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動産担保法

2018年3月16日 (金)

オーストラリアの動産担保法

以前の記事で動産担保法の概要について説明しましたが、今回は動産担保法のより具体的な内容について説明します。

1. 担保設定者の特定方法

動産担保登記簿(Personal Property Securities RegisterPPSR)のシステムでは、担保設定者がどのような動産担保を登記しているかを調べることができます。

·  個人(自然人)の動産に対して動産担保登記を設定する際には、「氏名」と「生年月日」で担保設定者となる個人を特定します。

·   会社(法人)の動産に対して動産担保登記を設定する際には、「会社名」と「ACNAustralian Company Number)」と「ABNAustralian Business Number)」で担保設定者となる会社(法人)を特定します。

·   信託の動産(信託財産)に対して動産担保登記を設定する際には、信託の「名称」と「ABN」で担保設定者となる信託を特定します。受託者の名前やACNで動産担保を登記した場合、受託者の固有の動産に対する動産担保登記となり、信託財産に対する動産担保登記とはならないので注意が必要です。

2. 動産担保登記しないことの不利益

動産に対して担保を設定したにもかかわらず、これをPPSRに登記していなかった場合、当該無登記の動産担保は、同じ動産に対して担保を設定して登記した動産担保権者や同じ動産について所有権や賃借権を取得した第三者に対抗することができません(43条)。また、担保設定者に対して倒産手続が開始された場合、PPSRに登記されていなかった動産担保は消滅します(登記していなかった動産担保権者は無担保となります)(267条)。

特に担保設定者が会社である場合には、担保設定から20営業日以内にPPSRへの登記を行わなければならず、20営業日以内にPPSR登記を行わない場合、会社が担保設定から6ヶ月以内に倒産手続を開始した際には、その後にPPSR登記を行ったとしても当該担保を当該会社に対して対抗できなくなる可能性があります(会社法588FL条)。

3. 動産担保の範囲

動産担保登記法(Personal Property Securities Act 2009 (Cth))では、担保権(Security Interest)は、以下のように定義されており、非常に広範なものとなっています(12(1))。

An interest in personal property provided for by a transaction that, in substance, secures payment or performance of an obligation (without regard to the form of the transaction or the identity of the person who has title to the property)(支払いや義務の履行を実質的に担保する取引によって設定された動産に対する権益(取引の形態や当該動産の所有権者が誰であるかは問わない))

このような広範な定義となっているため、担保権設定契約によって動産に担保権を設定した場合はもちろんのこと、実質的には担保付貸付取引といえる所有権を留保して動産を売却した場合やファイナンスリースにより動産を引き渡した場合も売却された動産やリースで引き渡された動産に対して、動産担保法上の担保権が設定されていることになります。したがって、これらの担保権をPPSRに登記していなかった場合、動産の購入者やリース賃借人が倒産した場合には、担保権が消滅し、売主やリース賃貸人は動産の引渡しを求めることができなくなります。

これに加えて、動産担保法では、「みなし担保権」(Deemed Security Interest)という概念も定められています。主として以下の4種類の取引が「みなし担保権」を設定したとされます(12(3))。上記の担保権の定義に該当しないものであっても以下のいずれかに該当するものは「みなし担保権」として動産担保法の適用を受けることになります。

·   一定の期間(2年間)を超える動産の賃貸借(PPS lease)における賃貸人

·   金銭債権を譲り受けた者(いわゆるファクタリング)

·   契約上の債権を譲り受けた者

·   寄託契約により寄託を行った者

これらの取引は実質的に担保を設定したものといえるか否かが判別しにくい場合があるため(たとえば、実質的に担保付貸付といえるファイナンスリースと通常の賃貸借といえるオペレーティングリースは区別が難しい場合がある)、一律にみなし担保権を設定したものとし、PPSRにおける登記を要求することによって同じ動産に対して権利(所有権や担保権)を取得した者との対抗関係の明確化を図ることにしています。たとえば、PPS
leaseの動産の賃貸人がそのみなし担保権をPPSRに登記していなかった場合、賃借人が勝手に当該動産について第三者のために担保権を設定し、登記すると、賃貸人は当該第三者の担保権に対して対抗できなくなります。

4. 担保の優先順位

動産担保の優先順位は、原則として、動産担保の登記の順番によって決まります。すなわち、同じ動産に対してなされた2017121日になされた動産担保登記と201821日になされた動産担保登記があった場合、前者が後者に優先することになります。しかし、これにはいくつかの例外があり、主な例外としては以下の2つがあります。

(1)Purchase Money Security InterestPMSI

売買代金の全部又は一部を担保する動産に対して設定された担保権(たとえば、所有権を留保した動産売買において当該動産に対する売主の担保権)や融資を受けて取得した動産に対して融資者が有する担保権(たとえば、ファイナンスリースにおいて融資者がリース動産に対して有する担保権)はPMSIとなり、他の先順位で登記された動産担保(たとえば、担保設定者の全資産に対して先順位で登記された担保権)に優先します。ただし、PMSIとして認められるためには、一定の期間内にPPSRに担保権が登記される必要があります。この一定の期間とは、担保物である動産が担保設定者の在庫品(Inventory)となる場合には担保設定者が当該動産の占有を取得するまでの期間をいい、担保物である動産が在庫品以外である場合には担保設定者が当該動産の占有を取得してから15営業日の期間をいいます(62条)。在庫品の場合には繰り返し継続的に取引がなされるのが通常であり、そのような継続的な取引関係が開始する時点で在庫品全体を担保物とするする包括的な動産担保をPPSRに登記することが想定されているためです。動産担保がPMSIであるか否かはPPSRの登記において明示されているため、PPSRを調査することによって確認できます。

(2)担保物の支配(Control

担保権を設定した動産担保物を担保権者が支配(Control)している場合には、当該担保権者の当該動産担保物に対する担保権は、他の登記された担保権に対して優先します。よくある例として、非上場会社の株式の場合、当該株式の譲渡に必要な書類である当該株式の株式証書(Share Certificate)と担保権設定者が署名済で譲受人欄が未記入の譲渡証書(Instrument of Transfer / Transfer Form)の交付を受けることで担保権者は当該株式の支配を得ることができるとされています(27(3))。株式証書と譲渡証書の説明については、こちらの記事をご参照ください。したがって、株式に対して担保権を設定する場合、担保権者はPPSRに動産担保を登記するだけでは不十分であり、株式証書と譲渡証書まで取得して支配をしておかなければ、他の者が同じ株式に担保権を設定して株式証書と譲渡証書を取得して、PPSRの登記に優先してしまう可能性があることになります。

5. Serial Numberのある動産

Serial Number(通し番号)のある動産(自動車、船舶、航空機、建機等、また、商標権、特許権等の登録番号のある知的財産権)に担保権を設定してPPSRに登記する場合、Serial Numberを明記してPPSRへの登記を行う必要があります。Serial Numberを明示した上でPPSRへの登記をしていなかった場合、当該動産を担保設定者から取得した第三者に対して当該動産への担保権を対抗することはできなくなります(44条)。

6. 動産担保登記法の適用範囲

オーストラリアの動産担保法は、担保物である動産がオーストラリアに所在する場合又は担保設定者がオーストラリアの法人又はオーストラリアで事業を行っている外国法人である場合には、適用されます(6(1))。したがって、日本のリース会社がオーストラリアの法人に対してファイナンスリースを提供し、リースの対象動産に担保権を有することになる場合、この担保権をPPSRに登録しなければなりません。特に担保権がPMSIに該当する場合、上記4.(1)で述べた所定期間内にPPSRに登録しなければPMSIとして認められなくなってしまいます。

日本の会社がオーストラリアの会社と行っているファイナンスリース取引や所有権留保売買取引には、きちんとPPSRの動産担保登記を行っていないものが多く見られるため注意が必要です。 

2015年5月12日 (火)

オーストラリアにおける動産担保登記

オーストラリアには、動産(Personal Property)の担保を登記する制度があります。ここでいう動産とは、基本的に不動産以外のあらゆる種類の財産を指し、設備、自動車、在庫製品等のみならず、株式、有価証券、現金・銀行預金、知的財産権等も含まれます。

債権者が動産を担保にとった場合、動産担保登記を行って担保権を確実なものにします。動産担保登記を行わないと、後から同一動産に対して設定された担保権の方が優先したり、担保権設定者に破産手続が開始された場合に担保権が消滅したりしてしまいます。

この動産担保登記の情報は、Australian Financial Security Authorityが管理する動産担保登記簿(Personal Property Securities Register )のウェブサイトで入手することができます。所定の金額(数ドル程度)を支払えば、誰でもオンラインで入手することができることになっています。

上記の動産担保登記簿において、取引相手(会社又は個人)の名前で検索を行えば、取引相手の財産(動産)について担保権登記がなされているかどうかを確認することができます。動産担保登記の情報には、担保物、担保権者、担保権設定者、登記日等の情報が含まれています。なお、動産担保登記簿は動産担保のみを対象としているため、不動産担保について確認するためには、不動産の登記情報を取得して確認する必要があります(不動産の登記情報の取得方法については、前回の記事を参照)。

なお、日本と異なり、オーストラリアでは、担保権設定者の全ての資産(将来取得する資産を含む)を対象として一括して担保権を設定すること(全資産担保と呼ばれます)が可能であり、また、一般的に行われています。たとえば、銀行が会社に対してコーポレートローンを行う場合等には、この全資産担保を取ることがよくあります。この全資産担保は、動産担保登記簿では「all present and after-acquired personal property」と表示されています。