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ファイナンス法

2019年5月22日 (水)

プロジェクト案件における担保権の設定及び実行(2)

前回の記事からの続きです。

 

(3)担保権の実行

担保契約には、担保権者による担保権の実行が可能となるEvent of Default(デフォルト事由)が定められています。債務者にEvent of Defaultが発生した場合、担保権者は担保権を実行することができます。

担保権の実行方法には、代表的なものとして、「レシーバー(Receiver)の選任」と「担保権者による担保物の売却」があります。その他の担保権の実行方法としてForeclosure(担保権者自身が担保不動産の所有権を確定的に取得する担保実行方法)などがありますが、実務ではほとんど利用されませんので、ここでは割愛します。

「レシーバーの選任」の場合、担保権者はレシーバー(外部の専門家)を選任して(担保権者とレシーバーの間でレシーバー選任契約を締結する)、これをASIC(会社登記機関)等に通知することによって担保権が実行されます。レシーバーは、債務者の担保物を債務者に代わって(債務者の代理人として)管理・処分することができ、担保物を運用してその収益を債務の返済に充てたり、担保物を売却してその売却利益を債務の返済に充てたりすることができます。

なお、清算手続(Liquidation / Winding Up)が開始された場合を除き、通常はレシーバーが担保物を売却する場合には、担保権設定者に代わっての売却(担保権設定者の立場としての売却)となるため、担保権設定者自らが売却した場合と同様に、担保物に対して登記されたその他の権利(後順位の抵当権等)は自動的には消滅しません。そのため、担保物に対して登記されたその他の権利(後順位の抵当権等)を消滅させるためには当該権利保有者の同意が必要になります。

レシーバーの制度に関する詳細については、以前の記事(「オーストラリアの倒産手続(外部管理)」「オーストラリアの倒産手続(外部管理)について留意すべき点」)もご参照ください。

「担保権者による担保物の売却」の場合、上記のレシーバーが担保権設定者の立場にステップインして担保物を売却する場合と異なり、第一順位の担保権者による担保物の売却によって後順位の担保権は当然に(すなわち後順位の担保権者の同意なしに)消滅します(Real Property Act 1900 (NSW)59条、Personal Property Securities Act 2009 (Cth)133条等)。担保権者は、 担保権設定者等に対して「デフォルト通知(Notice of Default)」を出します(Real Property Act 1900 (NSW)57条、Personal Property Securities Act 2009 (Cth)130条等)。このデフォルト通知には、一定期間内に担保権設定者がデフォルトを治癒しない場合には担保権者が担保物を売却する権限を行使することを記載します。期間内にデフォルトが治癒されない場合、担保権者は担保物の売却を行うことができます。

なお、レシーバーによる売却でも担保権者による直接の売却の場合でも同様ですが、この売却は裁判外で行われるものであり、裁判所等の公的機関の関与は必要としません。売却の方法は、競売(入札)でも任意売却でもかまいません。ただし、レシーバーや担保権者は、担保物の売却に際して市場価格以上で売却するように合理的に努力する義務等の一定の責任を負っています。この義務を果たすために第三者の評価機関から担保物の鑑定評価を取得したり、担保物の売却について十分な広告が行われるのが一般的です。

レシーバーを選任すれば担保物の管理・処分についてレシーバー(外部専門家)に任せられるため、レシーバーの選任が担保権の実行方法として最も一般的なものとなっています。担保権者による担保物の売却が行われるのは後順位担保権者の同意が取得できない場合等に限られるのが通常です。

オーストラリアにおける担保権の実行は、基本的に裁判所等の公的機関の関与が不要なこともあり、日本における担保権の実行と比べて容易であるといえます。

プロジェクト案件における担保権の設定及び実行(1)

オーストラリアのインフラ・不動産開発プロジェクトにおけるファイナンスにおいては、プロジェクトの主体(Entity:権利義務の帰属主体)となるSPV(会社又は信託)が設立され、当該SPVがプロジェクト資産を取得・保有し、建設業者等の各種外部業者との契約を締結し、金融機関等からローンの提供を受ける主体となります。

 

(1)担保物

プロジェクトの主体であるSPVに対してローンが提供される場合、ローン提供者は以下の3つの担保権を設定するのが一般的です。

ASPVの全資産に対する担保権

BSPVの保有する不動産に対する抵当権

CSPVの親会社が保有するSPVの株式又はユニットに対する担保権

Aに関して、日本と異なり、オーストラリアでは、担保権設定者の全ての資産(将来取得する資産を含む)を対象として一括して担保権を設定すること(全資産担保と呼ばれます)が可能であり、また、一般的に行われています。この点、日本では、SPVの資産を担保に取ろうと思った場合、SPVの有している債権、動産等に個別に担保権を設定する必要があります。全資産担保は、動産担保登記簿(Personal Property Securities Register)に登記することによって対抗要件を具備します。

Bに関して、Aの全資産担保の例外として、不動産担保については不動産登記簿に登記する必要があり、当該登記手続に必要となるため、全資産担保契約とは別に不動産抵当権設定契約を作成し、不動産抵当権を不動産登記簿に登記することになります。

Cに関して、SPVの株式又はユニットを担保に取ることにより、SPVの株式又はユニットの売却という担保実行が可能となります。株式・ユニットに対する担保権の設定は動産担保登記簿に登記することによって対抗要件を具備しますが、これだけでは不十分であり、株式・ユニット証書と譲渡証書まで取得して支配をしておく必要があります。詳細については、以前の記事(「動産担保法の各論」の「4. 担保の優先順位」の(2)担保物の支配)をご参照ください。

 

(2)担保信託(Security Trust

この担保信託の項目は、特にローンがシンジケートローンによって行われる場合の話になりますが、担保権の取得主体として、レンダーは担保信託(Security Trust:担保権の保有・管理・実行を行う信託)を設定し、担保信託受託者(Securitee Trustee:アレンジャー銀行の関連会社又は信託受託の専門業者であることが多い)に担保権を取得させて、担保信託受託者を通じて担保権の管理・実行を行うことが多いといえます。

担保信託を利用することによって、担保権の保有・管理・行使を担保信託受託者に一元化できることや、ローン債権の譲渡(ローン債権者の変更)によって担保権者の変更が必要にならないこと等のメリットがあります。

レンダーは担保信託契約(Security Trust Deed)の受益者として、担保信託受託者がレンダーのために保有する当該担保権の利益を受けることになります。レンダー(受益者)の担保信託受託者に対する権利(受益権)について特に第三者への対抗要件を備えることはありません。担保信託受託者は借入人その他の担保設定者と担保権設定契約を締結します。これにより担保信託受託者は借入人その他の担保設定者の財産に対して担保権を設定し、担保信託契約の受益者であるレンダーのために、レンダーの指示に従って信託財産である担保権を保持・管理します。

動産担保登記簿及び不動産登記簿では、担保信託受託者の名義で担保権が登記されることになります。

レンダーは、担保信託契約に従って、担保信託受託者に対して担保権の実行等の指示を出すことになります。通常は担保信託受託者は、レンダーの多数決(ローン金額の過半数や3分の2超など)による指示に従うようになっています。

 

長くなったので次回に続きます。

2019年5月18日 (土)

メザニンファイナンス(Mezzanine Finance)

オーストラリアではインフラ・不動産開発プロジェクトに対するファイナンスにおいて日本の金融機関が大きな役割を果たしています。オーストラリアは政治体制・法制度が安定しており、日本よりも多くの金利がとれることから日本の金融機関にとって魅力的な市場となっています。

オーストラリアのインフラ・不動産開発プロジェクトの資金提供源は、大まかにいうと、(1)エクイティ、(2)シニアローン、(3)メザニンローンの3つが挙げられます。

「エクイティ」は、プロジェクトの実行主体(ディベロッパーなど)が提供するもので、プロジェクトのEntityとなるSpecial Purpose Vehicle(SPV)へエクイティ出資(SPVが会社であれば株式引受、SPVが信託であればUnit(信託受益権)の引受)という形で提供されます。

「シニアローン」は、主に金融機関(銀行、保険会社など)が提供するもので、プロジェクトのEntityであるSPVに対する貸付という形で提供されます。大規模なプロジェクトで多額の貸付が必要になる場合には、シンジケーション方式により複数の金融機関によって提供されるのが一般的です。

「メザニンローン」は、シニアローンと同じく、プロジェクトのEntityであるSPVに対する貸付という形で提供されることが多いですが、回収の優先度ではシニアローンに劣後し、シニアローンが全額回収されるまで返済を受けることはできないのが通常です。ただ、その分だけ、メザニンローンの金利はシニアローンよりも大幅に高いのが通常です。

イメージを持ちやすくするための例としては、不動産開発プロジェクトについて、プロジェクト全体に要する資金の20%をディベロッパーがエクイティで提供し、60%を金融機関がシニアローン(金利5%)で提供し、残りの20%をファンドがメザニンローン(金利18%)で提供するといったものが考えられます。

エクイティとシニアローンでプロジェクト資金の全額をカバーできればよいのですが、最近では、オーストラリアの金融機関のプロジェクトの評価や貸付審査が厳しくなっているため、また、ディベロッパーの資金状態に余裕があまりなくなってきている事情もあり、エクイティとシニアローンではプロジェクトに要する資金をカバーできず、メザニンローンを第三者の資金提供者(ファンド、ノンバンクなど)からメザニンローンを受けて不足する資金をカバーする必要性が高くなっています。また、このメザニンローン市場の拡大に目をつけた多くのオーストラリア国内外のファンドやノンバンクがメザニンローン市場に参入してきています。

メザニンローンには様々な方式があります。上記では、メザニンローンは、プロジェクトのEntityであるSPVに対する貸付という形で提供されることが多いと書きましたが、プロジェクトのEntityであるSPVの親会社に対する貸付という形で提供されることもあります。この場合、SPVが自らが借り入れているシニアローンを全額弁済して親会社に対して配当ができるようになるまでSPVの親会社はメザニンローンを弁済できないことになるため、ストラクチャー上、親会社が借りているメザニンローンはSPVが借りているシニアローンに劣後することになります(Structural Subordinationと呼ばれます)。さらに、別の形式としては、SPVの消却優先株式・ユニット(Redeemable Preference Shares)の発行を引き受けるという形もあります。ただ、これらのStructural SubordinationRedeemable Preference Sharesの方式は、メザニンレンダーの保護の観点からは、SPVに対する貸付方式には劣ります。

メザニンローンの最も一般的な形式は、上記のSPVに対する貸付の方式であると思います。この場合、メザニンローンの貸付契約・担保契約は、シニアローンの貸付契約・担保契約とほぼミラーで作成することが多いです。契約書の内容(コベナンツ、デフォルト事由等)がシニアローンとメザニンローンで異なると借入人(SPV)の立場からするとローンの管理が煩雑となるためです。ドキュメンテーションでは、まず借入人とシニアレンダーがシニアローンの貸付契約・担保契約を作成し、ある程度固まったところで、それらをベースにして借入人がメザニンレンダーとメザニンローンの貸付契約・担保契約のドキュメンテーションを始めることが多いといえます。

シニアレンダーはSPV(借入人)の全ての資産を担保に取るのが通常ですが、メザニンレンダーもシニアレンダーと同じ担保を取得します。ただ、担保からの回収において、メザニンレンダーはシニアレンダーに劣後します。この優劣関係の定め方として、シニアレンダーとメザニンレンダーが共同で担保権を設定・保有して、担保物から弁済を受ける順位についてシニアレンダーとメザニンレンダー間の合意で定める方法と、シニアレンダーとメザニンレンダーがそれぞれ独自に担保権を設定・保有して、シニアレンダーの担保権がメザニンレンダーの担保権に優先するように登記する方法があります。

シニアレンダーとメザニンレンダーの間では債権者間協定書(Intercreditor Deed)を締結して債権の優劣や担保権の行使方法等について定めるのが通常です。一般的には、借入人(SPV)がデフォルトした場合、シニアレンダーが主導権を持って担保権の行使・債権回収を行い、メザニンレンダーはほとんど口出しできないことになります。この点に関して、メザニンレンダーは、債権者間協定書において、借入人(SPV)がデフォルトした際にシニアレンダーからシニアローンを買い取ることができる権利を定めるように要求してくるのが一般的です(メザニンレンダーはシニアローンを買い取ることによって、シニアローンとメザニンローンを一括して回収するために担保権を行使できるようになります)。