%、未上場ファンドの場合は5%)以下の出資を行う場合には、FIRBの承認は必要になりません。しかし、当該ファンドが投資家からの持分の償還(redemption)に応じたこと等によって、外国人の持分割合が上記の割合を超過してしまう場合、このExemptionが適用されなくなってしまうため、注意が必要です。

201981日追記:外国人による投資後に、当該外国人の行為によらずして、当該外国人の持分割合が基準割合を超えることになった場合、上記の解釈のとおり新たな「取得」があったことになるかについて、FIRBに確認をとりました。FIRBからの回答によれば、「取得(Acquire)」の通常の意味には、取得者の何らかの行為(action)を伴うことが含まれており、「通知行為(Notifiable Action)」や「重大行為(Significant Action)」という言葉からしても何らかの行為(action)がとられることを想定していると解釈できるとのことです。この解釈は、Foreign Acquisition and Takeovers Act 1975 (Cth)の第81(1)でも「A foreign person who proposes to take a notifiable action must give a notice to the Treasurer before taking the action」と規定されており、「take」という動詞が使用されていることや、第16(1)の「propose to acquire an interest…」の定義でも「'make’an offer to acquire an interest」、「'make' or 'publish' a statement that invites a holder of a relevant interest to dispose of an interest」、「'take' part in negotiations with a view to acquiring an interest」というように積極的な行為を意味する動詞が使用されていることからも裏付けられるとのことでした。このFIRBの解釈によれば、外国人の行為によらずして当該外国人の持分割合が基準割合を超えることになった場合には、「通知行為」や「重大行為」があったことにはならず、FIRBへの通知やFIRBの承認は必要にならないといえそうです。ただ、FIRBからは、FIRBの回答はリーガルアドバイスではないため依拠することはできず、FIRBへ通知するか否かは弁護士にアドバイスを仰ぐべきであり、FIRBへの通知が必要か否か不明確な場合には保守的に考えてFIRBへの通知を出すことをお薦めするというコメントも受けています。】

2.FIRB承認の必要性の判断基準時

FIRB承認の必要性は、外国人による取得(Acquire)の時点で判断されます。

たとえば、以前の記事の「2.(1)(C)」の箇所も述べたとおり、①外国人がオーストラリアの土地に対する権益を取得し、かつ②当該土地に対する権益の取得が基準値を超過している場合には、「重大行為」に該当し、FIRBの承認を取得することが必要になります。この基準値は土地の権益の種類によって異なっており、「居住用地」や「更地の商業用地」は基準値がゼロであり、これらの権益を取得する場合には、「重大行為」に該当し、FIRBの承認を取得することが必要になります。

外国人が商業ビル(開発済の商業用地)を取得し、将来的にはその商業ビルを取り壊して更地にし、その上で居住用マンションを建設しようと考えていたとします。この場合、当該土地の性質は、「開発済の商業用地」⇒「更地の商業用地」⇒「居住用地」の順で変化していくことになります。しかし、外国人が取得する時点では当該土地は「開発済の商業用地」であるため、当該土地に対する権益の価値が基準値(取得する外国人が日本人又は日本企業の場合には1,154百万豪ドル)を超過していなければ、「重大行為」に該当せず、FIRBの承認は必要ないことになります。

2019年5月23日 (木)

外資規制:不動産を保有する会社の株式又はユニット・トラストのユニットを取得する場合

以前の記事(「オーストラリアの外資規制」)で外国人がオーストラリアの土地に対する権益を取得する際に適用される外資規制について説明をしました。ただ、この説明は簡略化しており、オーストラリアの土地を保有する会社の株式又はユニット・トラストのユニットを取得する場合については明確には説明していません。

そこで、今回はオーストラリアの土地を保有する会社の株式又はユニット・トラストのユニットを取得する際に適用される外資規制について詳細に説明します。

 

1.土地保有主体(land entities

まずは外資規制の対象となる土地保有主体の種類について説明します。

農業用地会社(agricultural land corporation豪州の農業用地に関する権利の価値が全資産価値の50%超を占める会社

農業用地信託(agricultural land trust豪州の農業用地に関する権利の価値が信託財産の価値の50%超を占めるユニット・トラスト

豪州土地会社(Australian land corporation豪州の土地に関する権利の価値が全資産価値の50%超を占める会社

豪州土地信託(Australian land trust豪州の土地に関する権利の価値が信託財産の価値の50%超を占めるユニット・トラスト

 

2.基準値(threshold

(詳細はForeign Acquisitions and Takeovers Act 1975 (Cth)(外資買収法)第52条及びForeign Acquisitions and Takeovers Regulations 2015 (Cth)(外資買収規制)第52条を参照)

 

(1)「農業用地会社」又は「農業用地信託」

「外国人」が「農業用地会社」の株式又は「農業用地信託」のユニットを取得し、当該株式又は当該ユニットの取得対価と当該外国人が取得済の農業用地に関する既存の権益の価値の合計金額が15百万豪ドルを超過する場合には、外資買収法における「重大行為」及び「通知行為」に該当します。外国人、重大行為と通知行為の意味については以前の記事をご参照ください。

例えば、農業用地会社又は農業用地信託が保有する全資産の価値が50百万豪ドルであり、外国人が当該農業用地会社の株式又は農業用地信託のユニットの20%を取得する場合、その取得対価は10百万豪ドルとなり、当該外国人がその他に農業用地に関する権益を有していないのであれば、15百万豪ドルの基準値を下回るため、FIRBの承認は必要になりません。

 

(2)基準値ゼロの場合

外国人が豪州土地会社(農業用地会社を除く)の株式又は豪州土地信託(農業用地信託を除く)のユニットを取得する場合において、当該豪州土地会社又は当該豪州土地信託が保有する「居住用地」及び「更地の商業用地」の合計価値が当該豪州土地会社又は豪州土地信託が保有する全資産の10%以上であるときは、適用される基準値はゼロであり、外資買収法における「重大行為」及び「通知行為」に該当します。

 

(3)その他の場合

A. 外国人が「agreement country investor」である場合

外国人が「agreement country investor」であり、当該外国人が豪州土地会社の株式又は豪州土地信託のユニットを取得し、かつ上記(1)又は(2)のいずれにも該当しない場合には、基準値は1,094百万豪ドルであり、当該株式又はユニットの取得対価が同金額を超過する場合には、外資買収法における「重大行為」及び「通知行為」に該当します。

※ agreement country investorとは、アメリカ、ニュージーランド、チリ、日本、韓国、中国、シンガポール等の会社又は個人をいいます(但し、「外国政府投資家」は除外されます - 外国政府投資家の意味については、以前の記事をご参照ください)(外資買収規制第5条)。なお、オーストラリアで設立された会社はagreement country investorとならないため、日本の会社の100%子会社であるオーストラリア子会社を通じてオーストラリアの権益を取得する場合には、当該子会社はagreemnt country investorには該当せず、より高い基準値が適用されることになるため、注意が必要です。日本の会社のオーストラリア子会社は外資買収法上の「外国人」に該当します。

 

B. 外国人が「agreement country investor」ではなく、対象土地が「sensitive land」である場合

外国人がagreement country investorではなく(たとえば、日本の会社のオーストラリア子会社であるなど)、当該外国人が豪州土地会社の株式又は豪州土地信託のユニットを取得し、上記(1)又は(2)のいずれにも該当せず、かつ当該豪州土地会社又は豪州土地信託が保有する土地が「sensitive land」に該当する場合には、基準値は55百万豪ドルであり、当該株式又はユニットの取得対価が同金額を超過する場合には、外資買収法における「重大行為」及び「通知行為」に該当します。

※ sensitive landとは、更地ではない「商業用地」であり、かつ豪州の政府機関に賃貸されていたり、sensitive business(メディア、通信、運輸等)や大量データの保存のために使用されていたり、公共のインフラ(地下鉄の駅など)が含まれているものをいいいます(外資買収規制第52(6))。

 

C. その他の場合

外国人が豪州土地会社の株式又は豪州土地信託のユニットを取得し、上記の(1)、(2)又は(3)AもしくはBのいずれにも該当しない場合、基準値は252百万豪ドルであり、当該株式又はユニットの取得対価が同金額を超過する場合には、外資買収法における「重大行為」及び「通知行為」に該当します。

 

なお、上記の基準値は毎年11日に更新されることになっており、20195月現在における金額は上記で記載したものよりも若干高くなっています。最新の基準値について、こちらのFIRBのウェブサイトをご確認ください。

 

3.例外(Exemptions

外資買収法及び外資買収規制には様々な例外が定められており、上記1.及び2.においてFIRBの承認が必要になる「重大行為」及び「通知行為」に該当することになった場合であっても、それらの例外に該当する場合には、FIRBの承認は必要になりません。その例外の一つとして、不動産ファンドに対して一定割合以下の出資を行う場合があります。

不動産ファンドは、通常は「豪州土地会社」や「豪州土地信託」に該当するといえますが、以下の場合には外国人が不動産ファンドの持分を取得してもFIRBの承認は必要になりません(外資買収規制37条)。

 

(1)上場している不動産ファンド

以下の3つの条件を満たしている場合には、FIRBの承認は必要になりません。

A. 不動産ファンドが上場しているファンドであること(豪州国内で上場しているか否かを問わない)

B. 取得する当該ファンドの持分が10%未満であること

C. 当該取得する外国人が当該ファンドの経営や支配に影響を与えたり、参加したりする立場には無く、かつ当該ファンドの方針に影響、参加又は決定する立場にも無いこと

 

(2)非上場の不動産ファンド

以下の4つの条件を満たしている場合には、FIRBの承認は必要になりません。

A. 不動産ファンドが上場していないこと(豪州国内の上場か否かを問わない)

B. 取得する当該ファンドの持分が5%未満であること

C.  当該取得する外国人が当該ファンドの経営や支配に影響を与えたり、参加したりする立場には無く、かつ当該ファンドの方針に影響、参加又は決定する立場にも無いこと

D. 当該ファンドが既存の住居(established dwellings)に直接又は間接に投資する事業を行っていないこと(※ 商業物件に投資するファンドであればこの要件は満たされます)

 

上記の例外は外国投資家がオーストラリアの不動産ファンドに投資する際に非常に重要な例外となっています。

2016年1月 1日 (金)

オーストラリアの外資規制

外国投資家(外国人や外国資本の企業)によるオーストラリアへの投資は、Foreign Acquisitions and Takeovers Act 1975 (Cth)(外資買収法)によって規律されています。この法律は2015121日に大きな改正がありましたが、本稿ではこの改正後の内容を説明します。

外資買収法では、「外国人」が「オーストラリアの会社、事業、土地等に対する権益を取得する行為」に対して、連邦財務大臣への事前届出による規制を課しています。連邦財務大臣に対する通知等は、連邦財務大臣の諮問機関であるForeign Investment Review BoardFIRB)(外国投資審査委員会)を通じて行なわれます。 

規制の詳細は以下のとおりですが、基準値の適用が無い、若しくは基準値が比較的低く設定されている「アグリビジネス」や「オーストラリアの不動産」に対する権益の取得、又は基準値の適用が無い「外国政府投資家による行為」は気をつけなければなりませんが、それ以外の投資行為については基準値が高く設定されており、大規模な投資行為でなければ連邦財務大臣に対する通知等は必要にならないといえます。

1.規制対象者

規制の対象となる「外国人(Foreign Person)」とは、基本的には以下の(A)~(D)のいずれかに該当する者をいいます。

A)オーストラリアに通常居住していない個人

B)オーストラリアに通常居住していない個人、外国会社(外国で設立された会社)又は外国政府が単独で20%以上の権益を有する会社

C)オーストラリアに通常居住していない個人、外国会社(外国で設立された会社)又は外国政府が複数で合計40%以上の権益を有する会社

D)外国政府

2.規制対象行為

規制対象行為には、「重大行為(Significant Action)」と「通知行為(Notifiable Action)」の2種類があります。

(1)重大行為

外資買収法では、以下の(A)~(D)のような行為が重大行為とされています。連邦財務大臣の承認を得ずに重大行為が行なわれた場合、連邦財務大臣は当該重大行為の中止又は取消を命令することができます。重大行為について連邦財務大臣への通知は法律上義務付けられていませんが、通知を行なわずに重大行為を行なって後で連邦財務大臣によって当該重大行為の中止又は取消の命令を受けるリスクを避けるために、重大行為については事前に任意の通知を行なうのが通常です。

A)①外国人がオーストラリアで事業を営む会社の株式を取得し、②当該会社の総資産の価値又は当該株式の取得対価のいずれか高い方が基準値(当該外国人が日本人又は日本企業の場合は原則として1,094百万豪ドル、例外的に取得対象がメディア、通信、運輸等のSensitive Businessの場合は252百万豪ドル)を超過しており、かつ③当該会社が外国人によって支配(当該会社について外国人が単独で20%以上又は複数で40%以上の権益を有することを含む)されること。

B)①外国人がオーストラリアでの事業に関する資産を取得し、②当該取得の対価が基準値(当該外国人が日本人又は日本企業の場合は原則として1,094百万豪ドル、例外的に取得対象がメディア、通信、運輸等のSensitive Businessの場合は252百万豪ドル)を超過しており、かつ③当該事業が外国人によって支配(当該事業について外国人が単独で20%以上又は複数で40%以上の権益を有することを含む)されること。

C)①外国人がオーストラリアの土地に対する権益(鉱業権や5年を超える賃借権を含む)を取得し、かつ②当該土地に対する権益の取得が以下の基準値を超過している場合

(a)権益取得対象土地が「居住用地」、「更地の商業用地」、「鉱業権」、「外国政府投資家によって取得される土地」の場合:基準値はゼロであり、これらの土地に関する権益の取得の場合は常に基準値は超過しているとみなされる。

(b)権益取得対象土地が「農業用地」の場合:取得対象の農業用地に関する権益の取得対価と当該外国人が取得済の農業用地に関する既存の権益の価値の合計金額が15百万豪ドルを超過している場合。

(c)権益取得対象土地が上記以外の土地(たとえば、開発済の商業用地)である場合:取得対象の土地に対する権益の価値が1,094百万豪ドル(取得する外国人が日本人又は日本企業の場合)を超過している場合

D)①外国人が「アグリビジネス」(農業、林業、漁業、牧畜、園芸、一定の食品加工業等)を行なっているオーストラリアの会社又は事業に対する「直接的な権益(Direct Interest)」を取得し、②当該取得の対価と当該外国人が当該会社又は事業に対して有している既存の権益の価値の合計金額が基準値(55百万豪ドル)を超過している場合

「直接的な権益」の取得とは、以下の(a)(c)のいずれかに該当するものをいいます。

a)会社又は事業に対する10%以上の権益の取得

b)会社又は事業に対する5%以上の権益を取得し、かつ当該会社又は事業との間でビジネス上の契約関係に入ること

c)会社又は事業の経営に関与し、又は影響を与えることができるようになること

(2)通知行為

外資買収法では、以下の(A)~(C)の行為が通知行為とされており、連邦財務大臣に対する事前の通知が必要になります。

A)①外国人がオーストラリアで事業を営む会社の株式を取得し、かつ②当該会社の総資産の価値又は当該株式の取得対価のいずれか高い方が基準値(当該外国人が日本人又は日本企業の場合は原則として1,094百万豪ドル)を超過している場合

B)①外国人がオーストラリアの土地に対する権益(鉱業権や5年を超える賃借権を含む)を取得し、かつ②当該土地の権益の取得が上記(1)(C)の基準値を超過している場合

C)①外国人が「アグリビジネス」(農業、林業、漁業、牧畜、園芸、一定の食品加工業等)を行なっているオーストラリアの会社又は事業に対する「直接的な権益(Direct Interest)」を取得し、かつ②当該取得の対価と当該外国人が当該会社又は事業に対して有している既存の権益の価値の合計金額が基準値(55百万豪ドル)を超過している場合

(3)外国政府投資家による行為

外国政府投資家(Foreign Government Investor」(外国政府、外国政府が20%以上の権益を保有している会社等)による以下の(A)~(D)の行為は、「重大行為」かつ「通知行為」に該当します。この場合、基準値の適用はありません。

A)オーストラリアの会社又は事業に対する「直接的な権益(Direct Interest)」の取得

B)オーストラリアにおける事業の開始

C)オーストラリアの鉱業権・探査権の取得

D)オーストラリアの鉱業権・探査権の価値が総資産の価値の50%超となっている会社の10%以上の株式の取得

(4)オーストラリアのメディアビジネスへの投資

外国人がオーストラリアのメディアビジネス(日刊新聞発行、テレビ・ラジオ放送事業)を行なっている会社又は事業に対する権益の5%以上を取得する行為は、「重大行為」かつ「通知行為」に該当します。この場合、基準値の適用はありません。

3.連邦財務大臣による審査

重大行為又は通知行為について連邦財務大臣(FIRB)に対する通知がなされた場合、連邦財務大臣は40日(30日の審査期間+10日の通知・公告期間)以内に無条件承認、条件付承認又は不承認のいずれかの結論を出すことになります。審査期間は最大で90日間延長されることがあります。

連邦財務大臣は、対象行為が「オーストラリアの国益(National Interest)に反するか否か」という基準に基づいて、当該行為に対する判断を下します。このオーストラリアの国益が何であるかについては法令上定義されておらず、国益に反するか否かの判断には連邦財務大臣に広範な裁量が与えられています。国益に反するか否かの考慮要素としては、国家安全、競争、オーストラリア政府の政策、経済・コミュニティへの影響、投資家の属性等が挙げられています。

なお、連邦財務大臣に対する通知の際には、手数料(詳細については、こちらを参照)を支払う必要があります。

4.罰則

通知行為について事前通知を行なわない場合、重大行為について任意の通知を行なったのに連邦財務大臣の承認を得る前に重大行為を行なう場合、連邦財務大臣の命令に違反する場合等には、違反者に対して刑事罰又は/及び民事制裁が課されることになります。罰則の詳細については、Australia's Foreign Investment PolicyのAnnex 3でまとめられています。