オーストラリアにおいて外国判決の執行を行う方法は、一般的には、(1)1991年外国判決法(Foreign Judgments Act
1991 (Cth))という制定法に基づく方法、及び(2)コモンロー(判例法)に基づく方法、の2種類の方法があります。
1.外国判決法に基づく方法
この方法では、外国判決の執行を求める者は、オーストラリアの裁判所に対して申請を行って、外国判決を登録する必要があります。登録された外国判決は、オーストラリア国内の判決と同等の効力を有することになります。
外国判決法は、その下位規則である1992年外国判決法規則(Foreign Judgments
Regulations 1992(Cth))に規定されている外国の裁判所に対してのみ適用されます。日本の最高裁判所、高等裁判所、地方裁判所及び家庭裁判所は、同規則に規定されていますが、日本の簡易裁判所は規定されていません。したがって、日本の簡易裁判所の判決の執行を外国判決法に基づいて行なうことはできません。その他に、フランス、ドイツ、イギリス、シンガポール、韓国、香港の裁判所は同規則に規定されていますが、アメリカ、中国の裁判所は同規則に規定されていません。したがって、アメリカや中国の裁判所の判決をオーストラリアで執行する場合には、外国判決法に基づく方法ではなく、以下の2.で説明するコモンローに基づく方法で行なう必要があります。
外国判決法に基づき外国判決の登録を行うためには、外国判決の原告はオーストラリアの裁判所における判決登録手続において、以下の要件が満たされていることを示す必要があります。
(1) 金銭の支払を命ずる確定判決であること(外国判決法第5条(4))
(2) 判決日から6年以内に判決の登録の申請を行うこと(外国判決法第6条(1))
(3) 判決が完全に履行済ではないこと(外国判決法第6条(6)(a))
(4) 判決を出した当該外国において判決が執行可能であること(外国判決法第6条(6)(b))
外国判決の登録に関する手続は、判決の被告を関与させること無く進めることができますが、登録がなされた場合には、その旨が被告に通知されることになります。登録の通知を受けた被告は、以下のような事由があることを示すことができれば、外国判決の登録を取り消すことができます(外国判決法第7条)。
(1) 原裁判所が裁判管轄権を有していなかったこと
(2) 原裁判において被告に対して訴訟手続の送達が適切になさていなかったこと
(3) 外国判決が詐欺行為によって得られたものであること
(4) 外国判決の執行がオーストラリアの公序に反するものであること
2.コモンローに基づく方法
コモンローに基づく外国判決の執行を行う場合、外国判決法に基づく方法と異なり、外国判決の執行を求める者は、オーストラリアの裁判所において裁判手続を行い、以下に説明する要件を満たしていることを立証する必要があります。この裁判手続では被告に対して送達がなされ、被告も裁判手続に関与することになります。
裁判手続が必要になるという点で、外国判決法に基づく方法よりも手間がかかることになりますが、外国判決法の適用対象とならないアメリカや中国の裁判所の判決の執行については、このコモンローに基づく方法で行う必要があります。
コモンローに基づく外国判決の執行を行なうためには、裁判所に対して以下の要件を満たしていることを立証する必要があります。
(1) 原裁判所(外国裁判所)がオーストラリアの裁判所が認める国際管轄権を有していること
(2) 確定判決であること
(3) 外国判決の当事者とオーストラリアでの執行に関する裁判手続の当事者が同一であること
(4) 確定した金額又は容易に計算可能な金額の支払いに関する判決であること(金銭の支払以外を内容とする外国判決の執行も可能ですが、要件が複雑であるためここでは説明を割愛します)
なお、(1)の要件については、被告が原裁判所(外国裁判所)の管轄地域に居住していた場合や原裁判所の管轄権に合意していた場合(契約書の裁判管轄権に関する規定で原裁判所の管轄権を認めている場合や裁判所の裁判手続において積極的に応訴を行っている場合等)には満たされることになります。
被告は、外国判決の執行に関するオーストラリアの裁判手続において、以下のような抗弁を出すことにより、外国判決の執行を認めないようにオーストラリアの裁判所に求めることができます。
(1) 外国判決が詐欺行為によって得られたものであること
(2) 外国判決の執行がオーストラリアの公序に反するものであること
(3) 原裁判所(外国裁判所)における裁判が手続的な適正さを欠いていたこと(被告に対して適切な送達がなされていなかったこと、裁判事項について利害関係を有しており中立的ではない裁判官が裁判を行なった場合等)
上記のオーストラリアの裁判手続において外国判決の執行を認める判決が出された場合、原告は当該判決に基づいて被告に対する執行を行なうことができます。